4
非現実的な化け物の出現にマツリの体がこわばる。デジャブだ。こいつを知ってる。そう直感した体が、無意識に震えた。
一方で楓は意外そうにメグの化け物を見つめた。その瞳に恐怖は
「……マツリから離れろ」
「へー……」
楓は再びニタリと笑った。その間、メグはマツリを一回たりとも見ようとしなかったが、マツリは瞬きも忘れてメグの顔を見続けていた。
「じゃあさ、メグ。賭けてよ」
楓が高い声で
「……?」
「メグが私に負けたら、メグの左手でマツリを殺しなさいよ」
「……はぁ?」
メグの眉間に深いしわがよる。
嫌悪。嫌悪。嫌悪。それだけが、空気を染める。
「あんたなんか、大ッ嫌い」
「……俺もだ」
恐ろしい殺気を放って睨むメグとは対照的に、楓の笑った顔が怖かった。
「あっち行ってろマツリ」
マツリの方をちらりとも見ずにメグが言うと、彼女はずるりと体を引きずって立ち上がった。そして、言われた通りにぐらぐらする頭を抑えつけながら楓から離れ、あの世界の端っこに
その瞬間、楓の化け物が現われた。
ボッ!!!
「ッ!」
マツリは眼を見開いて絶句した。
眼に映ったのは、白い『人』。頭に身体、手と足がある。けれど、それは人ならざるものだった。つぶれた眼に真っ赤な口を携えて唐突に発現した『化け物』だった。
「ブォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!」
「……!」
楓の化け物とメグの化け物。突然二つの化け物が向き合って叫んだ。その共鳴が、マツリの体を駆ける。
ずる……
楓の化け物がメグのほうに向かってゆっくりと動き出した。まるで足首から下がもげていて、歩く度に激しい痛みに襲われているかのように、呻きながら足をすり、ゆっくりとメグに近寄った。
それはどう見ても、おぞましい化け物の進行だった。
ゆっくり、ぐわっと口を開く。赤い口内に揃った白い牙が映える、『嫌悪』を食べるその口は、ほとんど身体ごと倒れてくる形でメグに襲いかかった。
「うお!」
メグが飛んで避ける。だが、すかさず化け物の手がメグの方へと伸びた。
「食べちゃえ!」
楓が叫ぶ。その瞬間、伸びてきた化け物の手から突然新たな口が発生し、
「うっ!」
よけ切れない。
――ブシュ!
嫌な音がした。
「っあ!!」
赤い血が舞った。マツリの眼が見開かれ、表情が歪む。
「くっ……!」
メグは噛みつかれたその肩を思いっきり引き抜いた。反動で皮膚が破れて、さらに血が噴き出す。赤い
「いってぇな……!」
メグは強がった笑顔を保っていたが、額には汗が噴き出していた。
「あははっ!」
楓が笑った。心底楽しそうに。
「……メ……ッ――」
マツリは思わずメグの名前を呼びかけた。
けれど「メグ」と言い切ると、また頭がぐらつく予感がして、最後まで言えなかった。
「大人しくアイツの所に帰れ!」
メグが吠えた。
「そんな状況でよく命令できるわね!」
楓も叫ぶ。顔は笑ったまま。
ボォ……!
いっそう激しく、燃えるように化け物が揺れた。
「食べてあげる。その嫌悪も……」
まるで指示を出すように、楓がばっと手を振り回す。
「アンタもッ!!!」
「ブォオォォ……!」
化け物が楓の言葉に呼応するように勢いよく迫りくる。メグは避けようと後ずさりをしたが、非情にも後ろはもう壁だった。
「……ッ」
逃げ切れない。
ぐわりと化け物の真っ赤な口が開き、メグの顔に白い影がかかる。
マツリは思わず頭を掴んでいた手を離した。
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