集いし死、祓われし後に
気絶したセイルが目覚めたのは、次の日の朝の事だった。
「此処は……」
やけに豪奢なベッドの上で目覚めたセイルは、自分の顔をじっと覗いているサーシャの姿を見て「うおっ」と声をあげてしまう。
「あ、目ぇ覚めた? おはよ、セイル」
「サーシャ? あれからどうなったんだ。此処は、一体……」
「んーとねー、此処は王様の部屋。城に居たアンデッドは動かなくなってたから、皆で運んで埋めてるよ」
「そ、うか……」
ライフキーパーに合体したのは、人間のアンデッドのみだ。
モンスターのアンデッドは城の中に放置されたままで、ゴーストが消えたとしても肉体を持つアンデッドはそのまま肉体が残ってしまう。
放置すれば腐ってしまうから、そうするのは当然だろう。
「すまないな。本来は俺が率先してやるべきなんだろうが」
仲間に任せてしまった申し訳なさを込めてセイルが頭を下げると、サーシャはくすぐったそうに笑う。
「別にいいんじゃない? セイルは戦いを頑張ったし。ボクもこうしてセイルの警護ってことでやってないしね!」
「……そうか。だがお前が一番力持ちなんじゃないのか?」
「そうかもしれないけど、台車とかあるし。ボク、ある程度寝なくても動けるし。セイルの警護の方が合ってると思うな」
なるほど、交代でセイルの警護をするよりはサーシャ一人に任せ、残りの全員で台車を引いた方がいい……ということなのだろうか。そう言われるとセイルも納得する部分はある。
「……なるほど」
「それよりセイル、この変なボールがずーっとピカピカ光ってるんだよね」
「ボール?」
言いながらサーシャが、部屋の隅から分厚いカーテンに包んだ何かを取り出す。
変なボール、と聞いてセイルは一瞬訝しげな顔をするが……すぐにそれがキングオーブの事だと気付く。
「ほら、今も光って……」
―キングオーブ02が回答します。正確にはオーブです。ボールという呼称をキングオーブ02は推奨しません―
「あ、喋った」
「接続状態なんだろう」
―肯定します―
以前へクス王国で見たキングオーブ01も「接続状態」だと会話が可能だった。
それと同じなのだろう。
「キングオーブ02、お前に聞きたい。この帝国の現状についてだ」
―不明。担当地域の現状について入力する必要があります―
「教えて貰わないと分かんないって事?」
―肯定―
キングオーブ02の回答にサーシャは「えー」と声をあげるが、セイルにはなんとなく予想出来ていた回答ではある。
恐らくはキングオーブはギルドに設置された道具によって何らかのネットワークを構成し、外部入力をさせることで最新の情報を取得し共有していた。
しかしヘクス王国で見た限りでは「キングオーブ02」と「キングオーブ03」は接続不能であったはずだ。
そして、此処にあるのがキングオーブ02。
キングオーブ自体がこうして無事ということは、ギルドの施設が破壊されている可能性が高い。
そして修理する技能は……セイル達にはない。
見た限りでは機械ではないからサーシャにも訳が分からないだろうし、魔法的な産物だからといってイリーナにも無理だろう。
此処には居ないが、「魔法学園の学生」であるクロスにも無理だろう。
「……魔導技師、だな」
カオスディスティニーに存在したユニットの事をセイルは思い出す。
魔導技師。様々な魔導具と呼ばれる不思議な道具を造り、使うジョブ。
星3でセイルが覚えている限りでは……放浪魔具屋ケイティ。
魔導具「マジックメガホン」を使って攻撃するという色物だが、自作の魔導具を売って歩くという彼女ならば、ギルドの施設を修理する事だって可能だろう。
あとは、魔導技師ケリン。こちらはちょっとマッドサイエンティストじみているので、正直あまり喚びたくはない。しかし来てくれれば腕は確かなはずだ。
しかしまあ、それを考えるのはキングオーブ02から話を聞いた後だろうとセイルは思い直す。
「キングオーブ02、お前が言っていた黒の月神の干渉について聞きたい」
―世界を意図的に改変する為の過度な干渉は禁止されています。あの個体には、思考誘導の形跡が見られました―
「……そうか」
思考誘導、とキングオーブ02は言った。
つまりそれは「思考以外の干渉」については禁止されていないということではないだろうか?
「たとえばだが、思考誘導がなければ月神が地上の……たとえば魔族全員に力を与える事は可能だと?」
―条件が不明確です。地上は月光に含まれる月神の力に曝されていますが、それは必ずしも全ての種族に平等というわけではありません―
「あのライフキーパーのような者が今後生まれる可能性はあるのかと聞いている」
―回答不能。キングオーブ02の中に回答が存在しないか、質問の意図が不明の可能性があります―
「……そうか、ならいい。最後に1つ聞きたい。キングオーブ01は、俺の能力をアップデートした。お前にそれは可能か?」
―肯定。否定。キングオーブ02の力の残量が足りません。しかし今後時間の経過により可能になる可能性をキングオーブ02は否定しません―
それはほぼ不可能ということではないのか。
そう考えながら、セイルは小さく溜息をついた。
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