「傑作ねっ」


 明るい髪を揺らしながら、フェンスにごしに空を見る。そんなメグの後頭部に声が投げかけられた。

 耳にさわる声だ。メグは振り向かない。楓はそれでも構わず、投げ続ける。

「あの子も、例外にはならなかった」

 はっきりと告げる。

「呪われてるのよ」

 メグがぎゅっとフェンスを握りしめる。軋んで嫌な音がする。

「嫌われてるのよ。私達」

「…………」

「ブラックカルテに関わった人間は、みーんな壊れちゃうのよ」


「……ッ……うっせぇんだよお前ッ!」


 バッと勢いよくメグが振り向き、堪えられなくなった感情を乱暴に投げ返した。

 その瞬間。楓が不気味な表情で、にぃっと笑った。


 ボッ……!


「――――――!!」


 ――彼女の変異は、そんなもんじゃねぇよ。

 椎名の言葉が脳内フラッシュバック。

「……なッ……!」

 冗談みたいに体がこわばった。

「あははっ」

 全身から爆発したように発現した白い煙幕。それが巨大な影を成す。

 華奢な彼女よりひとまわり大きな、人のかたち輪郭りんかくだけをいびつになぞったような。そんな化け物が彼女の体全体から発生し、ふわりと体を離れ自立した。その目は例外なく潰れており、体は白い。ブラックカルテの、化け物だ。

「ッ……ありかよこんなの……ッ!」

 メグは思わず声を漏らした。

 それはメグの手から離れないアイツなんかより大きくて、自由を握り締めていた。

「私はね、メグ」

 楓が口を開く。うっすらと口角こうかくを上げ、笑いながら。

「あんたのこと、聞いた時から、だぁっい嫌いなの」

 ねっとりとした言い方。神経を逆なでするような。

「ヌメロウーノだかなんだか知らないけど、ひとりだけにいなくても良いなんて、許せない」

「……てめぇ、あそこを知って……――」

「喰ってやるんだから!」

「!」

 メグの言葉を、許さない。


 ドガッ……!


 間一髪かんいっぱつ

 膨れ上がった楓の化け物が振り下ろした拳を避けた。

「なんつー怪力だよ……っ」

 メグの足元のコンクリートがえぐられた。

「ギャガヤガガギャギャギャガッヤ……!」

 耳障りでおぞましい声がビリビリと空気を揺らす。メグは顔をしかめた。

「笑ってんのか叫んでんのかも分かんねぇよ……!」

「あははははっ」

 メグの頬に汗が伝う。その姿を見て楓は可笑しそうに笑った。



 ――同刻

「……へ?」

 おぞましい声が聞こえた気がして、グラウンドから空を見上げたいづみが呟いた。

「……なに、あれ」

 白く、揺れる、何かが見えた。

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