立ったままの脚が重く、痛かった。マツリは黙ってメグを見続けていた。メグが再び口を開くまで、しばらく沈黙が続いた。

「母さんは……。母さんは、そのまま集中治療室に入れられて、一命は取りとめた。傷は回復の見込みがあったけど、母さんの体力も、気力も。多分、間に合わなかったんだ」

「……亡くなったんだね」

 メグは辛そうな顔を隠さなかった。他人に言われて初めて、それが現実と悟ったような顔だった。

「あぁ……。そのまま。病気を重くして、死んじまった」

 マツリは黙った。メグは顔を歪め、呟く。

「母さんは、きっと俺自身を怖がったわけじゃないんだ」

「……?」

「俺が母さんを傷つけるだなんて、母さんは思うはずない……。だからきっとアイツに恐怖したんだ……」

 マツリは何も言わなかった。

「それでもあいつは母さんに反応した。だから……――」

 メグはやっと顔を上げ、マツリを見た。

「お前やっぱ、ありえねぇんだよ……」

「…………そう」

 今度はマツリがメグから目を背け、俯いた。

 ――メグが自分を傷つけると、母親が本当に思わなかったかは分からないじゃない。

 そう言いかけて、やめた。

「……メグは、優しいんだよね」

「あ?」

 マツリがもう一度メグの顔をしっかり見上げると、メグは驚いた顔をした。

「メグはやっぱり優しいから、今までそうやって、他人を突き放して生きてきたんだね」

 風が二人の髪をふわりと撫でると、マツリのった髪が揺れた。

「もしそれで自分が傷ついて、独りぼっちだと感じてしまっても。もう誰も、大切な人を傷つけるのは嫌だったんでしょう」


 長い沈黙があった。

 二人は見つめあったまま、お互いの瞳に灯る光の筋をを見ていた。


「……んで」

 メグが呆然とした顔で小さな声を唇かららし、うなだれた。

「なんでお前……――」

「え?」

「なんでお前……俺の前に現われたんだよ……っ」

 そして絞り出したみたいなかすれた声を、少女にぶつけたのだった。



 第3話 終

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