まずはガチャを回す。話はそれからだ

「……うっ……」


 眩しくて、セイルは目を開いた。

 そよそよと頬を撫でる風、眩しい太陽の光。

 何処かの草原に自分が倒れていると気づいたのは、ゆっくりと起き上がり辺りを見回した後だった。


「夢、じゃない……んだよな」


 鎧姿の自分を確認して、セイルは拳をぎゅっと握る。

 あの名前も知らない神様の世界に、カオスディスティニーのセイルとして生まれ変わった。

 夢のようなシチュエーションだが、夢じゃない。

 しかし、英雄として生きろと言われたのはいいが……どうしたらいいのか。


「まあ、セイルとして振舞うのが一番なんだろうな」


 セイル。カオスディスティニーの主人公であり、亡国の王子。

 正直に言って、あまりどんなキャラクターだったか記憶にない。

 というか、ああいうゲームの特長なのか主人公の台詞というものは無いに等しいのだ。

 恐らくは主人公を自分を重ね合わせる為なのだろうが、セイルは酷く無個性なキャラであったように思う。

 公式の漫画でも、思い返せばセイルの台詞を見たことが無い。

 能力的にも可も無く不可も無くで……。


「あ、そうだ。能力……」


 武器にステータスだのなんだのとあったのだ。

 自分にも能力があるはずだし見えるはず。

 そんな思考の元に「ステータス」と唱えてみるが、何も出てはこない。


「あれ……じゃあ、えーと……オープン!」


 やはり何も出てこない。試しに自分の手を見て「鑑定!」とか「看破!」とか唱えてみても、空しく声が響くだけ。

 そうやっているうちに、セイルの手に何かが触れる。

 慣れ親しんだその大きさに、まさかとセイルがそれを掴みあげると……それは、黒い金属板だった。


「スマホかと思った……」


 言いながらも、金属板の上で指を滑らせる。そうすると、どういう理屈か金属板の上に文字が浮かび上がる。

 編成、ユニット、アイテム、ガチャ。幾つか足りないが、見慣れた「カオスディスティニー」のメニュー画面が浮かんでくる。


「お、おお!」


 セイルは早速自分のステータスを確認……ではなく、ガチャの項目をタップする。

 ガチャを引けるようになったなら、まずはガチャ。スマホゲームを遊ぶ者の当然の嗜みである。


「あー……やっぱりノーマルガチャしかないのか……」


 最大星7まで存在するカオスディスティニーにおいて、ノーマルガチャは最大で星3までしか出ないガチャである。

 といっても、この星3は排出率0.02%なので「出ない」と考えても問題は無い。

 確実に星3が欲しければレアガチャを引けば嫌になるほど出てくる。

 レアガチャであれば、どうせ星3だろうと達観するほどに出てくる。強化素材扱いになるほどに出てくるのだ。

 ……まあ、それはともかく。

 そのレアガチャがない現在、セイルが頼れる最大の戦力は星3のキャラということになる。


「星3で強いっていうと……重騎士レイアか、召喚士クロス……傭兵ゼグ、か……」


 無意識に女キャラを先に挙げる辺りセイルの煩悩が出ている気もするが、実際に強いので仕方が無い。

 

 重騎士レイア。セイルの国……プロローグで滅びるのだが、その「ガイアード王国」の重騎士隊の新人であり、セイルに憧れていたという元気印の少女。守備力が高く、アビリティの「重騎士の護り」は味方全体の防御力を上げるという、地味に強い能力だった。

 召喚士クロス。こちらは「リオネル魔法学園」の問題児であり「面白そう」という理由でセイル達についてくる不思議系少女だ。

 中々レアな「召喚士」クラスであり「ソルジャーアーマー」を味方として召喚する、序盤には嬉しい能力持ちだ。

 最後の傭兵ゼグは、男キャラなのでよく覚えていない。もとい、確か復讐に燃える男だったはずだ。

 家族を魔族に殺され、その復讐の為にセイルについてくる……というキャラだったなあ、となんとなくセイルは思い出す。

 アビリティ「復讐の炎」は一定時間防御力を下げ攻撃力を上げるため、序盤の固い敵の攻略に役立つ。


「……まあ、レイアかクロス……だな」


 こういう時に必要なのは、女の子と相場が決まっている。

 強くて可愛くて、自分を支えてくれる女の子。

 クロスだとそっち方面は期待できそうにはないが、それはそれで楽しい旅になるに違いない。

 まあ、最悪ゼグでも頼りになる兄貴ポジションということで助けになるのは間違いない。

 他のキャラだったとしても星3であれば大丈夫。故に、望むのは星3だ。

 まあ、ちょっと運が無くて星2であったとしても大丈夫。なんとかなる。

 でも出来れば星3。星3だ。祈りながら、セイルは「10連初回無料!」と書かれた画面をタップする。

 ヒュイイイイン……と音を立てて金属板の画面から白い光が溢れ出し、回転を始める。

 基本的にガチャ演出は白であれば星1、青であれば星2、赤であれば星3が期待できる。

 そして光は白から青へと変化し……その輝きを強めていく。


「星2か……でも……!」


 光はやがて収束し、金属板からガチャの結果が浮かび上がるようにして表示されていく。



ガチャ結果:

鉄の剣(☆★★★★★★)

鉄の剣(☆★★★★★★)

鉄の鎧(☆★★★★★★)

鉄の盾(☆★★★★★★)

王国剣兵【女】(☆★★★★★★)

鉄の槍(☆★★★★★★)

鉄の斧(☆★★★★★★)

鋼の弓(☆☆★★★★★)

鋼の杖(☆☆★★★★★)

布のローブ(☆★★★★★★)


「……なんでだよ!」


 叫んで、地面をドンと叩く。

 ありがちで爆死とすら呼べない、そんなコメントに困る結果であった。

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