死都リゼンブルグ9
「さて、そんじゃあ行くぜ。しっかりついてきな」
言いながらイザンナ=カオスアイはふよふよと右の扉へと進んでいく。
「ちょっと待つです」
「なんだい、主殿」
「お前が先頭ですか?」
イリーナの問いにイザンナ=カオスアイは意外そうに片眉をあげる。
「なんだい、俺の先導は嫌だってか? 別に後ろをついてってもいいが、そこまで信用してくれてんのかい?」
「信用は出来んな」
「よし、あんたには聞いてねえぜヒゲのおっさん」
ゲオルグをビシリと指差すとイザンナ=カオスアイはセイルへと振り向く。
「あんたはどうだい、セイル様。俺に何処にいてほしい」
「別に何処に居ても構わない。構わないが……暴走精霊の攻撃でお前が消滅したら、困った事になるな」
「へえ……」
セイルの答えにイザンナ=カオスアイは面白そうに笑う。
「何処でもいいと来たか。なるほどなあ、一度懐に入れたら信用するってわけか?」
「そういうわけでもないが……お前は、イリーナを裏切らないだろうとは思っている」
「……ふうん?」
イザンナ=カオスアイはその言葉に、にんまりとした笑みを浮かべる。
あのイザンナの顔でそんな事をされるとどうにも違和感があるのだが……それはともかく。
「いいぜ。なら俺は真ん中くらいにお邪魔しようかね」
そう言ってイザンナ=カオスアイは丁度イリーナの真上辺りに浮かぶ。
「……邪魔くさいです」
「そう言うなよ、主殿。仲良くしようぜ」
カラカラと笑うイザンナ=カオスアイをそのままにセイルは右の扉へと進んでいき、ゆっくりと開け放つ。
定期的に整備でもしていたのか、たいした抵抗もなく扉の先に広がるのは……カオスアイの言った通り、迷宮のような通路だった。
「これは……」
「抜け道ったって、中に入りさえすれば誰でも城に行けるってんじゃあ問題だわな」
予想はしてたんだろ、と問うイザンナ=カオスアイにセイルは「ああ」と答える。
こういった抜け道が迷宮となっているのは、もはや「お約束」だ。
いわばゲーマーとしての勘に近いのだが、そんな事は知らないアミル達はセイルに尊敬したような視線を向けている。
「流石セイル様、素晴らしい御見識です……!」
「やるねー、セイル!」
アミルとサーシャは素直にそう褒めてくれるし、イリーナからもキラキラとした視線を向けられているのを感じる。
男連中は……キースからはアミルと似たような視線を感じる。
しかしまあ、褒められても単なるゲーマーの勘なので微妙な気分ではある。
「カオスアイ。此処から先は道案内をしっかり頼むぞ」
「おー、とはいえあんまり期待はすんなよ。えーと、そうだな……真っすぐ行って2つ目を左……か?」
そんな頼りないイザンナ=カオスアイの道案内の通りにセイルを先頭に進む。
道幅は然程広いというわけではなく、二人並べば一杯一杯だ。
故にセイルを先頭、イリーナをその背後に配置し……その上を浮くのがイザンナ=カオスアイ。
背後にゲオルグ、クリス、キース。そして最後衛にアミルとサーシャという並びになっている。
通路を歩けばカツンカツンと音が響き……しかし何故か音が遠くまで響いていくというような事は無い。
「不気味です……」
「確かにな。此処はイザンナ達の墓でもあるからな……そのせいもあるのかもしれない」
「それもあるですけど……」
「乱れた魔力が気味悪いんだろ? 分かるぜえ」
カオスアイがそんな風に会話に割り込んできて、セイルは疑問符を浮かべる。
「そういえば魔力が乱れていると言っていたな」
「おう、セイル様はそういうのに鈍いみたいだけどな」
カラカラと笑っていたカオスアイは……しかし、突然視線を前方の横通路に向ける。
「お、来るぜ」
その言葉の意味を聞き返す事などしない。
セイルはすでに引き抜いていたヴァルブレイドを構え、それに続いて全員が武器を前方へと向ける。
「オ、オオ……オオオオオオ」
横通路から、すいと流れるように漂ってきたのは……イザンナとは違う、髪の乱れた半透明の女。
恐らくは他の三カ所のうちの誰かの姿を模したか、そのどれでもない「たまたまその姿であるだけ」の何かなのかもしれない。
とにかく半透明の女……暴走精霊はセイル達に気付くと虚ろな眼窩を向け叫ぶ。
「オオオオ……オオオオオオオオオオオオオオ!」
「イリーナ!」
「ダーク!」
杖を向けたイリーナが叫ぶと同時に黒い球体が暴走精霊を包む。
「ギャアアアアアアア!」
人間の断末魔のようなものを残しながらダークの魔法に飲み込まれた暴走精霊は消滅したのか、そこにはもう何も残ってはいない。
「ほお……やるではないか」
それを見てゲオルグが感心したような声をあげるが、当然のようにイリーナはゲオルグの賛辞など聞いてはいない。
「セイル様、どうです?」
「ああ、見込んだ通りだ。ここではイリーナに頼る事になりそうだな」
セイルが笑顔でそう答えると、イリーナは嬉しそうに……少しだけ恥ずかしそうに、帽子の縁をキュッと握る。
「セイルー! ボクも活躍したい!」
「慌てるな、サーシャ。お前には此処を抜けたら活躍の機会が幾らでもできる」
「約束だからね!」
セイルの言った事は、決してごまかしではない。
この暴走精霊の住処を抜けた先。
城では、サーシャの力を借りねば突破できないであろう多数のアンデッドが待っているかもしれないのだ。
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