7
メグの言葉に、いづみは笑顔を凍らせた。
「………へ?」
「いいご親友様をお持ちだな。マツリ」
メグがマツリにそう言うと、マツリは黙ってメグを見つめ返した。
「――……によ、それ」
「え?」
いづみが何か言ったので、マツリは振り返った。
「なによ、それ」
「いづ……」
ぎょっとした。俯いたいづみの声は一切怯えていない。むしろ、怒っていた。
「なんだ……。マツリに何言ってもメグと関わろうとするから。てっきりマツリもメグも、お互いを大切にできる関係なんだと思ってた」
「いづみ……。あの」
マツリがいづみに近付く。けれどいづみは止まらない。
「だったらもう何も言うまいと思ってたけど。そうじゃないなら。言わしてもらうから!!」
そう叫ぶと、彼女はばっと顔を上げた。その瞳は確実にメグを睨みつけている。
「もし本当にマツリを泣かしたら! あんたは、私が、泣かすからね!!」
「ちょ……いづみ……!」
マツリは慌てた。こうなってしまっては手におえない。
「呪われた手だか脚だかしんないけど!! マツリのこと単なる肝っ玉女子高生だと思わないで!! 傷つけたりしたら、承知しないから!!!」
メグも驚いていたのか、いなかったのか。あまり表情を変えずに、大きな瞳を何度も瞬かせた。
「以上!! マツリ! 帰るよ!」
ぐいっとマツリの細い腕を掴んで、いづみはずかずか歩き出す。
「あ。いづみっ」
「苦情受付不可!」
「ええ?」
すっごい切れてる。これは我を忘れてる。マツリがいづみに引きずられる形でメグを追い越した。その時だ。
ぽん。
メグがいきなりいづみの肩を軽く叩いた。というか、触れた。
「……何よ」
「いや。なんだよ。やっぱり、俺が怖いんじゃねぇか」
「怖いわよ」
即答し、いづみが睨む。
「でも。友達が傷つけられることのほうが、私、嫌!」
そして綺麗に
「……は! ははッ、傑作……お前ら……」
「……?」
ケラケラと声を上げて笑い出したメグに、いづみはポカンとした。そんないづみをよそに、メグは笑いながらマツリに言う。
「マツリ。お前の友達も最高だな」
「うん。最高だよ」
マツリは一切表情を変えず、肯定した。
「……何よ。笑うとこ!? 行こ! マツリ!」
いづみは気味が悪くなったのか、再びマツリをひっぱって歩きだした。マツリは引きずられながら「いづみって、こんなに強い子だったっけ?」と首を傾げた。
「ああああああああああああああ!!!」
ズガシャン!
結構な音を立てていづみは机に突っ伏した。ファーストフード店、マクダニエルの一角。
「なあああんで私あんなこと言ったのかなああああああ……!? メグに喧嘩! メグに喧嘩!? 売ってどうすんのおおおおお」
「……いづみ」
「あああもう学校行けないかも……」
「いづみ、大丈夫だよ。メグにとってはむしろ好印象……」
「あれが!?」
なんだそれ。いづみは眉を捻じ曲げてさらに理解に苦しんだ。
「うん。メグはさ。いつも無条件で怯えられて、腫れ物に触るように扱われてきたんだよね。だからきっと、メグはいづみがやったみたいに、普通に接してもらえるのは嬉しいことなんだと思う。だから、大丈夫だよ」
「ええ? そっかな……」
いづみはマツリの言葉を
「珍獣扱いされて、付きまとわれるかもしれないけど」
「は……?」
なんだそりゃ。
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