装備を変えればグラフィックが変わると信じた時代もあった

 合成による装備のレベルアップ。

 ゲームによって法則は違うが、カオスディスティニーにおいても幾つかの法則がある。


 まず大前提。レベルはだんだん上がりにくくなる。

 レベルを高く上げようとするならば必要な素材量は多くなっていき、要求される金額も高くなる。

 アイテム倉庫一杯に詰め込んだ低レアの装備を全部合成しても全く足りないということは珍しくない。

 この為、高い経験値を得られる「合成用素材」というものが存在したりもしたのだが、それはさておき。


 2つ目の法則。レア度の高い装備程レベルを上げにくい。

 これは装備ごとに存在する「経験値テーブル」と呼ばれる仕組みによるものだ。

 たとえば星1の装備がレベル1から2になるのに100の経験値を必要とすると仮定すると、星5の装備はレベル1から2になるのに1000の経験値を必要とする……といったようなものだ。

 

 自然と素材が集まらないうちは低レアの装備のレベルを上げて使ったりするわけだが……ここで、3つ目の法則が姿を現す。


 3つ目の法則。レベルを上げていく程に必要な金額が増す。

 合成を一生懸命していたらいつの間にかスッカラカンになっていたという経験は、カオスディスティニーのプレイヤーには「よくある」ことだったりした。


 それ等を踏まえた上で、セイルは各装備を均等にレベルアップしていく。

 この辺りの匙加減を間違う程、セイルはカオスディスティニーの初心者ではないのだ。


「……よし」


 やがて、セイルは肩を鳴らしながら息を吐く。

 ひとまず、出来るだけはやった。そんな充足感を得たセイルに、暇そうに寝転んでいたウルザが起き上がる。


「あら、出来たの?」

「貴方は……」


 扉の近くに護衛のように立っていたアミルはウルザを睨みつけるが、同じように単調な合成作業に飽きて移動したという点ではウルザの事を言えなかったりする。


「ああ、装備してみろ。ウルザは……これだな」


 セイルがカオスゲートから鋼の短剣と隠密服を取り出すと、ウルザは「へえ」と声をあげる。


「見ているだけで違うと分かるわね。材質は変わっていないはずだけど、どういう理屈なのかしらね」

「さあ、俺には分からん。神の力じゃないのか?」


 実際、言われてみるとセイルにも理屈は分からない。

 素材は変わっていないはずだ。鋼の短剣が上位の素材になったわけでもないし、隠密服に帷子が縫い込まれたわけでもない。

 ただ単に、強くなっている。

 ゲームの頃は不思議に思わなかったシステムも、こうして現実になってみると不可思議なものだとセイルは思う。


「アミルにはこれだな」


 言いながらセイルが取り出したのは、アミルの鋼の装備……ではない。

 何処か高貴にも思える銀色の輝き。それを見てアミルが息を呑み、ウルザが「へえ」と声をあげる。


「こ、これって……ミスリル製、ですか!?」

「羨ましいわねえ、私は中々いいもの貰えないのに」

「うっ、それは悪いとは思ってる」


 ウルザに言われ、セイルは思わず謝ってしまう。

 しかしまあ、仕方のない部分はあるのだ。

 カオスディスティニーはその性質上、前衛の「戦士」や後衛の「魔法士」系のユニットが多い。

 つまり、そういったユニットが汎用で使える剣や鎧、次点として杖やローブなどの装備が出る確率が自然と多くなる。

 

 それと比べると暗殺者や神官のような特殊ユニットの装備が出る確率は低い。

 ガレスの専用装備が揃ったのだって、かなり幸運なのだ。


「まあ、とにかくアミル。お前の魔法防御をあげておくのは必須だ。これを使ってくれ」


 ウルザのチクチクした視線から目を逸らしつつセイルがそう言うと、アミルは感極まった様子で「はい!」と答える。

 その場でアミルは鎧を付け始め、やがて神聖な輝きを放つミスリルの装備を纏い聖剣を携えた姿となる。


「え、えへへ……どうですか?」

「似合ってるな」

「そうね。騎士様に見えるわよ」


 ウルザの言う通り、ミスリル装備で固めたアミルはとてもではないが一兵士になど見えない。

 アミルが着る時点で王国制式の装備に寄せたデザインとなる為、少しばかり地味になってしまうのだが……それでも、騎士といって差し支えない姿だった。

 カオスゲートでステータスを確認すると、そこには期待した通りのステータスが表示されている。


王国剣兵アミル ☆☆☆★★★★

レベル17/50


物理攻撃:750(+520)

物理防御:500(+300)

魔法防御:160(+120)


【装備】

・聖剣ホーリーベル(☆☆☆★★★★)(レベル10/50)

・ミスリルの盾(☆☆★★★★★)(レベル10/30)

・ミスリルの鎧(☆☆★★★★★)(レベル10/30)


 セイルの魔法防御と比べればまだ頼りないが、それでも合計で魔法防御280だ。

 ダークゴーレム戦でのアミルの数値を考えれば、充分頼りになると考えていいはずだ。

 

「さて、次は俺だな」


 言いながらセイルも自分の装備をカオスゲートから取り出し身に付けて行く。


セイル

レベル18/99


物理攻撃:1000(+1400)

物理防御:800(+310)

魔法防御:800(+110)


【装備】

・ヴァルブレイド(☆☆☆☆☆★★)(レベル19/70)

・王族の鎧(☆☆☆★★★★)(レベル10/50)


【アビリティ】

・王族のカリスマ

・ヴァルスラッシュ

・協力攻撃


 レベル10で揃えているのはキリが良いというのと、その辺りが今の財布事情では限界だからだが……鎧1つでアミルの鎧と盾にほぼ並んでしまうのは流石に星3装備といったところだろうかとセイルは思う。

 星3装備。簡単に狙ったものが手に入るわけではない。しかし、手に入れば大幅な戦力上昇は間違いない。

 セイルはカオスゲートに触れると、ままならない現状に小さく溜息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る