第1話 初ミッション‐幼馴染の女の子‐前編

 最後のメッセージが届いて暫く時間が経過するとミッション開始の時刻がやってきた。

 時間を迎えると響は徐に服を脱ぎ始める。


(体に異変はなさそうだな……)


 自分の身体を隅々まで見まわし、異常がないことを確認すると、脱いだ服を再度着なおす。

 これからどうやって嘘をついていこうか悩んでいると、夜中にも関わらず『メッセージが届きました』と通知が入る。

 こんな夜中に誰だろうと思い、響がメッセージのフォルダを開くと幼馴染である白州知多はくしゅうちたからのメッセージが届いていた。


『明日のテストのことだけど、語学のテスト範囲ってどこまでなの?』


 たまたま届いたメッセージに響は何気なく返信を書き始める。

 明日のテスト範囲は――と思考入力する最中、響の思考が一時停止する。


(メッセージアプリで嘘を吐いた場合、ミッションに反映されるのだろうか……)

 反映された場合、何かしらの通知が届くのではないかと期待を込めてメッセージの入力を開始する。

『たまには自分でなんとかしよう!明日の語学のテスト範囲は、記憶領域三十ピースからまでだ』


 響はこの日初めての嘘をついた。

 本当の範囲は三十ピースから四十ピースまでなのだが、五ピース分多い嘘のテスト範囲を知多へ伝える。

 テスト期間がやってくると毎度響に範囲を聞いてくる知多へ、少しは自分で努力するようにと反省させるための嘘を仕掛ける。


 響が送ったメッセージに既読マークがついてから暫くすると知多からの返信がきた。

『いつも教えてくれてありがとう!しっかり勉強するね』


 メッセージを見た次の瞬間、脳内にアナウンスが流れ始めた。

 ――一つ目のミッションが達成されました。残り二十三時間二十六分四十秒です――


 アナウンスが流れ終わると「残り二つか……」と響は呟く。

(こんな風にミッション達成の知らせが届くのか……意外と普通だな)

 まだ時間も十分にあるし取り敢えず今日は休もうと響は思い、ベッドへ横になって目を閉じた。

 

 朝目が覚めると響は支度をして学校の門を潜る。

 学校へ到着すると、幼馴染の知多が響に声をかける。


「響、昨日はありがとうね」

 響に対する感謝の気持ちを、にっこりと笑いながら伝える知多に若干の罪悪感を覚えながらも響は「ああ……どういたしまして」と表情をやや引き攣らせながら返事をする。


 教室につくと机に伏せて記憶領域を開いているような様子の知多を見て、響は「どうだ?捗っているか?」と知多に声をかける。

 すると机に伏せていた上半身を起こし薄く開いた目を響に向け「ごめん寝てた。どうしたの?」と目を擦りながら呟いた。


(こいつ……鼻からやる気なんてないじゃないか……)


 響は少し間を置き考え、やる気のない知多へやる気を起こさせるために、二つ目の嘘を吐き始める。

「今日のテストで点数が平均以上の場合は、学校側から何かプレゼントを貰えるらしいぞ」

 その言葉を聞いた知多は目を見開いて再度机に伏せると記憶領域を開き、ひたすら勉強をし始めた。


 するとまた脳内にアナウンスが鳴り響く。

 ――二つ目のミッションが達成されました。残り十五時間五十分二十六秒です――


「おお……ちょろい……」と響が呟くと、知多が顔を上げて此方の様子を不思議そうに見つめる。

「何一人でぶつぶつ言っているの?」と知多が響へ問いかけると、響は少し慌てた素振りを見せ「いや、何でもない!」と返答をした。


 教室の時計の針が九時を指すと、教室のドアが閉まりブザーが鳴る。

 テスト開始のブザーが響き渡ると同時に記憶領域へアクセスができなくなる。

 知多はぎりぎりまで記憶領域を閲覧していたのか、アプリが特殊な電波信号により強制終了されると悲しそうな顔をして「……まだ勉強していたのに」と天井の方へ視線を上げて文句を言う。


 それを見た響は知多の方を向いて「ふっ」と小さく笑いをこぼす。

 響の笑い声が知多に聞こえたのか、知多は響の方へ恨みがましい視線を向けると、口パクで響に「バーカ」と伝えた。

 響がそれに対し、何の反応もしないでいると知多は響から視線を逸らし、正面を向いた。


 それと同時に教室の隅にある机へ座っていた教師が教壇へ登ると、テスト開始の合図が告げられる。

 教師がリモコンを操作すると、床の隙間から不正防止の仕切りが上昇し、教室にいる生徒一人ずつを隔離する。

 テストのときにだけ上がってくる仕切りには画面がついており、IC認証をおこなうと画面に問題が表示されるようになる仕組みだ。

 認証をおこなうと埋め込まれているチップが画面と連動し、目で追いながら解答を選択する仕組みになっている。

 目で選択をしたら、次は奥歯を軽く噛み締めると回答ができるようになっており、一通り解答し終えると見直しができるようになっていて、早く終わった生徒はすぐに退室できるようにもなっていた。

 解答が終わった生徒からデータを送信すると、すぐにその場で採点が行われ、データとして残る形となっている。

 テストデータに基づき成績が決まるようになっていて、点数が高ければ高いほどレベルの高い大学や就職先の推薦を受けられるようになっている。

 因みにテストは全国同じ時間に行われ、同じ内容のものが出題される。

 全国的なランキングも発表されているため、ランキングの上位者は既に進学先や就職先が決まっているという噂だ。

 響の成績はというと全国的には中の上くらいなのだが、学校内では上位ランクに席を並べていた。


 テストの開始から数十分が経過し、響は一通り解答を終えると採点を開始した。

 語学のテストは五十点中、四十八点と好成績だった。

「今回のテストはそこまで難しくなかったな……」と響が呟きながら退室ボタンの入力をおこなうと仕切りが下がる。


 周囲を見渡すとやはり成績上位者は既に解答を終えていて、仕切りが下がっている状態だった。

 知多の座っていた辺りに視線を向けると、知多の席はまだ仕切りで覆われている状態のため、響は少しの優越感に浸りながら仕切りが下がるのを待ち続ける。


 そして迎えるテスト時間終了の三分前、知多を囲っていた仕切りが下がった。

 テスト終了の時間を迎えて、仕切りが強制的に下がったわけではないため、全問解けたのだろうと解釈をすると、響は「テストの結果どうだった?」と知多に声をかけた。

 すると知多は響の方を一度振り向いて、少し怒った顔をしながら何も言わず教室を出ていってしまった。


 すぐに響は教室を出た知多を追いかける。

 追いかけている最中に休憩時間開始のチャイムが校内に鳴り響くと、かかっていた制限が解除される。

 知多に追いつくと響は「……ごめん。わざとじゃないんだ」と声をかける。

「私まだ何も言ってないのに、その言い方ってって言っているようなものだよ……」と知多が悲しそうな顔をしながら言うと、響は――しまった!という顔をした。


 その瞬間、今までとは違うアナウンスが脳内に鳴り響く。

――おめでとうございます!ミッションが達成されました――


 アナウンスが鳴り終わるとトークアプリにメッセージが届く。

『あなたの望む物を一つだけ叶えることができます。望む物を一つだけ返信してください』


 知多の「なんとか言いなさいよ!」と言う声を聞きながら、響はどうしたらこの状況から抜け出せるのかを必死に考える。


 響は考え抜いた末『嘘を本当にしてくれ』とトークアプリに返信をした。


 

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