第2話 初ミッション‐幼馴染の女の子‐後編
メッセージを送った瞬間、すっと響の意識が遠のき、気がつけば響の周辺はテストの際に上がってくる仕切りに囲まれていた。
画面に表示された時間を見ると、時間が巻き戻っていることに気がつく。
(こういうこともできてしまうのか……使いようによっては色々便利だな……)
響は時間が巻き戻る前と同様に、IC認証を開始しテストの問題を見ると、意識が遠のく前のテストの問題から大きく変化していることに気付く。
四十ピースから四十五ピースまでの問題が追加されており、全ての問題を解答し終えると同じように早めに切り上げる。
知多が出てくるのを暫く待っていると、予想よりも早い段階で知多を囲っていた仕切りが下がった。
響は前回と同様に「どうだった?」と知多へ声をかける。
すると知多はにっこりと笑い「いい感じだったよ、ありがとう!」と響へ親指を立てながら返事をする。
二人がそのまま教室で待機をしていると、教師が壇上にあがりテスト終了の合図を告げた。
その後、テストの平均点が発表されると教師が教壇に置いてある机の中からリモコンを徐に取り出し、教室にいる皆へ「突然ですが……」とスクリーンを指しながら注目するように促す。
少し間を置いてから「平均点を超えた人に、学食で利用できる特別データを配ります」と教師が言うと、教室の皆が一斉に「おおっ!」とざわつき始める。
「平均点を超えた人は私の前に並んでください」と教師が言うと、知多が響の元へ「響!聞いて!私、平均点以上だったの!」と嬉しそうな顔をしながら駆け寄る。
(それもそうだろうな……元々四十ピースから四十五ピースの問題はテスト範囲から外れていたし、平均点が低いのも頷ける。ただ誰一人として気がついていないし、騒がないのが不思議だ)
響は疑問に思いながらも「よかったな!」と知多へ返し、椅子から体を上げると知多とともに教壇の前に整列する。
前に並んでいる列が捌けていくのを眺めていると、メッセージの通知が入る。
『本日のミッションは達成されました。次のミッション開始は日付が変わった瞬間から――』
メッセージを読んでいると「響!前、前」と知多の声が聞こえた。
響が我に返って前へ進むと「響、どうしたの?なんか朝から変だよ?」と知多が不思議そうな顔をして響の顔を覗き込む。
「知多、少し近い……」と響が知多に返すと、知多は顔を赤らめながらも真剣な表情をして「何か悩みごとでもあるの?」と響の心情を探り出す。
(そういえば女の勘は鋭いという話をどこかで聞いたことがあるな。こればっかりは、幼馴染でいくら信頼していたとしても話せない。話したとしても信用されないだろうし、嘘をついていることがわかれば現状の関係性が壊れるだろう。知多とは昔からの付き合いで、ずっと仲良くしていたいし、これからは少しだけ距離を置こうか……)
響はそう考えると知多に「いや、朝からなんとなく熱っぽくて」と返す。
その瞬間――ミッションが追加されました――といきなり通知が届いた。
響は教師からデータを受け取ると、知多へ「少し頭が痛いから保健室へ行って薬を貰ってくるよ、すぐ戻る」と告げて教室から外へ出る。
廊下へ出て階段を駆け上がり、人気のない辺りまでくるとその場に座り込んだ。
(これは一体どういうことだ……聞いてないぞ?――そういえば!)と知多に声をかけられ途中までしか読んでいないメッセージを再度開くと、続きを読み始める。
『本日のミッションは達成されました。次のミッション開始は日付が変わった瞬間からスタートです。ミッション完遂後、嘘をついた対象に再度嘘をつくと追加ミッションが受けられます。追加ミッションをクリアすると、ミッション発注者に接触するためのヒントを貰えるようになります。追加ミッションの内容は、ミッション追加の通知メッセージに記載されていますので、ご確認下さい。尚、追加ミッションについては期間や時間制限がありません。仮に失敗したとしてもペナルティなどもありませんので、ミッションをおこなわない場合は、そのまま無視していただいて構いません。』
響がこれは願ってもないチャンスだと考え、追加ミッションのメッセージを開く。
『追加ミッション:白州知多に告白されること』
追加ミッションのメッセージを閉じると、響は頭を抱え込むようにして項垂れた。
暫くその状態でどうしたらいいものかと考え込んでいた響であったが、自分から告白するのではなく、相手からされるように促すのは難しいだろうと考えたのか、諦めて教室に戻る。
教室に戻る途中、平均点を超えデータを受け取った生徒が「これ、DX定食にも使えるらしいぞ」と何やら騒いでいた。
教室に戻ると知多が「大丈夫?」と響に声をかける。
なぜか顔を赤くして「なんとか……」とその場で取り繕う響に、知多は少し疑問を感じながらも「そっか。それならよかった」と微笑み、学食を食べに行こうと提案をする。
響が頷くと、知多は響の右腕を引っ張りながら教室を出た。
傍から見ればカップルのような二人なのだが、幼馴染特有の距離感というものらしく、お互いに恋愛感情というものを抱いていないようだ。
これが当たり前の光景であり、日常化していることもあってか、今まで周りも特に囃し立てることはなかった。
ただ、あの追加ミッションが無ければ響も意識をすることはなかったのだが、手をつないで食堂へ向かう響の顔が段々と紅潮していくと、知多が赤くなっている響の顔に気づいたのか、響の額に手を当てる。
「熱はないみたいね。耳まで赤くなっているけど、本当にどうしたの?」と知多が響に言うと「いや……まあ、その……」と慌ててその場を取り繕う響。
続けざまにその場を取り繕う嘘をつこうとするが、響は瞬間的に冷静になった。
(ここで嘘をついたら、また何か起こるかも知れない。ここは話題を変えてしまった方がよさそうだ)
そう考えると響は表情をすっといつもの状態に戻し「さっき受け取ったアイテムデータ、DX定食にも使えるらしいぞ」と言うと「え?そうなの?」と知多が目を光らせながら話に食いつく。
この学校の学食は全国的に有名なシェフが監修しているらしく、普通の定食においても味が良く評価が高い。
DX定食には高級デザートがついているのだが値段設定が高く、一般的には誕生日や行事の祝いごとでしか注文されない代物だった。
普段から食意地の張っている知多のことだから、話に食いついてくるだろうと思っていた響は上手くかわすことができたことに表情が緩む。
知多がそれを見て「響も嬉しそうだね!」と言うと「ああ、嬉しいよ」と何事もなかったかのように返事をし、食堂に辿り着くと注文をする。
食事を終え教室に戻ると、午後からの授業を普段通りこなし放課後を迎える。
「響!一緒に帰ろう?」と知多が響に声をかけると、響は「今日はちょっと用事があるから、申し訳ないのだけれど先に帰ってくれ」と知多に返す。
「そっかあ……」と残念そうな顔をしながら「また明日ね!」と手を振る知多に、響は「また明日な!」と手を振り返す。
響は電子書籍室に向かうと机に座り、書籍を探すふりをしながら明日からのことを考え始める。
(ミッションの対象者は誰にしよう……追加ミッションのこともあるし、そもそも追加ミッションをクリアしなければいつまでも続くのではないのだろうか……それに3つ目の嘘はどうなったのだろう。嘘を本当にしてくれと頼んだのに、何も起こらない。これも何らかの力が働いて嘘そのものが打ち消されたと考えればいいのだろうか)
不安に駆られながら暫く考えごとをしていると、下校時刻のチャイムが鳴り響く。
思考を放棄し、明日からのことは明日考えればいいと結論付け響は帰路についた。
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