紫煙のうなり

三度うなり、挨拶を

　キムさんが笑っていた。初めてあった時に見せた、禍々しい優しさを持った微笑み。確か、その時もスーツを着ていて、煙草の香りが漂っていた。光の具合で色の変わる瞳は、真っ黒。「欢迎（huān yíng）」そんなことを言ってくれたのだけど、初めての言葉で、ただ睨みつけることしかできなかった。歓迎されるなんて、思っていなかった。

　——中国語、わからない？

　何も変わらない、カタコトさ。傾げていた首を正常に戻し、頷く。一時の静寂。全て覚えている。目を細め、微笑み。そして、銃声。記憶にない、シーンへと切り替わった。違う、知っている。これは、私の失敗。流れていた映像が止まり、銃口から溢れる烟が、紫煙へと切り替った。

　ゆらり、ゆらり、揺れている。

　——そう。教える。名前も、変えよう。何がいい？

　しゃがみ、私の目線になった。なぜか聞くと、

　——今の貴女は、昔の貴女とは違うから。

　心を突き刺す、言葉が返される。

　——別の人に、生まれ変わる。そうだ……貴女の目、猫みたい。

　黒かった瞳が、茶色に。

　私はあんな、きれいじゃない。

　光らせ、立ち上がる。

　——綺麗じゃない？

　見下ろされ、銃声がもう一度。

　——じゃあ貴女は、小猫（xiǎo māo）ね。

　目を細め、

　——貴女は今日から、そう。

　三度目の銃声で、思い出す。

　キムさん、私、目を覚まさないと。

　——そう。慢走（màn zǒu）。