出会ったのは

 雷撃が地面を砕く。一瞬前まで其処に居た者はすでに前方へ向けて逃げ去っており、しかし地面の砕かれる音は回避した者に僅かな恐怖を与えていた。

 追う者は5人。逃げる者は2人。しかしながら、襲撃者も逃亡者も少々特殊な……しかし、この地域においてはごく当たり前の姿をしている者が多数だった。

 その「逃げる2人」のうちの1人、金髪を真ん中分けにした男が叫ぶ。


「おいおいおい、大丈夫かこれ! 連中、本気じゃねーか!」

「当然だろ! 彼等にとっては僕達は逃亡者で裏切り者だ! ついでに君は余所者だしな!」

「いや待て、それなら俺は逃亡でも裏切りでもないんじゃ……うおっ!」


 金髪の男の足元で再び雷撃が炸裂し、もう1人の男が叫ぶ。


「何言ってる! 君はもっと酷いぞ! 拾ってやった恩も忘れたクズ野郎、くらいには思われてるだろうな!」

「クズで結構コケコッコー、てな! 流石にあんな事聞いちまったらなあ!?」


 そう叫ぶと、男は走りながら隣の「もう1人の逃亡者」を指差す。


「つーか、お前だってそうだろ! お前なんか同胞なのに裏切り者だろが! 控えめに言って最悪だぞ!?」

「君が言うか!? 誰のせいでこうなったと思ってる!」

「そりゃお前、うおっ! あれだほら、正義の迸りのせいだろ! うん、誰も悪くねえな!」

「こいつ……! やっぱり最初会った時に見捨てておくべきだった!」

「つれねえ事言うなよ親友!」

「僕は君と友情を結んだ覚えはない!」


 叫び走ってくる彼等を見て、セイル達は呆然とする。

 片方の金髪は人間だ。提げている剣を見るに剣士だろうが……それはいい。

 もう1人、そして追う者達の姿はまるで重装の鎧騎士のようだ。

 追われている1人は、まるでカブトムシを模した全身鎧を着込んでいるかのようだ。

 そこまでは、まだいい。特殊な鎧のデザインなど幾らでもある。

 残りの襲撃者達は、逃げている者に似た姿だが……微妙に異なっている。

 角の無い量産型といった風だが、その背中で広がっているアレは。


「翼……いや、羽……か?」

「どう見ても虫の羽ね」

「うーわ。なんですかアレ。でけえ人型の虫って感じですけど」


 そう、追う者達は背中の装甲を開き、そこから羽を広げ低空飛行していたのだ。

 そして彼等の頭部の触角らしきものの間から放たれる雷撃。控えめに見てもモンスターだが……先頭を走るカブトムシ人間を見るに、アレはどうやら緑の月神の言っていた「蟲人」であるようにセイルには思えた。


 しかし、この状況はどう判断したものか。

 緑の月神は蟲人を救うように言っていたが、金髪男を除けば追う方も追われる方も蟲人だ。


「え! あ、人間だ! おーい、おーい!」

「アレは……君達、逃げろ! 巻き込まれ……ああ、くそっ!」


 進行方向にいるセイル達を見つけた金髪男の方は嬉しそうに叫び、カブトムシ男の方は苦虫を噛み潰したような声をあげる。


「どうするの、セイル」

「……とりあえず追われている方を助ける。殺すなよ!」

「えー!? 殺されないようにするのがやっとって感じですけど!?」


 コトリの抗議をとりあえず黙殺しながら、セイルは先陣きって走り出す。


「な、なんでこっちに……こうなったら!」


 走ってくるセイル達を見たカブトムシ男はその場で立ち止まると、追ってくる蟲人達へと向き直る。

 

「おいおい……ま、こりゃそういう状況だわな!」


 まさか隣を走るカブトムシ男がそうするとは思わなかったのか金髪男の方は少し先に進んでしまうが……カブトムシ男が止まったのに気づき戻っていく。

 その手にはすでに抜身の剣が握られており、戦闘態勢である事が伺える。


「メルト。君は逃げていいんだぞ」

「そういうわけにもいかんだろ。俺の飯と宿の恩は、どっちかってえとお前個人からのもんだからな」

「そうかい!」


 返事と同時にカブトムシ男は前へと進み出て、放たれた電撃を真正面から全て受け止める。


「くっ!」

「裏切り者め……それだけの力がありながら!」

「もう一撃だ!」


 傷一つないカブトムシ男を見て、襲撃者達はその場にホバリングを始める。

 無論戦闘の意思を失ったわけではなく……その頭部の触角の間に先程よりも強い電撃を蓄え始める。


「悪いけど……気絶してもらうぞ!」


 だが、カブトムシ男の角の先に電撃が溜まる方が早い。

 バリバリと音を立てながら球状に帯電した電撃は、「ハッ!」というカブトムシ男の気合の声と共に分散しながら襲撃者達に炸裂する。


「ぐあ!」

「があああ!」

「ぎゃあ!」


 ドサドサと音を立てて地面に倒れる襲撃者達。

 セイル達が辿り着いた時には、そうして全てが終わっていて。

 思わず呆けた顔をしそうになったセイル達を見て、メルトと呼ばれた金髪男は剣を鞘に納めると肩をすくめてみせる。


「これだからなあ。こいつ、弱気な割にゃ強ぇんだ」

「弱気は余計だよ。否定はしないけどさ」


 言いながらカブトムシ男は振り返り、セイル達へと視線を向ける。


「あー、なんていうか……助けようとしてくれてたんだよね。ありがとう」

「いや、結果として必要なかったみたいだが……俺はセイルという。君は蟲人という理解でいいのか?」

「ああ、僕は蟲人のアーク。君はこっちのボケ男と同じく人間みたいだけど……どういう事情で此処にいるんだい?」

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