3
誰かのことで悩むのが、こんなに苦しいなんて知らなかった……。
帰り道を歩きながらマツリは思った。
それはいつも、多分、どこか人と向き合うことを諦めてたからだ。なんて、後悔にも似た気持ちに酔って、グラっとした。
――あぁさすが、一級品のバーボンは一味違いますね。
日光が作る濃い影を見ながら、それでも足を止めずにいると、自分の影が誰かの足もとにかかった。マツリが顔を上げると、そこにいたのは
「よぉ」
「……あ」
逃げたくって、じりっと足に力が入る。まだ、考えがまとまってない。
「メグ……どうして」
「マツリ。今日は、送ってやるよ」
「……う、うん」
有無を言わせぬ雰囲気だった。日の光で、メグが輝いているように見えた。
左隣を歩く彼はマツリを待っていてくれたようだったのに、しばらくの間無言だった。
「……メグはなんであそこにいたの」
「昼間から酒飲んでる奴を待ってたんだよ」
「えっ……」
驚く。何故、ばれたのか。
「ちょっとだけ、酒の匂いするぞ」
「……知らなかった」
あぁ、でもお酒って飲んだら匂いがするものだったな。と、母親を思い出し、マツリの心臓は少しだけ痛んだ。
「……椎名かよ」
「うん」
メグは眉間にしわを寄せた。呆れたような、怒ったような顔だった。
「ごめん。待ってたって、知らなくて」
「……んだよ。突き放したと思ったら、また普通にしやがって」
メグの言葉に心臓が揺れた。
いつものガードを、今日はメグと一緒に横目で通り過ぎる。
「無理にお前に関わろうとしてると思うか。俺」
マツリは黙った。
「……つーか、そんな、めんどくさいことする奴かよ? 俺」
納得がいかないらしい。
「だって……」
マツリは声が震えそうになるのを何とか
「私といたら、気を張りつめなくちゃいけないでしょう……?」
今だって、メグはマツリを左側に絶対置かない。そんなの、痛々しいほど気づいてるのだ。
「……まぁな」
否定をしない彼に、マツリはちくりとショックを受けた。
「だから……側にいられるのが、嫌なのかと思った」
「なんでそうなるんだよ」
「……手。払われたから」
「……、……」
メグは何か言おうと口を小さく開けたが、一度唇を結んで、それから低い声で呟いた。
「もし、あいつがまた出てきたら、どうすんだよ」
「……そんな配慮、今まで他の人にはしてないのに?」
責めるような言い方になってしまった。メグは少しだけ俯いた。
「……怖いんだよ」
呟くような小さな声。
「また、飛び出してくるのが?」
「……違う」
「?」
予定外の答えが返ってきて、マツリは少し目を丸くした。
「何が怖いの?」
メグは何も言わなかった。きっと、回答する気がないんだと察した。
「……そういえばさ」
「あ?」
突然話を変えられ、メグは呆気にとられた。このタイミングでのそれは、違和感でしかない。
「リョウと……、仲良くなれた?」
「リョウ? ㅤあー、あいつか」
頷く。
「仲良く……ってもんじゃねぇけど。まぁ、話くらいするかな」
「……良かったね。メグのこと、怖いって言わない人が、現われてくれて」
「おぉ」
素直なメグの言葉で、心に
「ねぇメグ。メグはどうして、私に関わるの?」
「はぁ?」
「私に関わるメリットなんて。もう、ないでしょう?」
「……んだそれ」
メグがあからさまに呆れた。
「もう怖がらないわけじゃないし、メグは気を張らなきゃいけないし。メリットないよ?」
「……お前はメリットを求めていづみといんのかよ」
「違うよ……」
否定。
「友達だから」
いづみを思う。
「好きだから」
心から思う。
「好きで一緒にいるんだよ」
「だろ」
メグは
「同じだ」
――この時、本当に耳が熱くって、困った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます