初回説明は結構重要
「す、推薦……ですか? その方々を、ですか?」
「ええ。スラーラン皇国商業ギルド所属、ビッツベルト商会のペグがこのお二方を推薦いたします。それとも、ヘクス王国の商業ギルドにも話を通しましょうか?」
「い、いえいえいえいえいえ! とんでもございません! すぐに登録させて頂きます!」
バタバタと慌てだすギルド職員を見ながら、意外と大物なのか、それとも力関係の差なのか……とセイルは考える。
確かスラーラン皇国というと先程聞いた三つの強国の一つのはずだ。
しかしギルドマスターでもなく普通のギルド員であるならば然程権力のようなものはないはずだ。
だというのに、見たところ冒険者ギルドの職員はペグの機嫌を損ねるのを恐れるかのように動いている。それは何故か?
想像しても、所詮想像の範囲を超えはしない。だから、セイルはそれとなく探ってみる事にする。
「……大慌てだな。まるで脅されたかのようだ」
「ははは、まさかまさか。単純に顧客の機嫌を損ねたくないというだけですよ」
「顧客、か。余程大口の顧客でもなければ、ああはならないと思うがな」
そう、たとえば。機嫌を損ねたら会社が傾くような大口顧客であれば、ああいう対応になるだろう。
しかしペッグが今回の旅で雇っていたという冒険者は三人。
然程大口の顧客ではないようにも思える。
となると……ペグの裏に居る誰かが重要ということだろうか?
そう、たとえば……スラーラン皇国商業ギルドそのもの、とか。
そこまで考えた後、自分をじっと見ているペグにセイルは肩をすくめてみせる。
「ま、俺にとっては楽でいいが……これで妙な扱いをされなければいいがな」
「ハハハ。それは平気ですよ。単純に色々な手続きを省略するだけのものです」
「手続き、ね」
「ええ、手続きです。冒険者カードは身分証明も兼ねますからね……「正式なもの」となると色々と面倒があるのですよ」
「ペグにはとんだ追加報酬を貰ってしまったというわけか」
笑い合うペグとセイル。笑っているのが互いに声だけなのがなんとも寒々しく、アミルは思わず「うわ……」と声に出してしまっているが、それはともかく。
「では、私は商業ギルドの方に行っております。明日くらいまではこの町に居りますので、何かあればどうぞ」
「ああ。良い商売を」
「ええ、セイル殿こそ良い旅を」
そんな挨拶を交わして去っていくペグを見送った頃……冒険者ギルドの職員がカウンターから「あのー……」と声をかけてくる。
「申し訳ありません。準備が出来ましたので此方に来ていただけますと」
「ああ、すまない。今行く……アミル!」
「はい!」
アミルに声をかけ、セイルは職員の待つカウンターへと歩いていく。
「俺はセイル。こっちはアミルだ」
「はい、今回ご担当させて頂きますザッツと申します。早速ですが、当ギルドの説明からさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
「では……まず冒険者ギルドは、登録した「冒険者」をサポートし統括する為の組織となっております。本部はレヴァンド王国にありますが、各支部で連携をとっている為冒険者ギルドで登録をすると全世界の冒険者ギルドで情報が共有されるようになります」
それを聞いて、文化レベルが低いというのは修正すべき認識かもしれないとセイルは思う。
元の世界にあったような機械文明はその性質上、見た目にも分かりやすい文化を生成したが
……恐らくこの世界は魔法文明だ。
であれば自然と共生した上で、魔法による通信網などの高度な文化を形成しているのは当然の流れであり、その辺りを見誤れば痛い目に合うのは確実だろう。
「全ての冒険者はランク分けされており、これは実績や能力など総合的な判断により上下します」
言いながらギルド職員が並べるのは、何枚かのカード……いや、一枚はカードではなく木札だ。
木札を除けば白、赤、黄、緑、銀、金……どれも金属製であるようで、キラリと輝いている。
「まず、この木札は仮登録の証です。紹介の無い通常登録の場合はこちらから始まり、各支部での見習い扱いとなります。セイル様とアミル様はこの段階は今回飛ばします」
「ああ」
「そしてこれらのカードですが、白がランク1、赤がランク2、黄がランク3、緑がランク4、銀は5、金が6となっております。ランク6が最高位となっておりますが、現在は四人が認定されています」
言いながら、職員は白いカードを指し示す。
「セイル様とアミル様は、このランク1からのスタートとなります。ランク1のギルドカードからは各国での身分証明の役割も果たしますので、紛失には気を付けてください。万が一の場合には最寄りのギルドで再発行も可能ですが、所定の手数料がかかります。また、あまり無くす頻度が高い場合にはランク下降処分も有り得ます」
つまり、冒険者カードは冒険者ギルドがその所持者の身分を保証している……ということになるのだろう。
通常は仮登録の木札から始めて、実績と信用を積み重ね「身分」を手に入れる。
ペグという信用保証によって、その段階をすっ飛ばしたのが今というわけだ。
「なるほど。了解した」
「では、お二人の魔力パターンを登録致しますので……このオーブに手を触れてください」
言いながらギルド職員が取り出したのは……丸い水晶玉といった印象の、大きめのオーブだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます