6
「なんか用かー」
呼んでもいない客に対し、お決まりのバーボンを片手に彼は呟いた。
「……用がなきゃ来ちゃいけねぇのか」
「用件があるから来たんだろ」
客、もといメグは顔をしかめた。椎名はそっけなく髪をかき上げメグの言葉を待ったが、なかなか言葉を紡がないメグにしびれを切らしてため息をついた。
「お前マツリに会った?」
「なんでだよ」
「んーいや、いいや。会ってないなら」
メグは首を傾げた。
「そんなことより、別のことで頭いっぱいみたいだしな」
それは今のメグを見透かした言葉だった。
椎名は空になったグラスを机に置き、足を組んだ。白衣がゆらりとなびく。
「で? お前の話は?」
少し鋭い目つきでメグを見る。メグは
「……この間、国光が来ただろ。あいつら……何しに来やがったんだ」
「俺に聞く?」
椎名は少し困ったように笑う。
「当たり前だろ」
メグは睨むようにそんな椎名を見据えた。
「お前が国光に噛んでねぇわけねえ。そうじゃねぇと言われたって、そんなの
「あーまぁね」
「
「あー、まぁね」
椎名はあからさまに不愉快そうに苦笑いをしたのだが、俯いたメグはその表情には気付かない。
「……あいつ……――あの男。なんでわざわざ学校になんか……」
メグの拳が震えている。
「
「……楓?」
「知らない? 転入生」
知るわけない。そんなこと。メグは眉を複雑に寄せた。
「ま、学校に来ない不良は知らないか。国光がらみのね、女の子が転校してきたんだよ」
「……それ――」
「その手続き」
「だからって、なんでアイツがそんなことためだけに……ッ!」
憎しみにも似た感情が、声を荒らげたメグの瞳に灯った。
「さぁー?」
椎名はそんな炎を見て見ぬふりをし、まるでからかうように意地悪く
「息子の顔でも拝みにきたんじゃないの?」
曇天から。雨空へ。雨空は、雷雲へ。
***
ガラガラガラガラガラ……ッ。
雨音。遠雷と輝く空。
マツリは大きな音で正気に戻る。目が覚めた、ともいう。
「……雷……」
薄暗い天井を見つめながら呟く。いつのまにか、暗い工場跡で背中を地面に押し付け、仰向けになっていた。
気持ちがいい。冷たい床も。雨音も。
けれど同時に、湧き上がる正体不明な嫌悪感にマツリの喉が突き上げられた。
「嫌い……」
感情によって小さく弾き出された言葉を呟いて、マツリは起き上がった。気がつけば、眠っていたらしい。此処で、一晩も。
マツリは冷えた肩を抱いた。
この日、学校には、行けなかった。
会いたくないから。
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