第13話 トトキと捜査デート!

 こっくりさんに渡された謎の珠。その正体がどうしても気になるルナは、後日午前授業で暇が多かった日にメリーさんたちが過ごす颯家へ赴いた。

 ゲートの出迎えで書斎に案内される、かと思いきやこの日はリビングに案内され、年季が入っているが座り心地のいいまだまだ現役なソファに座らせてもらった。はじめてトトキのばあやと顔を合わせたが、まだまだ元気そうだ。部屋のテレビではメリーさんとシグのふたりして据え置き機の新作に打ち込んでおり、とうになじんでいるらしい。


「えっと、紹介するね。クラスメイトで友達の州手ルナちゃん」


「よ、よろしくお願いします」


「よろしくね、ルナちゃん」


 トトキとして振る舞う彼女に違和感がすさまじく、ルナは笑いをこらえつつばあやに挨拶し、にこやかに返され、そして皿に空けたお菓子を出された。食べていいのだろうか。そしてばあやがあとはお友だち同士仲良くねと去っていき、ゲートがやっとの思いで水面に戻ってきたダイバーのような声をあげた。


「ぶはぁっ!あぁ性に合わねぇ。んで?うちに来たからにはなんかあるんだろうな」


 けっきょくいつものゲートで変わりはなかった。どうやらメリーさんとシグを泊めるとなるとさすがに隠し通せないと思ってばあやに相談したのだろう。あの狭苦しい書斎でずっと話をしているよりぜんぜん快適で、自分の身体がソファにやさしく受け止められているのを嬉しく思いながら用意していた話をはじめた。


「う、うん。この前のこと、なんだけど」


 もう一人のメリーさんと一緒に経験した出来事。こっくりさんとの遭遇。向かいに座るゲートはもちろん、メリーさんは作業を中断してまでルナの話を聞いてくれていた。

 ルナは話したいことが最後までいくと一番気になっていることである謎の珠を取り出して、机の上に置いた。きれいに丸いせいか安定しない。けっきょくルナが直接手で持ち続けることになり、そのピンポン玉サイズでひたすら黒い珠をみんんでまじまじと見る端から見ればおかしな状況になった。


「なにかしら、これ?」


「都市伝説の気配はしねえな、少なくとも」


「ただの石じゃないと思うわ。ほら、よく見るとつまようじみたいなのが入ってる」


 たしかに透かして見ると、かすかに先端のみ赤っぽい棒が六本ほど不思議な形に組まれているのが見えた。なにかの意味があるのだろうか。ルナは首をかしげ、シグにしてもゲートにしてもそれ以上のことはわからずじまいだった。


「こっくりさんの意図は読めないけれど……さて、それより早急な問題はあるわ」


「えっ?」


 いままでポーズ画面が表示されていたテレビを操作し、メリーさんはニュース番組を映す。ちょうど時間としては地元のニュースがやる時間らしく、日ノ出海周辺の話が取り扱われるようだが、真っ先に挙げられた話題は衝撃的なものだった。


 内容は単純。「児童連続傷害事件」である。下校中にも登校中にも襲われた児童がいるらしく、常に留意するように呼び掛けている。すでに昨日だけで何人も襲われているらしく、しかも神出鬼没で場所はばらばら。中には命の危機にさらされた子もいるのだとか。たった一日でそれだけの行動力を見せる犯人。その異常性がうかがえた。


「真っ赤な服装にマスク。凶器は複数の刃物に、噛み痕もあったみたい。ただの異常者でなければ私たちの仕事になるかしら」


「都市伝説ってこと?」


「たぶん、ね。私はシグと組むわ、ルナはゲートと一緒に捜査をお願い」


 すでに実害が出ている都市伝説は、メリーさんが事件をおさめなければならない。この犯人が人間でも捕まえて突き出せばいちおう事件解決だ。メリーさんとシグは相手が都市伝説で間違いないとして、公に出れる高校生ふたりであるルナとゲートは警察の人にも聞いてみたりするとして手分けし、まずは事件現場をまわってみることにした。


「行こう、ゲート」


「あー、この捜査中はトトキで呼んだほうがいいな。私も作るから」


「あ、うん。そうだね、トトキ」


 ただの女子高生ふたりぐみがこんな事件に首を突っ込もうとすれば、間違いなく危険だと突っぱねられるが、ルナはルナで仲のいい子供たちに注意を促すことができる。まずは小学校にほど近い現場のひとつへ赴き、案の定警察の人を数名見かけた。


「まだお昼だけど、いっぱいいるね」


「あの婦警さんが話しかけやすそう、かな」


 トトキが目をつけていたのは、警官服の真面目な表情の女性だった。確かに妻帯者のおじさんと女子高生が仲良くしているのは絵面が危険だ。お姉さんのほうが、こうして愛想のよさそうな少女を装っているトトキも気がいくらか楽なのだろう。

 ルナとトトキのふたりで彼女に歩み寄り、まず元気な挨拶から入る。真面目そうな表情は崩さずに彼女はこちらに目を向けてくれ、こんにちはにはこんにちはで返してくれた。


「えっと、あの事件での見張り?ですよね」


「そうですが、どうかしましたか?」


「できる範囲でお手伝いしたくて……駄目、でしょうか?」


 トトキが精一杯愛嬌をふりまくと、ものすごい違和感とともにトトキの顔立ち自体にはまったくぶっきらぼうな雰囲気がないことに気がついた。婦警さんの表情に変化はない。駄目かとも思ったが、気持ちを無駄にしたくない気持ちは強いらしく、いきなりトトキが手を握られてこう言われた。


「ありがとうございます。一緒に子供たちを見守りましょう!」


 そこからは彼女の隣に並び、危険なのでまとまって行動するように言われた。一般の女子高生をあっさりと巻き込んでしまうのはかなりよくないことだろうが、各地で起きている事件のため警戒も大規模のようで、人手が足りていないのもあるようだった。


「ルナちゃん。トトキちゃん。怪しい人を見つけたらすぐ報告してくださいねっ」


 婦警さんの名前は『兵戸ひょうとミリヤ』といった。表情には現れないが、どうやらミリヤは内心嬉しいらしい。女子高生たちがけなげにも協力してくれている、という認識だと思うのだが、先輩風を吹かせたいらしい彼女にはすこし申し訳なかった。

 そして何周か見回りをしていると、途中で見知った顔を見かけるようになった。学校が事件を受けて早めに切り上げることを決定したらしい。そのなかにはつい先日いっしょにお人形遊びをしたユノの姿もあった。きょうはちょっとおしゃれしていたみたいで、長くてつやのある黒髪にお花の髪飾りをしていた。


「あ、ルナお姉さん」


「ユノちゃん!無事でよかった!」


 ユノに抱きつくルナ。帰る方向が同じグループで下校しているらしく、ほとんどがルナの知っている子たちだ。近所のみんなに抱きつかれているところをがっつり目撃されているユノの心境は、このときルナは考えていなかった。


「あの、お姉さん。はなれて」


「えっ」


「その。はずかしい、から」


 ちょっぴり頬を赤らめるユノ。年齢相応の可愛らしさがあって、ルナは離れてと言われたにもかかわらずさらに抱きついたのだった。


「あれ、鍵?ユノちゃん、きょうはお留守番?」


「うん。お母さんもお昼はお仕事だから、持たされてるの」


「ねぇ、ミリヤさん。こんなときにおうちでひとりって危険じゃないですか?」


 いきなり話を振られ、ミリヤは一拍遅れて頷いた。ルナがユノを連れ回したいだけ、ともいえる。今度はミリヤの反応は芳しくなかったが、一方のトトキはユノを犯人を誘き出す囮としてとらえているらしく、ルナへの耳打ちでこう告げた。


「仮に本当に出てきたら、そいつ狙ってくるだろうから連れて逃げろ。私は基本引きこもりだが一般人よりか戦えっからな」


 囮とは考えていても、傷つけたくないのは一緒のようだ。まとまって帰る者が多ければ、ユノがはぐれた瞬間に狙われると思ったほうがいい。ルナは気を引き締め直し、パーティーにユノを加えて四人で見回りを再開するのだった。


 その背後を歩いている真っ赤な服の女が人間ではないモノだと気付かずに。


「……?どうかしましたか?」


 その女の存在に気がついたのはミリヤであった。最初から疑ってはかからないミリヤだったが、ルナとトトキはまずユノを下がらせる。特徴は犯人と一致していて、足元には赤い液体が擦れて出来たような跡がついている。あれは近寄ってはいけないものだ。ルナの本能が告げている。

 女はルナたち一行を見るなり、そのマスクで覆われた顔のうちでほぼ唯一感情の表れる眼を細めて立ち止まり、そして喧嘩しているときの猫のような声でこう言った。


「ワタシ、キレイ?」


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