メグの言葉に、いづみは笑顔を凍らせた。

「………へ?」

「いいご親友様をお持ちだな。マツリ」

 メグがマツリにそう言うと、マツリは黙ってメグを見つめ返した。

「――……によ、それ」

「え?」

 いづみが何か言ったので、マツリは振り返った。

「なによ、それ」

「いづ……」

 ぎょっとした。俯いたいづみの声は一切怯えていない。むしろ、怒っていた。

「なんだ……。マツリに何言ってもメグと関わろうとするから。てっきりマツリもメグも、お互いを大切にできる関係なんだと思ってた」

「いづみ……。あの」

 マツリがいづみに近付く。けれどいづみは止まらない。

「だったらもう何も言うまいと思ってたけど。そうじゃないなら。言わしてもらうから!!」

 そう叫ぶと、彼女はばっと顔を上げた。その瞳は確実にメグを睨みつけている。

「もし本当にマツリを泣かしたら! あんたは、私が、泣かすからね!!」

「ちょ……いづみ……!」

 マツリは慌てた。こうなってしまっては手におえない。

「呪われた手だか脚だかしんないけど!! マツリのこと単なる肝っ玉女子高生だと思わないで!! 傷つけたりしたら、承知しないから!!!」

 メグも驚いていたのか、いなかったのか。あまり表情を変えずに、大きな瞳を何度も瞬かせた。

「以上!! マツリ! 帰るよ!」

 ぐいっとマツリの細い腕を掴んで、いづみはずかずか歩き出す。

「あ。いづみっ」

「苦情受付不可!」

「ええ?」

 すっごい切れてる。これは我を忘れてる。マツリがいづみに引きずられる形でメグを追い越した。その時だ。


 ぽん。


 メグがいきなりいづみの肩を軽く叩いた。というか、触れた。

「……何よ」

「いや。なんだよ。やっぱり、俺が怖いんじゃねぇか」

「怖いわよ」

 即答し、いづみが睨む。

「でも。友達が傷つけられることのほうが、私、嫌!」

 そして綺麗に啖呵たんかを切った。はっきりとした声で。メグはいづみの眼をじっと見つめ返し、数秒間二人は睨み合う形で見つめあった。……かと思うと、堪えられなくなったようにメグが突然笑った。

「……は! ははッ、傑作……お前ら……」

「……?」

 ケラケラと声を上げて笑い出したメグに、いづみはポカンとした。そんないづみをよそに、メグは笑いながらマツリに言う。

「マツリ。お前の友達も最高だな」

「うん。最高だよ」

 マツリは一切表情を変えず、肯定した。

「……何よ。笑うとこ!? 行こ! マツリ!」

 いづみは気味が悪くなったのか、再びマツリをひっぱって歩きだした。マツリは引きずられながら「いづみって、こんなに強い子だったっけ?」と首を傾げた。



「ああああああああああああああ!!!」


 ズガシャン!

 結構な音を立てていづみは机に突っ伏した。ファーストフード店、マクダニエルの一角。

「なあああんで私あんなこと言ったのかなああああああ……!? メグに喧嘩! メグに喧嘩!? 売ってどうすんのおおおおお」

「……いづみ」

「あああもう学校行けないかも……」

「いづみ、大丈夫だよ。メグにとってはむしろ好印象……」

「あれが!?」

 なんだそれ。いづみは眉を捻じ曲げてさらに理解に苦しんだ。

「うん。メグはさ。いつも無条件で怯えられて、腫れ物に触るように扱われてきたんだよね。だからきっと、メグはいづみがやったみたいに、普通に接してもらえるのは嬉しいことなんだと思う。だから、大丈夫だよ」

「ええ? そっかな……」

 いづみはマツリの言葉を咀嚼そしゃくしながら、考え込んだ。マツリはコクリと頷き、ハンバーガーに噛みつく。

「珍獣扱いされて、付きまとわれるかもしれないけど」

「は……?」

 なんだそりゃ。

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