第2話「負けないアイドル」(2)
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昼食を終え、アキラはいよいよ本題に入る事にした。
「アンタをここに連れてきた、この糸目の女についてだけど」
携帯にて、御鏡リアの画像を出して見せる。
「ん。色々仕切っていた女だ。昨晩も、顔合わせは早い方がいいと」
「えっと、話をまとめると……」
ミサが眉間にシワを寄せる。
「リアさんは、お姉ちゃんにトレーナーを頼みたい、と。で、それはリアさんのトコ……エンプロの子じゃあなくて、このファウちゃんの事だった……?」
「まあ、そういう事になるよな……」
昨晩のリアの言い様とも矛盾はないが、どうにも受け入れがたい展開だった。
アキラは頭の中を整理する。
(あいつの目的……。なんだ…? あたしにトレーナーをやらせること……自分トコの脅威になり得るアイドルを育てさせること……)
あらゆる可能性を模索する。それらはまだ憶測でしかなかったが、やがて一つの点に繋がっていく。
「アイドルリーグ、か」
「どういうこと?」
「業界全体を巻き込んだリーグ設立……って言ったって、世間の見立てじゃエンプロ一強。さらに言えば氷室エル一択だ。そこに、エンプロの若手を一蹴した大型新人の登場……」
姉妹の視線がファウに集中する。ファウも、おおよその意図を解した様子だ。
「さらに、そのトレーナーにあたしが付くとなれば、かつての黄金時代の再来ってことで、宣伝にもインパクトが出るって腹積もりさ」
「なるほど」
ミサが腕組みし、感心したように頷く。
「確かに、ファウちゃんの挑戦状はインパクトあったもんねー。ネット見たけど、なかなかの大荒れの大炎上だったよ」
と、そこでファウが意外そうに言った。
「挑戦……なに? 何か荒れたのか?」
「あ、いや。だから昨日のファウちゃんのインタビュー」
「そりゃまあ、エンプロ一強の状態を快く思ってない奴らも結構いるから、そういうのには大ウケだったっぽいけどな」
アキラが茶化すようにフォローする。
が、当のファウはますます困惑した面持ちだ。
「よくわからない。私が言った言葉、変だったのか?」
「いや、変じゃないけど……」
どうにも噛み合わない。
ファウの様子を見て、ミサの方は何かを察したようだ。
「……ねえ、ファウちゃん。昨日のインタビューだけどさ。誰かに、そう言えって言われた?」
その一言に、アキラもハッとする。
「言葉は直してもらった。インタビューの前、変なことにならない様に、言いたいことをまとめて、確認をもらった」
「この女に……?」
「そうだ」
あまりに自然な会話が出来ていたので、姉妹は特に何も思っていなかったが……。言われてみればそうだ。慣れない言葉がちゃんと通じているのか、一人の少女が自信を持てずにいるというのも、無理からぬ事だ。
ミサが沈黙を破る。
「それじゃあさ……。あの時言いたかったこと、もう一度言えるかな? えっと、『これがアイドルか?』だっけ。変でもいいから、今度は、自分の言葉で」
ファウは少し思案した後、丁寧にそれに答えた。
「アイドルは初めてだったから、あれで……これで、正しくできたかわからない」
「私は、アイドルになるために、ここへ来た。ここへ来れば、アイドルがわかると言われて、来た」
「試合では、よくわからなかった。私は夢中だった。新しい、知らないことがいっぱいで……どきどきした」
「もっとアイドルを、アイドルの、ことを? 教えてほしい。知りたい」
アキラの中で、全てが腑に落ちた。ほとんど直す必要などない。淀みのない言葉だ。
同時に、沸々と怒りがこみ上げてきた。いくらなんでも、これはやりすぎだ。
(あの野郎……!)
しかし殴り込みに行こうにも、今日はどうしようもない。
深く息を吐き、ひとまずもっとファウに話を聞いてみることにした。
「……ファウちゃんの所属、レッドフロントってなってるけど、検索に出てこないね」
「ペーパーだかダミーだか……もしくは新しく作る予定なのか……」
「事務所のことなら、あの女が言っていた。『トレーナーに聞けばわかる』と」
「あたしに?」
意外な言葉が飛び出した。そんな事を言われても、アキラにはまるで心当たりがない。
しかし、何かしらの意味はあるはずだ。
「レッドフロント……レッド……赤……前……」
「……あ、」
少し考えた後、パズルは解けた。
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