砂の城

白林透

プロローグ


『――この星の寿命も、そう長くない』

 生まれて来たその時から、魔法の呪文の様に耳元でささやかれ続けて来た世代でさえ、心の中では「私達が生きている間はまだ大丈夫」と、何の根拠も無い自信を胸に抱き生きてきた。それが次第に大きな認識の誤りへと変化し、怠慢たいまんへと変わっているとも気付かずに。

 そしてある日当然、終末の前兆はやって来た。

 結局の所、人類はろくな備えもしないままに世界の終末へと足を踏み込んだ。

 例えるのなら、壁にかけてあった絵皿の留め具が突然壊れ、落ちて砕けてしまうように。

 いや、それは少しばかり正しくない。実際は、誰もが止め具が壊れかけている事に気付いていて放置していたのだ。きっと誰かが直すだろう、きっとまだ大丈夫だろうと理由を付けて。

 皆が皆、絵皿を壊した共犯であり、等しくその報いを受ける事になった。

 最初に天が慟哭どうこくして七色に染まり、続いて大地が共鳴してその巨体を震わせた。

 赤層の煙がいくつもの山々から立ち昇って空を覆って有害物質だらけの灰泥でいかいの雨を降らせ、人々を次々と死に至らしめた。灰色の雲は晴れる事無く、その色合いを徐々に濁った茶褐色へと変える。

 海は荒れ狂い、巨大な津波が沿岸部に押し寄せて街を突き崩した。波が引いた後には生臭く腐敗した海洋生物の死骸が至る場所に打ち上げられ、更なる疫病の種を産んだ。

 二○四六年四月。人類の八割強が、一ヵ月のうちに命を落とした。

 本当の原因が何だったのか、人類が明確な回答を見出す間もなく、天地は激しく荒れ狂い、数多くの人々を物言わぬ肉塊へと変えていく。

 その時になっても尚、人々はこの災厄を乗り切れる、いつかは過ぎ去るものと信じて疑っていなかったのだ。


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