第39話
バチバチと紫電が舞い踊る。
雷を操ると言われている黄竜の攻撃だ。
国の精鋭でも防ぐのが難しいと言われる竜の一撃を……少女は凍らせた。
雷が氷像に変わったことに黄竜は驚き、体制を崩す。それを好機と見た少女は黄竜の羽を氷柱で貫き、黄竜は唸り声を上げながら地面に墜落した。
「グラァララァラァラアッ!!!」
更に追撃しようとする少女を牽制するように赤い雷が地面から次々と黄竜の周りに落ちるが少女は止まらない。
赤い雷を間髪避け続け接近、とどめを刺そうと魔力を高めて―――
「……っ!」
横殴りに押し寄せる火焔をバックステップで回避した。
赤竜だ。
竜種は仲が悪い。
しかし、ここで黄竜を見捨てれば次狙われるのは自分だと気づいたのか傍観を貫いていた青竜と緑竜も咆哮を上げ参戦する。
一対四。
それは竜の特性を活かして一体一体狩っていく作戦を取ろうとしていた少女にとって最悪な状況である。
完全に戦況は覆った。
「……」
だが少女は引かない。
大きく深呼吸をすると、その膨大な魔力を爆発させるかのように解放した。
「【氷の世界】」
瞬間的にして温度が急激に下がり、地面や木々が凍る。冷たい風と共に拳ぐらいの雹が吹き荒れる。
相手が人なら一瞬で命を落とすであろう最悪な環境だが……竜にとっては定かではない。
「ギシャァァァアッ!!!」
「グラァララァラァラアッ!」
「シュアアァァッッ!!」
「ウォォンオンォンオン!!」
強靭な鱗に守られた四頭が少女の柔肌に顋から生える巨大な牙を突き立てようとして、緑竜だけが危険を察知して回避した。
刹那先程とは比べ物にならないほどの豪寒が少女の体から放たれた。
「……さすが」
周囲三十センチまでしか放てないが絶対零度を越える寒さを出せる少女のカウンターアタック。赤竜、青竜、黄竜が氷像と化す中、笑い声が響いた。
『シュアアァァッハッハッハ。まさかここまでとはのう……』
「驚いた……喋れるんだね」
豪快に笑う緑竜に少女は言葉とは裏腹に無表情で言う。
『伊達に長年生きとる訳じゃないからのう。今氷像となった赤竜共も話せたはずじゃて』
「ふぅん。で、なに?命乞いでもするの?」
『いや、そんなものはする気はないのぅ。ただ、我を滅ぼすじゃろう貴様の名を知りたかっただけじゃろうて』
「……シルアート」
『そうか。シルアート。覚えたぞ。では、止めて悪かったの。再戦といこうか』
穏やかな雰囲気から一転、殺気を飛ばす緑竜の変わり身に、少女は静かに構える。
【氷の世界】の効果で凍りついた木々を暴風が吹き飛ばす。
風を操る緑竜の戦いかたは……どこかかつての先生の姿に似ていた。
自分を指導してくれた先生。
その先生を私は…………。
それを思い出した瞬間、少女の体は動かなくなる。
先生と戦っている。
少女には緑竜と先生の姿が完全に重なって見えた。
……先生に殺される……なら本望かな…………。
目の前に吹き飛ばされた木々が迫る。
少女はただ、それを避けることなくじっと見て……。
少女を庇うように風が吹き、木々が飛ばされる。
一体誰が、顔を上げると緑竜が気難しい顔をして迫っていた。
『……お前、どうしたんじゃ。急に大人しくなりよってからに……』
「……御託はいい。殺して」
一度重なって見えたからは、少女にはどうやっても緑竜を殺せそうになかった。
『……やはり変じゃの。やる気が失せたわい』
しかし緑竜は少女を害することなく、ドスンと横に座る。
「……殺さ……ないの?」
『お前はこの我が認めた者。全力の状態のお前を倒さねば意味がない』
「……そう。けどごめん。私はもうあなたに本気を出すことは難しい」
『それなら何年でも待つわい。竜の寿命は長いからの』
あっけらかんに笑い飛ばす緑竜だが、何かに気づいたのか顔をしかめる。
『シルアート、我の後ろに隠れておれ』
「どうしたの?」
『人の子じゃ』
少女が首をかしげると同時に黒い稲妻が緑竜に向かって放たれた。
『シュアアァァ!』
その威力は魔法耐性が高い竜の鱗を焼き焦がすほど。
「……うそ…」
それだけ強い魔法を放てる人。
そんな人は少女にとって一人しかいない。
かつて自由を求め、操られた自分のために自由を放棄した男。
レグルス。
嫌だ……会いたくない。どんな顔をして会えばいいの!?嫌だ嫌だやだやだやだやだ!!!
「緑竜!お願い!私を連れて逃げて!!!どこか遠くに!!!何でもする!何でもいうことを聞くからお願い!」
顔面蒼白で少女が叫ぶ。
ただ事じゃない。そう察した緑竜は曖昧な表情を作りながら翼をはためかせる。
『この我が人に助けを求められるとはな。長生きはしてみるもんだ。我が認めた者の言葉を蔑ろにはできん。いいじゃろう。早く我の背中に乗るがいい』
「ありがとう!」
少女が緑竜の背中に飛び乗ると、緑竜は翼を上下に動かし地面から離れる。
『ぐっ!?』
しかし黒い稲妻が緑竜目掛けて穿たれており、数百を越える稲妻に緑竜が命の終わりを感じて目を閉じようと
「……まかせて」
少女が緑竜の身体を傷つけないように魔力を放つ。全ての黒い稲妻を凍らせた。
『……すまぬシルアートよ。助けられてしまったな』
「いい。それより早く。レグルスが来る前に!早く!」
『おう』
大空高く飛び上がった緑竜は身体を地面と水平に傾けて落ちるように宙を進む。
(凄いスピード。馬車の十倍くらい早いね)
それでも追いかけてくる黒い稲妻を少女が落とすこと数分。
遂に黒い稲妻が追ってくることはなくなり、少女と一頭の竜は安全な空を駆けていった。
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