第35話

 最初にやって来たのはエティカだった。


「……よかった。……目覚めたんだね」

「うん。心配かけてごめんエティカ」


 リーシャと同じようにハグをするも、束の間、すぐにレンがやって来た。エティカは空気を読んだのか、じゃ、と一言言ってベッドの近くの床に体操座りをした。


「エティカ!?」

「ん?なに?」

「あっ、……いや何でもない」


スカートは非常に短く、その体勢をするとパンツが……と思ったがどうやらスパッツを履いてるらしい。ホッと息を吐いて、疑問に思う。何故自分は同姓の下着を見そうになって、これほどまでに動揺しているのだろうか、と。

 ま、まさか私にレズビアンの気があったと言うのだろうか……。い、いやそんなわけない。きっと男子に見られるからと動揺したに違いない。うん!そうだよ!

 自己完結し、うんうんと頷いてるとレンが涙と鼻水を垂らしながら、それはそれは酷い形相でガシッと正面から抱き締めてきた。


「シルアート!無事だったのかぁあ!!!よかったぁあ!!」


 私……女なんだけどなぁ……。異性にバグするってどうよ……まぁいいけど。レンは女顔だし。


「うん。ありがとうレン」


 レンの腰辺りに手を回しギュッとハグを返すとレンはようやく自分が何をしていたのか気づいたのか顔を真っ赤にして「お、おうよ」とだけ言ってそのままエティカの横に正座をした。弱冠俯いているのは真っ赤になった顔を隠すためなのだろうか。


 次に入ってきたのはリリー。

 リリーは早生まれなのでもう11歳、一番の年長者なのだが、その月のような金色の瞳からボロボロと大粒の涙をこぼしていた。

 次から次とこぼれる涙を両の手で必死に押さえようとしているが、ままならないらしい。ひくひくと嗚咽をしながらリリーもまた抱きついてきた。


 最近は抱きつくのがブームなのか……別に女子からだったらなんとも思わないんだけど、ヴィルとかユリウスとかレグルスに抱きつかれるのはちょっとなぁ……。


「よ……がったぁ。ほんどに……よがったぁあ!も…うだいじょーぶなのよね?よね?」

「うん。もう大丈夫。だから泣かないでリリー」


 そんなことを思いながら、頭を撫で撫でしてあげると、少し涙が収まったのか、目を真っ赤にしながらもリリーはレンの横に正座した。

 床はクッション製ではないので当然硬い。のだが、まぁパンツを見られないようにするには正座が一番なんだろうな……なんて考えてるとユリウスが入ってきた。


「ま、まぁ僕は君が目覚めないなんて微塵も思ってなかったんだけどね。君は僕が認めた唯一の好敵手だ―――」

「うそつけユリウス。お前ずっとオロオロしてたじゃないか」


 ガンッとその後ろに立っていたヴィルがユリウスの頭に拳骨を落とした。


「ヴィル!貴様!!」


 中々の威力だったのか涙目で抗議しようとするユリウスをヴィルは……


「ってことでコイツもちゃんと心配してたからな」

「おい!?無視はやめろ!無視は!!」


 華麗にスルーしたヴィルを両の手で拳を作って殴るユリウス。描写だけなら非常に可愛らしい光景に思われるが、間違えてはいけないのは両者男。それにポカポカとではなくドスドスと音がしていること。

 ヴィルも初めの内は我慢していたが、やがてユリウスにやり返しを始めた。

 取っ組み合いになる二人に、いつのまにこんなに仲良くなったんだ、と疑問を抱きつつもプッと吹き出してしまう。


「あはは。ありがとヴィル。ユリウスも」


 すると二人はキョトンとした顔を見合わせた後。


「「どういたしまして」」


 とだけ言って、そのままヴィルはエティカの横にあぐらで、ユリウスはリリーの横に正座で腰を下ろした。抱きついて来なくてよかったと内心安堵する。


「おや、何やら騒がしいですね。あっ、こんにちわシルアートさん。お元気でしたか?」


 そんな声と共に上品なお辞儀をしたのはソフィヤ。


「うん、元気っていったら多分元気だよ」

「多分ですか……曖昧ですね」


 ふふふ、あははと笑い合い、ソフィヤはヴィルの隣に腰を掛けようとして、あら、と何かに気づいたのかユリウスの隣に正座で腰を掛けた。クッション持参である。


「やっほー、シルアートちゃん。元気?」

「うん、まぁ。アリスも元気そうだね」

「うんー!元気だよー」


 アリスとは抱擁ではなく握手を交わす。それはアリスが嫌いとかそういうわけではなく、単に抱きついて来なかったからだ。まぁ、アリスの性格的にエティカやレン、リリーの姿を見ていれば抱きついてきたのだろうが、何かちょっぴり悲しかった。代わりにめちゃくちゃ手を上下に振られたが。


「よーし。皆揃ったわね」


 アリスがソフィヤの横に正座すると同時に、リーシャが戻ってきた。


「えっ?」


 しかし、私はその言葉に驚きを隠しきれなかった。

 だって、私たちは十名。だけどこの場には九名しかいない。それはすなわちこの場にいない者がいることを指していた。

 そして、その者が誰なのか分からないほど私は馬鹿ではなかった。


「レグルスは!?」


 瞬間、空気が変わる。全員が全員気まずそうにしていた。リーシャ以外は。


「……ん、まぁ、気になることはあるでしょうけど、話し合いを始めるわよ。それで全てが明らかになるから」


 リーシャの真剣そのものの眼差しに、私は唾を飲み込まずにはいられなかった。

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