第43話
町はやはり大きく、人が多かった。
広さはシュダルタルの王都と同じくらい。しかし人口……というより密集度は王都より遥かに高く、十メートル歩くのにも十分以上かかるといった有り様だった。
初めは、この人混み具合なら絶対に捕まらないじゃんと喜んでいたシルアートだが、その表情は時間の経過と共にイライラしたものに変わっていた。
(あー。さっきから全く進んでないじゃん。まるで―――)
咄嗟に頭に浮かんだのは、鉄の巨大な箱の中に人がぎゅうぎゅう詰めになっている光景。知らない言語が飛び交い、見たことがない技術が披露されている。
……そんな光景、王都やシャアラにあっただろうか。
いや、ない。
なら何故私は……この光景を―――思い出した……?
まるで覚えのない光景を思い出したことに不思議に思っていると、ブゥンとやけに強い風が吹いた。
「うっ」
一瞬魔法かと疑ったが、魔力の流れがないとこを見る限り自然に出来たただの突風のようだ。
(あんなに人が密集していて尚ここまで強い風が自然発生するなんて……珍しいこともあるものだね)
と、そこで周りの人達の目が自分の方向に向いていることにシルアートは気づいた。
ハッと頭に手を当ててみると、予想通りフードが脱げていた模様。
大きくため息を吐く。
シルアートは比較的顔の良い方だと自覚している。
学園に通っていた時はそんなことを思ってもいなかったのだが、シャアラで大勢の貴族にプロポーズをされたときに自らが人目につく容姿をしているのだと初めて知った。
そして人に見られることは好きじゃないシルアートはそれ以降フードを被るようになったのだが……
(やっぱ見られてる)
すぐにフードを被り直したのだが、まだ大勢に視線を向けられている。
まぁ、それも束の間の辛抱だろう。
少し経ったら飽きるに違いない。
「……シルアート様?」
そんなことを考えていると、唐突に後ろから声をかけられた。
シルアートの体が一瞬硬直する。
それもそのはず。
シルアートはその名をリューナイツでは一切名乗っていない。
となれば知っているものは必然的に家族関係者、学園関係者に限られてきていて……。
(もう……追い付かれた!?いや……さっき周りを見たときには高魔力者はいなかったはず)
瞬時に金髪の少年を思い浮かべて首を横に振る。
高魔力者がいないとなれば、学園関係者はまずあり得ないだろう。
……家族関係か。めんどくさそう……。
ウォンバスターの所為で家族に良いイメージがないシルアートは、露骨に嫌そうな顔をして振り返った。
後ろに立っていた声をかけてきたと思われる人は二十代前半くらいの青年で、スーツの着こなしかたから育ちのよさが伺えた。
しかし……
「……誰?」
本心を呟くと、青年は苦笑して自分の顔を指差した。
「僕ですよ。お嬢様」
そう言って腰を折る青年の姿はどこか見た覚えがあって……
「……!?馭者さん?」
「ええ!そうです!立ち話はなんですし歩きながら少し話しましょうか」
記憶と現実が完全に一致した。
「確か……名前は……ガイルだっけ?」
「ベイルです。お嬢様」
「ごめんなさい。ところで、なぜベイルはここに?ウォンバスターに仕えていたはずじゃ?」
ここはシュダルタルから遠く離れた国。シュダルタルの貴族のウォンバスターに仕えていたベイルがこんな離れたところまでどうして?
「お嬢様はご存じなかったのですか?」
「何を?」
聞くとベイルはばつが悪そうに頭を掻いた。
どこか言いにくそうにしている。
が、やがて覚悟を決めたのか、真剣な顔で言った。
「ウォンバスター様は何者かによって殺害されました。半年前のことです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます