小鳥遊 章太 ①

 ピピピピピピピピピピピピピピピ


 電子音が響き渡る室内。音の主はデジタルの目覚まし時計である。そのすぐ側には、青年が死んだように眠っていた。この青年こそ今回の物語の主人公である。


 青年の名は、小鳥遊たかなし 章太しょうた15歳である。この青年は今日から私立綾南商科大学附属高等学校しりつりょうなんしょうかだいがくふぞくこうとうがっこうの生徒なのだ。が、寝ている。この青年は何も考えずに寝てしまっている。目覚まし時計は6時にセットしていた。しかし、現在の時刻は9時ある。3時間も寝過ごし未だに眠っている。その間目覚まし時計は鳴り続け、本来の五月蝿い音も最早、子守唄のようになっているのだろうか。もしかするとこの青年はもう目を覚ます事はないのではないか。と心配してしまうほどだ。


 そんなことを言っていると、ようやく目を覚ました。


「ふぁぁぁぁ、よく寝た〜」


 よく寝たというレベルではないと思うのは私だけだろうか……


「今日は入学式かぁ、その為に早起きも出来たから 高校生活も楽しくなりそうだなぁ」


 何故こんなにも呑気なのだろうか……


「って、えぇぇぇぇ、もう9時過ぎてるじゃん!入学式10時からだよ!完全に遅刻コースだよ!やべぇやべぇよ!初日から遅刻はガチめにやべぇ」


 はぁ……今更気付いたのか、これは先が思いやられる……こんな青年が主人公で良いのだろうか……先程から私はだろうかを多用しすぎなのではないだろうか……


「マジかよぉ……最悪だぁ……」


 こんな茶番に付き合わされる私の方が最悪である。


「とりあえず制服着てチョッパヤで登校すればワンチャン間に合うかもだから急ぐぞぉ」


 なんというポジティブ思考なんだ。この青年は3歩歩いたら物事を忘れるような人間なのだろうか……はぁ……


 青年は5分で支度を終わらせ、自転車を猛スピードで走らせて高校へ向かった。しかし、彼は途中で気が付いたのである。自身が文房具を忘れてい事に。


「やべぇよ!初日から人に借りるのとか恥ず過ぎるわぁ」


 既に遅刻している時点で充分恥ずかしいとは思わないのだろうか……はぁ……この青年にはため息しか出ない。


 そんな事を思いながら青年が自転車を漕いでいると、右側にコンビニエンスストアが見えた。決して物語の都合上で見えてきたわけではない。もちろん大人の事情などでもない。決して違うので、勘違いはしないで頂きたい。


「おお!こんな所にコンビニあったのか、それならここで文房具をある程度買っていくかぁ」


 これで通り過ぎたら馬鹿以外の何物でもない。正直なところ少し心配をしていたが無事コンビニエンスストアに寄ってくれた。


 青年はコンビニエンスストアに入るとすぐに日用品のコーナーに向かった。そして適当なシャーペンや、消しゴムなどの文房具一式を揃えレジに向かう。しかしその途中奇妙な商品が青年の目に留まった。


『愛 298円』と書かれた紙がそこには置いてあった。


「愛が298円ってどうゆう事だよ。面白いなぁおい、試しに買ってみるかぁ。わっはっはっ」


 そう言い、青年はその紙を手に取りレジに持っていった。そして文房具とその紙をレジに出した。


「シャープペンシルが一点、消しゴムが一点…………」


 順調に進んでいたが、最後の1つというところで店員の手が止まった。そして店員はを持ち、恐る恐る青年に聞く。


「お客様こちらの『愛』は返品・交換ができない商品ですがよろしいでしょうか?」


 それに対し、青年は


「全然大丈夫ですよ〜」


 と軽く返事をする。明らかに怪しい物なのにこんな軽く反応するとは……はぁ……本当にこの物語は上手くいくのだろうか……


「わかりました。それでは合計で1244円です」


「ほーい」


 青年は財布から1300円を取り出し、店員に手渡す。


「こちら56円のお返しとレシートです」


「あざまーす」


 この時、青年の声は先程までの声よりも少し高くなっていた。


「ありがとうございました」


 そんなことは気にせず青年はそのままレシートとお釣りを制服のポケットに入れ、コンビニエンスストアを出ようとする。その時、突然何かを思い出したかのようにレジに戻り店員に質問をする。


「って、『愛』ってのは買った後はどうなるんですか?」


 思い出してくれて本当に助かった。このままでは物語は終わらないどころか始まりもしなかった。


 店員は驚いた顔をして聞き返す。


「えぇっ、今の自分の変化に気付きませんか?」


 そう。常人なら気付くはずである。自分の声が高くなっている時点で多少の違和感があることを。


「えっ?」


 店員に言われた言葉の意味がわからなかった。しかし、青年は不意に見た自分の手に驚いた。


「これ誰の手だよぉぉぉお」


 明らかに色が白く、細く、とても綺麗な手が自分の手なのである。驚かないはずがない。その手で自分の体を触る。ゴツゴツだった腕は脂肪もない筋肉質な腕になっていた。


「お、俺の1年間筋トレした努力がぁぁぁあ」


 この青年は叫びすぎではないだろうか。とも思うが、それほどショックな出来事なのである。


 青年は恐る恐る手を胸の辺りに伸ばすと謎の膨らみがあり、自分が触られている感覚に襲われた。


「えつゆぉるかゆにわかぁぁぁあ!」


 もう発狂しすぎて日本語という日本語を話せていない。もう察しているかもしれないが一応説明しよう。簡単に言うと、はもうではなくなっていたのだ。性別が逆転し、小鳥遊 章太は少女になっていたのである。

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