ストーリーパートは読み飛ばしちゃいけない
「あれ……? 言われてみれば……私は、何をしてたんでしたっけ……? あれ……?」
「思い出せないか? 俺もだ」
「王子も……ですか?」
「ああ。断片的にしか思い出せない。それもまた、世界が消えた影響なんだろう」
勿論、そんなわけはない。セイルはストーリーパートもちゃんと読む派だったので内容は覚えているが、それでも細かく話を合わせようとすれば絶対に齟齬が出る。
あの少年神が何処までカオスディスティニーを再現したのかは分からないが、危ない橋は渡らないに限る。
「で、では……王国は……」
「復興は、出来なくなった。あの魔物達も消えたのは救いではあるだろうが」
「そう、ですか……」
目に見えて落ち込む剣兵の少女に、セイルは金属板を指し示す。
「だが、神は俺に力を与えてくれた。これは、俺達の世界の物や人を運ぶ力を持つ道具だ」
「えっ……!? で、では! これを使えば王国の復興が……!」
「いや、そこまでの力は持っていない。これはあまり強力な力を持つものは呼べないようだ」
「そ、うなのですか。いえ! それでも凄い事に違いはないです! では早速!」
ズイズイと寄ってくる剣兵の少女に、セイルは思わず後退る。
「待て待て。すでに使った後だ。それでお前と……そこの剣が出てきた」
「剣?」
言われて初めて気づいたかのように剣兵の少女は落ちている剣を眺める。
「あ、鉄剣ですね。かなり状態がいいものみたいですが……」
「使うか?」
「いいんですか?」
嬉しそうに剣兵の少女は鉄の剣を拾い……しかし、そこで自分の腰の剣に気付く。
「あ、でもそうするとこの剣は……」
「ちょっと貸してみてくれるか?」
「はい」
セイルが剣兵の少女の腰の剣に金属板を近づけると、シュッと音を立てて剣が消える。
「へっ!?」
「やはりな」
アイテム欄を確認すると「剣(王国剣兵【女】)」が追加されており、セイルは頷く。
どうやら、この金属板にはアイテムの格納機能もついているらしい。
何処まで出来るのかは色々と試してみる必要もあるが……。
「あの、王子。その金属板……凄いのは分かりましたけど、もう他の方を呼び出す力は使えないんですか?」
「ん? 何故だ?」
「はい。私達の世界が消えたというお話についてはショックですが理解しました。ですが、そうなりますと私達はこの知らない土地で生きていかねばならないということですよね?」
「そうなるな」
この世界の文明レベルも分からなければ、文化も勢力図も分からない。
どう動くにせよ、その辺りを探っていかなければならないだろう。
「私一人では、王子をお守りするには不安です。騎士団丸々とは申しませんが、せめてベテランが一人……いえ、難しければ魔法兵がいれば大分違うと思うのですが」
確かに、王国剣兵はカオスディスティニーの中では最弱レベルのユニットだ。
加えて主人公である「セイル」もまた戦力としては平均的過ぎて突出する部分が無い。
ヴァルブレードがあるとはいえ、楽観していいものではない。
「そう、だな……」
言いながら、セイルはガチャの画面を呼び出す。
すでに初回10連は引いてしまったが……そこには「1日1回無料」の文字が躍っている。
「あ……ガチャを引けるな」
「ガチャ?」
「ん! んん……ああ、さっき言った「呼び出す」能力だ」
「わあ! では是非魔法兵を!」
ガチャ画面を覗き込んでくる剣兵の少女に、セイルは咳払いをする。
「落ち着け。これは何が出てくるか分からないんだ」
「そうなんですか? でも大丈夫ですよ、王子なら!」
期待が重い。そんな事は言えずに、セイルは頷いてみせる。
「そうだな。では早速……」
星3、今度こそ星3。
そんな事を考えながらセイルはガチャをタップし……金属板から、白い光が溢れ出す。
回転する光はそのまま……色が変わらず、結果を浮かび上がらせる。
ガチャ結果:鉄の剣(☆★★★★★★)
「鉄の剣……か」
「わあ、こうなってるんですね……」
画面を覗き込んでいた剣兵の少女に、セイルは思わず「読めるのか?」と聞いてしまう。
「え? はい」
「……ちなみに、妙な事を聞くが」
「なんでしょう?」
「何語に見える?」
「普通の共通語に見えますけど」
セイルには、日本語に見えている。ひょっとすると翻訳の機能か何かが自分に備わっているのかもしれない……と納得させると、セイルは金属板のアイテム画面を開く。
鉄の剣は、現在三本。攻撃力が+10程度の装備ではあるが、合成してレベルを上げるか……あるいは進化する事で能力を上げる事は可能だ。
そして、その為の機能はこの金属板に備わっている。
しかし……ガチャを思う存分回せないこの状況では、合成は悪手だ。
進化についても、少し考える必要はあるだろう。
「……ふ、む」
ガチャを回す為のポイントは現在ゼロと表記されているが、何をすれば溜まるかは……もしカオスディスティニーのシステムと同じだとすれば「モンスターを倒す事」となる。
だが、この世界にモンスターがいるのかどうか。
そしてそれは、現状で対抗しうるものなのか?
「……王子!」
剣兵少女の声に、セイルはハッとする。聞こえてくるのは、ガラガラという車輪の音。
そして……不快な、ギイギイという声。
「馬車が……!?」
遠くから走ってくる馬車の御者がセイル達を見つけ「助けてくれ!」と叫ぶ。
「ゴブリンだ! 追われてるんだ!」
「行くぞ!」
「仰せのままに!」
剣を抜き、セイルと剣兵少女は走る。
見えてきたのは、緑色の肌の異形の男達。
武装したその異形……ゴブリンとの戦いが、始まった。
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