7
「マツリ!!」
いづみが荷物を取りに教室に戻ってきたマツリを見るなり、がばっと彼女を抱きしめた。午後の授業に戻ってこなかったマツリを心底心配していたらしい。もう六時間目は終わっていたのだが、部活にも行かず待っていてくれたようだ。
「大丈夫!? 何もされてない!? 無事? ってなにこの血!?」
「いづみ」
確認に確認を続けるいづみを制しながら、マツリは冷静に言った。
「大丈夫だから」
「ほんとに!?」
「うん」
いづみはほっと胸を撫でおろし、ため息をついた。
「でも、何の用だったの? あいつ」
「んー?」
帰る支度をしながら生返事を返す。
「……傷つけたかったんだって」
「へ? ……マツリを!?」
「うん」
「なんでまた!?」
「わかんない。つまりは私を怖がらせたかったみたい」
「????」
「珍獣に対する興味みたいなの抱かれた」
「なんじゃそら」
改めてため息。
「ま、無事なら良いけど」
いづみは複雑そうに笑った。マツリも小さく笑顔を返し、「ありがとう」と言った。
マツリは部活に行くと言ういづみに別れを告げ、西日が眩しい帰り道を一人歩きながら、今日起きたこと、メグのこと、化け物のことを思い返した。けれどあまりに現実味がなく、何の感情も湧いてこなかった。
「恐怖……ね」
そして小さく呟いた。
***
日は沈み、夜が来る。繁華街の明かりが
再開発や改築を諦められた古い繁華街の跡地。
その場所は繁華街から少し離れており、喧騒や明るさからは隔離されていた。
今この国には、首都であってもそういった廃ビル群地区がいくつか存在している。そのほとんどがギャングなどの悪党や、密入国者たちの巣窟になっており、今日メグに突っかかってきた
「でぇ?」
がなり声がむき出しのコンクリートに響く。
「その、メグっつー野郎は、つかまるのか?」
その男はくちゃくちゃとガムを噛みながら、ふんぞり返るように椅子に座っていた。
彼に向き合うように、立ち尽くすストリートギャング達。座る男のガタイや態度から、彼がこのチームのボスらしいことはすぐに分かる。
「いっや、まだ……」
腕に包帯を巻いた男――今日最初にナイフを持ってメグに向かっていった彼が口ごもった。
「やる気あんのかよ。明日にでも捕まえてこいや」
「す……すいません」
萎縮し頭を下げる。昼間、自分たちが見たものを話さないのは、信じてもらえないと理解しているからだ。彼らだって、何を言っても言い訳になり、怒られることくらい分かる賢さは持っていた。
「はっは」
ボス格の男は小気味よく笑い、椅子から立ち上がった。
「久しぶりに、
そう言ってギラつかせたその瞳には、凶暴な闘争心の炎が灯っていた。
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