4
「お前んち、どこだよ」
結構歩いたけれどまだ着かない。
「もう、そこだよ。そこ、曲がってすぐ」
「マンションか?」
「
「……独りで?」
「そうだよ」
さらっと答えるマツリをメグは黙って見つめた。
そこは普通の一軒家だった。新しいわけでも古いわけでも小さいわけでも大きいわけでもない、普通の家。
「あがってく?」
「はぁ!?」
――なに、その反応。
「……だって、せっかくだから」
「おま……ッ。ばっかじゃねぇのか?!」
「何が」
「お前、そう簡単に男を家に招き入れんなよ!」
仮にも一度押し倒されている男を。
「何。最近はたたないんでしょ」
「そういう話してねぇだろ!」
叫ぶ。
「いいよ。コーヒーくらいはあるから」
結局、彼は押し切られてしまった。
――寂しすぎると思った。
二階建ての一軒家。この家は、独りで暮らすには広すぎる。足を踏み入れた瞬間、メグはそう感じた。
「はい」
テーブルにアイスコーヒーが置かれる。
「ずっと、独りなのか」
「ううん。小学校卒業までは、父方のおじいちゃんがいてくれてた」
そうなると、もう四、五年間は此処で独り暮らしということになる。
「リ……――」
「あ?」
マツリがなにか言いかけてやめたので、メグは
「……リョウ、も。メグは、怖がらせたいって思う?」
マツリはメグの眼をきちんと見れず、アイスコーヒーに映る電光を目で追いながら問いかけた。
「私にしたみたいに」
「……? あーいや。別に、もうそんなことは思わねぇな」
思い出したかのようにメグが言って、コーヒーを飲んだ。
「変わったね。メグ」
「そうだな」
彼は素直に肯定した。
「お前と会った頃は、ちょうどあのうっとおしい集団に目をつけられてて、そうとう暴れてたからな。正直、最初はお前も俺にちょっかいかけてくるやつの仲間だと思ってた」
それであの攻撃的な態度だったのか、と納得した。
「もう喧嘩とか、しないの?」
「しねぇよ最近は。あれ以来売られねぇし」
「ふーん」
「……んだよ」
「ううん」
作ったようなこの会話になんだか違和感を感じ、メグは首を傾げる。
「なんか……リョウのことやたら気にするな。マツリ」
***
「鈍感なんじゃなーい?」
翌日の、五限目の始業ベルが鳴る頃。可愛らしいことに相談にやってきたメグを、椎名が鼻で笑って
「……んだよ」
「お前、恋愛経験ゼロだろ」
言い返す言葉はないが、頷くのも
「お前、マツリが自分を怖がらないって分かった時、マツリにやたら構ったんじゃねぇ?」
思い当たる節しかない。頷かないけど。
「そんで今、以前のマツリのようにお前を
「……まぁな」
「お前、その子にも構ってんの?」
「はぁ? しねぇよ別に」
椎名はため息をついた。
「マツリがいきなりお前と距離を取ろうとしたのも、リョウって子のことを気にするのも、全部同じ理由だと思うぜ」
大ヒントを与えたつもりだったが、メグは眉を
「……どうでもいいけど、もうマツリに酒飲ますなよ」
それだけ呟き、メグは保健室を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます