主人公って、可もなく不可もなくが多い

「ああ、触れればいいのか」


 このオーブを見てセイルが思ったのは「分かる」だった。

 この手のものは触れるのが基本だし、そういうのに憧れた時期もあった。

 まあ、これは魔力パターンを登録するもの……らしいので、触れた事で何か騒ぎが起こる事もないだろう。

 そんな事を考えながらセイルがオーブに触れると、オーブが白く光る。

 それを見ていた冒険者達からクスクスという笑い声が漏れてくるのが聞こえるが、アミルに睨みつけられ全員がサッと目を逸らす。


「ありがとうございます。では次はアミル様、お願いします」

「はい」


 アミルがオーブに触れると、セイルのよりも弱く……しかし、確かに白く光る。

 両者の反応の違いを見るに、魔力の強弱……だろうか?

 光の色に意味があるのかは分からないが、魔力パターンだけではなく何かを測定しているようにもセイルには思えた。


「魔力パターンという話だったが……他に「何」を測定しているんだ? これは」

「へ? い、いえ……えっとですね。簡単ではありますが魔力量と属性も見分ける機能がついております。お二人の場合は白ですので、無属性ということになります」

「無属性、か」

「は、はい。その……元気を出してください」


 属性の事については分からないが、無属性というのは余程馬鹿にされる何かなのだろうか。

 この辺りは後で調べなければいけないポイントだが……ある意味で主人公らしいとセイルは思っていた。

 主人公とは可もなく不可もなくが基本であり、星の数の多いヒロインのほうが強いのだ。

 主人公を星の数で示すなら、基本的には3か4程度だと考えていい。

 まあ、今はそれでは困るのだが……レベルを上げればどうとでもなるだろう。


「何も問題はない。それより、これで登録は出来たんだな?」

「はい、少々お待ちください」


 言いながら職員がカウンターに並べたのは、二枚の白いカードだ。

 それぞれセイル、アミルと書かれているのが分かる。


「依頼に関しては掲示板に貼っておりますので、自分が確実に達成できると思うものをお選びください」

「ああ」


 カードを受け取ると、セイルは早速掲示板に向けて歩いていく。

 どう生きるにせよ、金は必要だしレベルも上げなければいけない。

 何かの退治依頼などがあればいい……と、そう考え歩くセイルの前に、一人の男が立ち塞がる。


「まあ、待てよ無能」

「なんだ? 鏡を見てるつもりなら、少々おこがましいぞ不細工が」


 速攻で言い返すセイルの言い様に、何人かが思い切り吹き出す。

 実際、美形のセイルに比べて男のほうはあまり良い顔の造形とはいえない。


「て、てめえ……」

「言いたいことが終わったならどいてくれるか?」


 何もケンカをわざわざ買う必要はない。ないのだが、これはある種の格付けイベントだ。

 此処で引くようであれば、一生その評価はついて回る。

 冒険者が実力主義の仕事であるならば、大成しようとすればケンカを買うしか選択肢はない。

 この辺りは、荒事を仕事にする限りは受け入れなければならない業だ。

 だからこそ、相手も引くことはない。絶対に、だ。


「無能の分際で……ナメてんじゃねえぞ!」


 男の振るう拳は遅く、軽く。セイルは片手で受け止めると、思い切り力を込めて握る。


「が、ぐ、あああああ……」

「どうした? 他人を無能扱いするんだ。有能なんだろ? お前」


 ミシミシと、少しずつ力を込めていく。


「あ、ががが……っ、おおおお!」


 顔を青くしながらも、もう片方の拳を男は振るい……それをも遠慮なくセイルは受け止め握る。


「あぐっ! ぎいいいいおああああ」


 ガクガクと震えながら膝をつく男を見て、セイルは確信する。

 セイルは……自分はどうやら、それなりに強い。

 どの程度の強さであるかはもう少し確かめないと断言は出来ないが、ヴァルブレードなしの格闘戦でもある程度戦えると考えても良さそうだ。


「か、勘弁してぐれええ……」

「ん? ああ」


 セイルはアッサリと男の手を解放すると、周囲をジロリと睨む。


「で? 他に何か言いたい奴はいるか?」


 そう言えば全員が目を逸らすが、チッという舌打ちが聞こえる辺り「納得した」というわけでもなさそうだった。

 恐らくは力の論理以上に「無属性」に対する当たりが強いのだろう。

 だが、今のところ追加が来る様子もない。

 バタバタと逃げ出す男を放置して掲示板の前へと辿り着くと、セイルは貼られている依頼書を眺める。


 薬草採取。各種薬草の採取、出来高制。詳細はカウンターまで。


 トテラの森のゴブリン退治、ランク1はパーティ推奨。報酬、3シルバー。


「ふむ……」


 早速ゴブリン退治は見つけたが、もうゴブリンとは戦っているしランク1で戦える程度では強さを測る指標にはならない。


「あ、セイル様。これはいかがですか?」

「ん?」


 アミルに言われて視線を向けると、そこには確かに手応えが充分にありそうな依頼が貼ってある。


「オーク、か」


 トテラの森のオーク小集落の調査。可能であれば殲滅、ランク3以上のパーティ推奨。報酬、最大3ゴールド。


 ランク3以上のパーティ推奨。そんな強敵相手であれば、今のセイル達の強さを測る充分な指標となるだろう。


「よし、これを受けるぞ」

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