第41話
『それで……シルアートよ。我はこれからどこへ向かえば良いのじゃ?』
「遠く!ずっと遠く!レグルス達が絶対に追い付けない場所!!!」
レグルスから逃げ出して数分。
緑竜がシルアートの答えを聞いて渋い声を出した。
『すまんが、それは多分無理じゃ。……我もお前との戦いで力を消費しとるからの……』
「あー、ごめんなさい」
『謝るでない……。我は竜でお前は人。言うなれば悪と正義じゃ。我も人はかなり殺した。……争うのも仕方ないことじゃ』
「…………それでも……ごめんなさい。……それで、回復にはどのくらいかかるの?」
相手が謝罪を求めていない以上、しつこく謝り続けるのも悪いと考えたシルアートは話題を元に戻した。
その意図を理解した緑竜はすかさず答える。
『何もせずに回復に専念できれば一週間ほどかの』
「一週間……意外と短いね」
一週間というのは長いようで短い。森の奥地にでも隠れれば誰にも見つかることなく回復できるだろう。
そう考えたからこそのシルアートの発言だったが、緑竜はその厳つい顔を横に振った。
『残念ながらそうではない』
そう言って爪で指すのは黒雷によって焼き焦げた竜鱗。
『あの黒雷にはマーキング機能があったのじゃろう……。この傷跡から意識しないと感じ取れないほど微弱じゃが少し魔力が漏れておる』
「……鱗を剥がせば?」
『中々酷いこと言うのう……』
「ごめんなさい。冗談です」
『冗談と言っとる割には目が本気なのじゃが……。まぁいい、先に言っておくとその案は却下じゃ』
「やっぱ鱗剥がすの痛い感じ?」
『いやそうではなくての……』
緑竜は申し訳なさそうに声のトーンを落としてから告げた。
『どうやらあの黒雷、魔力を付着させるだけではなく浸透・感染させる効果もあったみたいなのじゃ』
「なるほど……竜さんはどこまで回ってるの?」
『もう既に全身に回っておる』
「……じゃ、私は?」
感染ということはそういうことなのだろう。シルアートが聞くと、緑竜は大きくため息を吐いて―――。
『…………お前も全身に回っておる。大方相手に現在地は完全に捕捉されとると考えていいじゃろう』
「そっか……」
気まずい沈黙。
そんな沈黙を打ち破るように、シルアートは静かに立ち上がった。
『どうした、シルアート?』
「一週間あれば竜さんは回復できるんだよね?」
『ああ、そうじゃが……』
怪訝そうな顔を作っていた緑竜だったが、どこか覚悟を決めたシルアートの顔を見て次に何を言われるのか察する。
そして、数秒後、緑竜が察した通りにシルアートは言った。
「じゃあレグルス達は私が引き付けるから竜さんはどこかで回復してて。で、回復し終わったら迎えに来てね」
あくまでレグルス達の狙いは緑竜ではなく自分。二手に別れたなら間違いなく自分を追ってくるだろう。
そう考えてのシルアートの発言に、緑竜は呆れた顔して苦笑する。
『いいのか?我と別行動をして。人と竜は敵対関係。回復をしたとしても我がお前を迎えにいくとは限らんぞ?』
「それならそれでいいよ。そのときは、海を凍らせてでも別大陸に渡るから」
海を凍らせる……そんな規格外なシルアートの発言に、緑竜は一瞬沈黙の後大笑い。
「ちょっ!?きゃああああ!?」
あまりにも笑うものだから、その巨体は揺れるに揺れて、上に立っていたシルアートは悲鳴を上げしゃがみこむ。
『いやぁ……すまんすまん』
やがて笑いが収まったのか揺れが止まり、立ち上がることができたシルアートに緑竜は全くすまなそうな顔で言った。
「危うく死ぬところだったんだけど?」
『海を凍らせて別大陸に行こうとする規格外が落ちたくらいで死ぬとは思えんがの』
「それは誉め言葉として受け取っておけば良いのか?」
呆れてると、緑竜はうーむと唸った。
「どうしたんだ?」
『いや、シルアート、お前。大分しゃべり方が変わったなと思ってのう。それが素なのかの?』
言われてみれば気づかぬうちにかなり男っぽい言葉遣いになっていた。
「……何で?」
こんな言葉遣いを使ったことなんてないはずなのに…………いや、じゃあ何故リーシャに言葉遣いについて注意された思い出が残ってるの?
私は―――何かを忘れてるの?
『ふむ……。まぁいい。それよりもこれからの話じゃ』
シルアートの雰囲気が変わったことで地雷を踏み抜いたことを悟った緑竜は露骨に話題をそらす。
『回復し終わったら、我はどこへ向かえばいいのじゃ。集合場所を決めておかんことには始まらんぞ?』
シルアートがハッと顔を上げた。
「……手伝ってくれるの?」
『我が認めた者の頼みじゃ、引き受けるのは当然じゃろう。それよりも集合場所を決めてくれ』
「集合場所……ね……。って言ってもこの辺よく知らないし……。そうだ―――」
『―――ほう。それは……面白そうじゃの』
シルアートが言うと、緑竜はニヤリと不吉な笑みを浮かべた。
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