第3話 目覚め

 目の前を横切る残像。

 幸せだった日々の残り。

 それが一時の物だと分かっているからこその輝き。

 それはどこか人を不安にさせる幸せ。

 唐突に終わりを告げたモノクロームの中で。

 ずっと心に秘めていた『何か』を解き放った。


 気が付くと僕はベッドの上に寝かされていた。

 蛍光灯の明かりがちらついて目に悪い。

 そんなどうでも良いことを頭に浮かべながら身を起こす。

 薄緑色の薄い患者服でも過ごせるくらい身体は温かい。

 ふかふかの掛け布団は雨に奪われた僕の体温を取り返してきてくれたようだ。


「一体何が……」


 周りを見渡すとクリーム色の壁に囲われた部屋だった。

 ベッドの足側の先には扉があり、視線を右に向ければアンティーク調の収納箪笥がある。


「ここは――」


 僕が思い当たったと同時に扉が開いた。


「おお! 起きたか」


 そこにいたのは僕もよく知る院長先生だった。

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