浅川 咲来②
「店員さん、私はどうなったのかしら?」
幼女は頬をピクピクと動かしながら、微笑みながら店員に問いかける。
「え、えーと、『愛』をお買い上げ頂くとですね。その方に合った方法で愛を見つけることが出来るという商品でして……」
店員は恐る恐るではあるが、的確に情報を伝える。
「それで、私はこうなったと……」
(いやいや、顔が笑っていないぞ?)
「な、なに!?この声は!?」
(お、ようやく聞こえたのか。楽しそうだね少女だね!いや、この場合は幼女なのかな?)
「ああん?」
(素が出ているぞ?リラックスして欲しいですよ。私は今君の脳に直接語りかけているのだよ)
「ふぅ……どちら様でしょうか……」
(落ち着いたようだね?とりあえず店員に迷惑にならないように場所を変えようか)
「わかったわよ……」
咲来はコンビニエンスストアを出ると、駐車場で自分の自転車の所に着いたと同時に
「で、貴方はどなた?」
爆発寸前の咲来は声を低くして私に聞いてきたのであった。
(私は、君の事をずっと見ていた者だ。そうだなぁ、私の事は語り部だから「カタリ」とでも読んでくれ)
と、言える範囲で自分の事を説明する。
「気持ち悪っ……」
(ドン引きとは、流石の私でもそこまで引かれると悲しくなるよ……)
「それで?カタリさんは何を知っているのかしら?」
(うーん……とりあえず最初に、君が言いたいことを声に出さなくても私には聞こえるんだ。だから頭の中で私に語りかけてほしい。猫を被らずね)
私が皮肉を入れながら言うと、咲来は私に対してか、わからないが舌打ちをした。かなりお怒りのご様子だ。
(これでいいかしら)
(あ、ああ大丈夫)
(じゃあ教えろ)
咲来の口調がついに本来の口調に戻ったなぁ。顔は笑ったままだけどね。いやぁ怖い怖い。
(それじゃあ僕が知っている限りを教えてあげよう。本来『愛』とは自分で見つけて育むものなのだよ。それを君は買ったんだ。しかし今回買った『愛』は君の『愛』を見つける手助けをするものなのだよ。君の場合は年齢が下がる事で相手を見つける事ができるというわけだよ。ここまではわかるかな?)
(よりによって、なんで私がこんなガキの姿なのよ!もっと他にあったでしょ!?イケメンになるとかぁ)
丁寧に説明したのに、何故私が怒鳴られているのだろうか……というか、怒る所はそこなのだろうか?
(そればっかりは運命のいたずらだからね。仕方が無いよ)
(やっぱりあんなの買うんじゃなかった……)
店員の注意さえ聞いていればよかったのに……というか興味本位で買った自分が悪いと思うのだが……
(今更後悔しても遅いよ。君に残された道は2つだ。1つはこのまま幼女として一生を過ごす2つめは『愛』を見つけて元の姿に戻ることだ。どっちを選ぶかい?)
(このままって、成長しないのー!?)
(当たり前だよ。『愛』が見つからない限り何も解決しないからね……)
なんたって、298円ですから……私はそう呟きそうになった。しかし、本当に幼女だ。幼く、小学4年生ぐらいにしか見えない。
(わかったわ、元の姿に戻るにはどうすればいいの?)
(随分と強気だね。そういうの嫌いじゃないよ。じゃあ元に戻る方法を教えよう。君の他に『愛』を買った人がいる。その人と付き合う事だ)
(ふーん、案外簡単ね。私なら余裕よ)
どこからその自信が来ているのわからないが手っ取り早くて助かるよ。
(で、どうやって『愛』を買った人探せばいいんのかしら?)
(そんな困っている君を見て心を痛めた私がガイドとして、上手くいくようにアドバイスをしたり、ヒントをあげようか?代償は君の身体能力の一部だ。)
(いいわ、この際仕方が無いもの。で、『愛』を買った人はどこにいるのかしら?)
(いやぁそう急がなくても、せっかちさんは嫌われるよ?まぁ良い、最初のヒントは君の学校だ。)
(なるほどね。じゃあ高校で聞き込みをしていくわ。)
(いや、聞き込みはダメだ。君が『愛』を買った事は誰にもバレてはいけない。バレたら元には戻れないと思ってくれ)
真実の愛とはそれほど難しいものなのだ。
(わかったわ……)
素直に聞いたと言うよりも呆れながら咲来は返事をした。
(そういえば時間は大丈夫なのかい?私と随分話し込んでいたから忘れているかもしれないけれど今日は入学式なのだろう?)
(え!?そんなに時間かかった?)
まぁ無理もないとは思う。確かに入学式どころではないのだから……
(今は9時15分だね。まぁ普通に行けば間に合うんじゃないのかな?)
(まぁそうね。でも、自転車のサドルを直したりしないと……)
確かに、咲来の身長は現在140センチぐらいだ。元の姿と比べると、その差は30センチはある。そのため乗っていた自転車に乗れないのである。
(すまないね。私は直接的な手伝いが出来ないんだよ……)
(それはわかったから。まぁ1番低くしても足はつかないわよね。)
今この光景を事実を知らない人が見ると、初めて自転車に乗った子供のような光景である。
(さて、現在時刻は9時30分だね。その様子で間に合うのかな?)
(間に合わなきゃ私が目立つでしょ?)
と言い、フラフラしながらも自転車を漕ぎ始めた。
遅いが、着々と学校に向かっていく。そして学校の近くにあった公園を横切ろうとした時。こちらに顔の整った茶髪の同じ制服の少女が猛スピードで自転車を漕いで来た。
(いやっ、ちょっ、まっ……)
気付いた頃にはもう遅く、自転車同士はぶつかり、彼女たち2人は宙に浮いた。そして2人はそのまま倒れ込んでしまった。
愛は298円でコンビニに売っている 平方 濁音 @kuronos96
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。愛は298円でコンビニに売っているの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます