第5話 新生活

 僕はとある子犬を飼っていた。誰にも内緒で。

 首輪もなく捨てられたようだった。

 彼女はとても頭が良くて、ボールを投げると僕の元に届けてくれた。

 そんな遊びが大好きだった。

 白くてふわふわ、ぱっちりおめめも可愛い。それは輝く宝石のようで。

 犬の業界では引く手数多の美人さんだろうって想像もした。

 どこか不思議な雰囲気もあるその子犬に僕は名前を付けて。

 秘密基地で世話をしていたんだ。

 あの日、彼女が死ぬまでは――。



「ふあぁ」


 僕は陽の光に起こされた。人間は光が当たると起きやすいらしい。

 夢現ゆめうつつのままカーテンの隙間から零れるそれを軽く手で払う。


「んんー」


 払っても払ってもしつこいので僕は起きることにした。

 光は触れないのが難点だな。


「あー、今日から学校か」


 もちろん今まで通っていた学校ではない。

 院長先生の勧めで転校をすることになった。

 僕には両親がいない。事故で死んでしまったからだ。

 だから割とすんなり手続きも済んでしまった。

 後見人は院長先生だから。


「行かないと」


 真新しい制服に袖を通す。鏡の前に立ってみるとあんまり似合っていない。

 着られている感じがどうしてもする。


「仕方ないか」


 これから着こなしていけばいい。


「時間もないし準備して出よう」


 枕もとの時計を確認すると準備を急いだ。

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