小鳥遊 章太 ②
「よし、状況をもう1度説明してくれ」
少女は店員の胸ぐらを掴み、微笑みながら問いかける。
「で、ですから『愛』はお買い上げ頂くとその買った方に合った方法でその人の愛を見つける事が出来るという商品でして……」
(怯えながらも、状況を的確に話す店員は恐らく今週の最優秀店員になれると思う)
「な、なんだ!この声は……」
(お。ついに声が聴こえるようになったか、。元気そうだな青年!いや、この場合は少女なのですかね?)
「おい、お前俺になんて口聞きやがる」
「ひぃぃぃっ、ぼ、僕は何も言ってませんよ」
(まぁ落ち着いてくれよ。私が今君の脳に直接語りかけているのだよ)
「てめぇ何者だ!」
(とりあえず声を出すと店員に迷惑なのだから場所を変えよう)
「まぁいいだろう」
章太はコンビニエンスストアを出ると自転車で近くの公園まで向かった。平日の朝なので公園には誰もいなかった。章太がベンチに座り込むと同時に
「で、てめぇは何者だ?」
そう喋ったのである。
(私は、君の事をずっと見ていた者だ。そうだなぁ、私の事は語り部だから「カタリ」とでも読んでくれ)
と、言える範囲で自分の事を説明する。
「カタリ!てめぇは『愛』の何を知ってんだ?」
(はぁ……君は口が悪いなぁ、女の子はおしとやかな方がモテるんだよ?それともう1つ言うと、君は口に出さなくても聞こえているから頭の中で私に語りかけてほしい)
皮肉を入れ、笑いながら私が話してみると章太はとても不服そうな顔をしている。
(これでいいのか?)
(うん。大丈夫だね)
(じゃあ早く『愛』の事を教えろ)
おやおや、章太は相当機嫌が悪いようだな。まぁ普通は、性別が突然変わったら誰でもこうなるからなぁ。
(それじゃあ僕が知っている限りを教えてあげよう。本来『愛』とは自分で見つけて育むものなのだよ。それを君は買ったんだ。しかし今回買った『愛』は君の『愛』を見つける手助けをするものなのだよ。君の場合は女性になる事で相手を見つける事ができるというわけだよ。ここまではわかるかな?)
わかりやすく、丁寧に説明をしてみると、章太は
(なるほどな、呪いみたいなもんか?)
と、言ってきた。少し理解出来てないようだ。
(うーん……呪いとは違って自分から女性になった感じかな)
(マジかぁ、やっぱり怪しかったかぁ)
いやいや、今更か。店員が注意した時点で怪しんでいれば良かったのに……
(今更後悔しても遅いよ。君に残された道は2つだ。1つはこのまま女性として一生を過ごす2つめは『愛』を見つけて元の姿に戻ることだ。どっちを選ぶかい?)
(断然男に戻ることだな)
(やっぱりそう言うよね。じゃあ元に戻る方法を教えよう。君の他に『愛』を買った人と付き合う事だ)
(…………………)
久しぶりの沈黙、意識でも失ったのだろうか。
(おーい?聴こえたかい?)
「はぁぁぁああ!?」
お、意識が戻った。声に出るほど衝撃的だったのか……可哀想に……面白半分で『愛』なんて買うからこうなるんだよ。
(どうやって付き合うんだよ。誰が『愛』を買ったかなんてわかんないじゃねぇかよ)
(そのぐらい『愛』を見つけるのは簡単じゃない事なんだよ)
298円という価格だとここまでが限界なのである。
(もうわかった。とりあえず聞き込みをすればいいんだな?)
(いや、聞き込みはダメだ。君が『愛』を買った事は誰にもバレてはいけない。バレたら元には戻れないと思ってくれ)
真実の愛とはそれほど難しいものなのだ。
(じゃあどうするんだよぉぉぉ)
章太は頭を抱えながら、俯く。もう見ているこちらが悲しくなる絵面である。
(そんな君を私がガイドとして、上手くいくようにアドバイスをしたり、ヒントをあげようか?ちなみに代償は……)
(おう!よろしく頼むわ!)
全く最後まで聞かずに契約に至ったのは章太が初めてだ。この少女は純粋すぎると言うか、馬鹿すぎると言うか……
(まぁ良い、最初のヒントは君の高校だ)
(えっ!?俺の高校!?)
(運が良いことに、君の高校に『愛』を買った人が集まっている。まずは高校を遅刻しない方がいいんじゃないかな?)
「あっ!やべぇ、俺遅刻してたんだったわ!」
あ、やっぱり忘れてたか……もしかして自分が今女性だということも忘れてるのじゃないだろうか。
(今は9時40分だね。間に合うのかい?)
「間に合わせるんだよぉぉぉおお」
そう言って、章太は自転車で公園を飛び出した。この時章太は急ぐあまり、周りを見ていなかった。章太が飛び出した瞬間に右側から同じ制服の幼女が自転車に乗って、突っ込んできたのだ。気付いた頃にはもう遅く、自転車で事故を起こし、章太と幼女は倒れてしまっていた。
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