3
メグは本当に呪われているのか?
その質問は、あまりに唐突。椎名は微笑みを崩さず首を傾げた。
「……どうして?」
「呪われた手の噂、聞いたことありますか……?」
「ま、それなりに」
椎名はにこっと笑った。
――
いづみは目を細める。
「私、今日、屋上で白い大きな影見ました」
椎名が笑顔を消した。
「それ、もしかして、メグだったのかもしれない」
「…………」
明らかに変わった椎名の目の色を、リョウは腕を頭の後ろに回したまま無言で見つめる。
「呪われた手で触れられたら、よく分からないけれどみんな傷ついてしまうって言われてる。それが、マツリを傷つけてしまったんじゃないのかな……」
いづみが独り言のようにそう言うと、椎名は笑った。
「オカルト、だね」
「……」
いづみは黙る。それは正論だからだ。馬鹿なことを言っているって分かっていた。
「知ってるんでしょ先生」
言葉が、二人の空気を
「……何を?」
椎名は笑ったまま、首を傾げた。
「知ってるんでしょ、先生。メグのその白い影のこともさぁ」
ギシッ……
リョウが長い腕を
「マツリのことも。メグのその、手のこともさ」
美人が
椎名がごくりと、わずかに息を飲む。そしてその一瞬の
「『呪われた手』っていうのはね。メグの手の中の化け物のことだよ」
「……ば、けもの?」
いづみが言葉を疑う。しかしリョウは表情一つ変えず、保健医の言葉を待った。
「例え話……くらいに取ってもらってもいいよ。そもそも深くは言えないしね。極秘事項だから」
「国光の?」
リョウがすかさず問うと、椎名は一瞬驚いたが、すぐに無言で胡散臭い笑顔を作った。
「マツリがおかしくなったのは、国光の男が転入生の入学手続きに来た日から。うちの学校でのメグの特別扱いを見ても、メグが国光と関わりがあるのは明白じゃん」
なに、それ、という顔でいづみはリョウを見た。いきなりスケールの大きな話になった。――国光? そんな組織と、メグが噛んでいる? 全然想像できない。
「さぁねぇ」
椎名ははぐらかすように笑ったが、言葉を続けた。
「ただ。呪われた人間に関わった人は、みんな、壊れてしまうんだよ」
「……壊れる……って……」
ぞっとした。いづみは顔をしかめ、ミラー越しの椎名の瞳を見つめた。
「メグは、いろんなものを……一番壊してきた人間だけど」
いづみの瞳から目を逸らし、椎名は信号を睨む。
「メグがそれを壊そうと思って壊したかは、また、別の話だ」
青。車が発信する。
「……誰を、壊したんですか……。メグは」
聞くのが怖かった。けれど、聞かざるを得なかった。
「みんなって、誰……?」
椎名はゆっくり息を吸って、吐き出すように答えた。
「家族だよ」
「かぞ……く?」
「メグは、一番初めに、自分の家族を壊してしまった」
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