第11話「わたしはアイドル」(1)

        1


 アイドルリーグ予選結果発表


1位  氷室エル(エンパイア・プロダクション)

    20勝0敗

1位  ファウ・リィ・リンクス(レッドフロント)

    20勝0敗

3位  夢野姫華ゆめのひめか(ドリプロ)

    18勝2敗

4位  生駒サリエ(エンパイア・プロダクション)

    17勝3敗

4位  毒島ぶすじまノーラ(ルシフェル)

    17勝3敗

4位  戸坂詩音とさかしおん(私立ベルセルク女学院スクールアイドル部)

    17勝3敗

7位  逢坂万里(エンパイア・プロダクション)

    16勝3敗1分

7位  草薙さなぎ(エンパイア・プロダクション)

    16勝4敗

7位  伊能アルタ(スカイフォーチュン)

    16勝4敗

7位  柩山ギリコ(Heart Under Grave)

    16勝4敗

11位 七月めぐる(エンパイア・プロダクション)

    15勝5敗

11位 大京橋リュウカ(刻霊會)

    15勝5敗


 以上12名、決戦トーナメント進出




「まずは、予選リーグ全勝突破おめでとうございます」

「ありがとうございます」


「予選では当たらなかった強豪アイドルとのステージが控えているわけですが……。対策は万全、といったところでしょうか?」

「これまでもそうでしたが、楽なステージは一つも無いと思います。ただ、つまらないステージにするつもりはありませんので、期待していてください」


「多くのファンも気になっている所だと思いますが、正直な所、アイドルエフェクトの解禁はあるのでしょうか? 既に会得している、という噂も出ていますが」

「もし会得していたとしても、効果的なタイミングで披露するために温存する可能性が高いですね。なので、この場で有り無しをハッキリ言うことはできません。そこは本番をお楽しみに、ということで」

「なるほど」

「……という風に言っとけと、コーチが言ってました」


 記者が思わず噴き出す。

 遠目に見ていたアキラも、「日本語がこなれてきたなあ」と感心するばかりだ。


 予選全勝という華々しい結果を残し、もはやファウの実力を疑う者はいなかった。話題性では七月めぐるが最先端を走っていたが、それ故に因縁の相手としても、再注目を集める形となっていた。


 決戦を前にしてひっきりなしにやってくる取材をようやく片付け、ファウはトレーニングを開始した。

 記者陣には雄弁に語ってみせたファウであったが、それもファンサービスの側面が強い。内心では、強者達との連戦に向けての焦りがあった。

 果たして、今の自分の力で彼女達に対抗しうるのか?


 ファウはそっと目を閉じると、これまでの戦いの記憶を思い起こした。



        2


 アイドルリーグ予選、第1戦の相手は虎鋏とらばさみるるか。罠設置型のアイドルエフェクト、《ハニートラップ》の使い手だ。ベテランアイドルとして安定した実力を見せるも、ファウは巧みなフェイントにより逆に罠へと誘導、動きを封じて勝ちを拾った。策士策に溺れる、を体現するかのようなステージであった。


 第2戦の相手は東雲流、東雲叢雲。体術のセンスはある意味ファウ以上であり、大きく苦戦を強いられた。さらに叢雲は姿を消す能力、《神の見えざる手》を発動。これは突発的な暴走であったが、ファウは敢えてそれを正面から打ち破ることを選択する。アイドルとしてステージに立つ、その意義をファウは改めて認識した。


 第3戦の相手は愛染透あいぜんとおる。ヒットアンドアウェイを信条とするアウトボクサーだ。両者壮絶な打ち合いとなるも、ダメージコントロールに長けたファウに軍配が上がった。


 第4戦の相手は柔道家、浅間涼子。固有の能力こそ持ち合わせていないものの、オーラの扱いに長け、当身、投げともに高い威力を誇っていた。ファウも負けじとオーラを利用した受け流しの技術を駆使。突発的に放った巴投げが起死回生の一手となった。


 第5戦の相手は戦わないアイドル、倉橋綾羽。引き分け狙いの綾羽に対し、ファウはステージ上で物語を表現し、その世界に引きずり込んだ。アイドルのステージに新たな可能性を示した一戦だった。


 第6戦の相手は地下アイドル、眞野リリア。カポエイラ使いだと標榜していたが、ファウはひと目でそれを見様見真似の我流であると看破する。しかし、リリアがそのスタイルにかける熱い想いは本物であると感じ、全力をもってそれに応えた。


 第7戦の相手はお笑いアイドル、撥条ヶ崎ばねがさきぽよ代。ファウは自分のペースを意識するあまり、天然で《ボケ殺し》を発揮してしまう。勝つには勝ったが会場は底冷え。多くの課題を残すことになった。


 第8戦の相手は剣道、兎塚とつかつるぎ。アイドルエフェクト《ラビットハート》による瞬発力に終始押されることになる。が、得意の先読みと誘導、そして最後は長年の経験に裏打ちされた『勘』でカウンターを決め、辛くも逆転した。


 第9戦の相手はルチャドーラ、シンディ宮間。ギリコや綾羽との合同イベントで対空戦の感覚を掴んだファウは、シンディの空中殺法を封殺することに成功する。しかしシンディは地上戦においても高い技術を遺憾なく発揮し、ファウを追い詰める。地道に脚へのダメージを蓄積させ、結果的にはそれが勝因となったが、ファウ達は目算の甘さを痛感することとなった。


 第10戦の相手は櫛屋くしやカルラ。その能力、《フェザービート》は、無数の羽根により衝撃を吸収する、防御特化型アイドルエフェクトだ。決定打に欠けるファウはあえてスピードを捨て、流れるような動きでカルラを捉える。決着は発勁による一撃であった。


 第11戦の相手は七月めぐる。禍根を残した相手との再戦ということもあり、ファウのモチベーションは上がっていたが、相手の欠場による不戦勝となってしまった。


 第12戦の相手はRAMYラミー。その音を操る能力、《サウザンド・サウンズ》はアイドルの歌にさえ干渉する力があり、攻撃のリズムを狂わされたファウは大苦戦する。最終的には格闘技の地力で押し勝つ形となったが、ファウにとっては不本意な出来であった。


 第13戦の相手は殺人空手を謳う地下アイドル、梶原星夢かじわらせいむ。反則ギリギリのラフファイトを常とし狂人と名高いアイドルだが、その実は計算され尽くした自己プロデュースを仕掛ける、一流のパフォーマーであった。己が目指すべきアイドルとは何か――。激闘を通じ、ファウの心に一石を投じた相手であった。


 第14戦の相手は地下アイドルの大御所、大京橋リュウカ。盤外戦を仕掛けられるも、ことそういった荒事に関してはファウの方が何枚も上手であった。改めてステージ上のフェアな勝負が始まると、今度は普通にファウの方が苦しい戦いとなった。盤外戦においてリュウカが自爆し負傷していなければ、普通に負けていたかもしれないステージであった。


 第15戦の相手は野々原那々美ののはらななみ。合気道の使い手だ。現実の合気道はオカルトまがいのショービジネスと化して久しく、理想とすべき武道としての合気道はアイドルのステージ上にしか存在し得ない――。そんな那々美の葛藤に触れ、ファウはアイドルもまた道であると確信を得る。心を重ねることで那々美の合気を返し、決着の一撃へと繋がった。


 第16戦の相手はEXIAの草薙さなぎ。植物を操る《プランテーション》により森を形成、ファウの動きを封じようとした。しかしそのフィールドは逆にファウの狩人としてのテンションを呼び起こしてしまう。己の不利を悟ったさなぎは能力を解除。正面切っての泥仕合へと突入した。素のパワーに押されたものの、これまでに培った対パワーファイター戦法が功を奏し、ギリギリでファウが押し勝った。


 第17戦の相手は同じくEXIAの生駒サリエ。その能力は、架空のアイドルを具象化し連携して戦う《ヴァーチャル・ガール》。次々と戦闘スタイルを切り替えてくる『もうひとりの敵』に、ファウも翻弄されてしまう。しかしサリエと連携する以上、うまく機能するスタイルは限られていることに気付き、反撃に転じる。最後はスタイル切替時のラグを利用し、一気に畳み掛け勝利を収めた。


 第18戦の相手は夢野姫華ゆめのひめか。無名事務所の新人ながら、全勝のエルとファウに続く高勝率を誇るダークホースだ。アイドルエフェクトは《ロード・トゥ・ドリーム》。単純にパンチの威力を底上げするだけの能力だが、シンプル故に厄介でもあった。また、格闘経験こそファウの方が上ではあったが、姫華は高い学習・適応力を持ち合わせており、ステージの中で恐るべき成長を見せファウに肉薄していった。それに対しファウは意図的に『誤った学習』をさせることで隙を作り、勝負を決めた。


 第19戦の相手はEXIAの江藤ミミ。威力・範囲・応用性とどれを取っても一級品の爆破能力、《スウィーツランド》を前に、ファウは奇襲奇策で対抗する。ボロボロになりながらも、相手の能力の穴を突き包囲網を突破、見事な逆転勝ちを決めた。


 第20戦の相手は地下アイドル、毒島ぶすじまノーラ。そのアイドルエフェクト《沈黙の春》の特性は『毒』。視界と呼吸を封じられた上、毒手によるダメージを受けたファウは圧倒的窮地に立たされる。それでも諦めずステージに立ち続けた結果、奇跡的な速度で耐性を獲得。たまたま地球育ちだったため毒に強く勝ちを拾えた、と反省するファウだったが、アキラは「その運を勝利に繋げられるかどうかが大事だ」と諭したのだった。



 一つとして楽なステージは無かった。だが苦しいばかりでもなかった。それぞれの想いをぶつけ合い、かけがえのない大切なものを手に入れた。


 とはいえ、これまでの戦いの記憶からは、決戦に向けての秘策の糸口を掴むことは出来なかった。

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