「マツリ!!」

 いづみが荷物を取りに教室に戻ってきたマツリを見るなり、がばっと彼女を抱きしめた。午後の授業に戻ってこなかったマツリを心底心配していたらしい。もう六時間目は終わっていたのだが、部活にも行かず待っていてくれたようだ。

「大丈夫!? 何もされてない!? 無事? ってなにこの血!?」

「いづみ」

 確認に確認を続けるいづみを制しながら、マツリは冷静に言った。

「大丈夫だから」

「ほんとに!?」

「うん」

 いづみはほっと胸を撫でおろし、ため息をついた。

「でも、何の用だったの? あいつ」

「んー?」

 帰る支度をしながら生返事を返す。

「……傷つけたかったんだって」

「へ? ……マツリを!?」

「うん」

「なんでまた!?」

「わかんない。つまりは私を怖がらせたかったみたい」

「????」

「珍獣に対する興味みたいなの抱かれた」

「なんじゃそら」

 改めてため息。

「ま、無事なら良いけど」

 いづみは複雑そうに笑った。マツリも小さく笑顔を返し、「ありがとう」と言った。


 マツリは部活に行くと言ういづみに別れを告げ、西日が眩しい帰り道を一人歩きながら、今日起きたこと、メグのこと、化け物のことを思い返した。けれどあまりに現実味がなく、何の感情も湧いてこなかった。

「恐怖……ね」

 そして小さく呟いた。


 ***


 日は沈み、夜が来る。繁華街の明かりがまばゆい時間だ。


 再開発や改築を諦められた古い繁華街の跡地。

 その場所は繁華街から少し離れており、喧騒や明るさからは隔離されていた。

 今この国には、首都であってもそういった廃ビル群地区がいくつか存在している。そのほとんどがギャングなどの悪党や、密入国者たちの巣窟になっており、今日メグに突っかかってきたくだんのギャング達がたむろしている場所もそんな旧繁華街の廃ビルだった。


「でぇ?」

 がなり声がむき出しのコンクリートに響く。

「その、メグっつー野郎は、つかまるのか?」

 その男はくちゃくちゃとガムを噛みながら、ふんぞり返るように椅子に座っていた。

 彼に向き合うように、立ち尽くすストリートギャング達。座る男のガタイや態度から、彼がこのチームのボスらしいことはすぐに分かる。

「いっや、まだ……」

 腕に包帯を巻いた男――今日最初にナイフを持ってメグに向かっていった彼が口ごもった。

「やる気あんのかよ。明日にでも捕まえてこいや」

「す……すいません」

 萎縮し頭を下げる。昼間、自分たちが見たものを話さないのは、信じてもらえないと理解しているからだ。彼らだって、何を言っても言い訳になり、怒られることくらい分かる賢さは持っていた。

「はっは」

 ボス格の男は小気味よく笑い、椅子から立ち上がった。

「久しぶりに、うずくぜぇ。一対五で、喧嘩に勝てるような猛者もされるなんてよぉ」


 そう言ってギラつかせたその瞳には、凶暴な闘争心の炎が灯っていた。

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