第32話
和やかなムードはそこまでだった。
「―――トッ!?」
「ヴィル!?」
咄嗟に仰け反ったヴィリックの鼻先を掠めたのは氷礫。よほど鋭利だったのか、掠めた所からは血が流れている。
早くも結界は破られていた。破られた以上結界はただの視界を遮るだけの邪魔な存在。すぐに結界を解除する。
「バカ!なに油断してんのよ!大丈夫!?」
リーシャは次々に飛んでくる氷礫を対処するのに忙しいのかこちらを見ずに聞いてくる。
「おう、上皮膚が少し切れただけだ。大丈夫だ!」
相方が確認できない以上、状況説明は詳しくしといた方がいい。大声ではっきり告げると背中越しでもリーシャがホッとしたのがわかった。
「……で、何しに来たのよ。ホント。私の負担を増やしたいの?」
「あぁ!?悪い悪い!」
一変不機嫌な声で怒鳴るリーシャに謝罪しつつ、ヴィリックはザッと一歩踏み出してリーシャの横に立ち構えた。
「……何かこういうの久しぶりだな」
「そうね。私たちが手を組むなんていつぶりかしらね」
「三年ぶりぐらいだな。作戦は昔使ってたあれでいいよな?」
「ええ。しっかりこなしなさいよ」
ヴィリックは軽く頷くと。
「うおおおおおおおお!!」
一直線に突撃した。
「!」
シルアはまさか真っ直ぐ自分に向かってくるとは思わなかったのか一瞬の硬直ののち、氷礫をヴィリックに向かって放つ。
「!?」
今のヴィリックには魔力はほとんど残っていない。絶体絶命。
だが、ヴィリックは笑った。
こうも簡単に注意を引き付けられるなんて。と。
ヴィリックに飛んできた氷は、すぐ背中、いつの間にかヴィリックの背にピッタリと着いていたリーシャによって溶かされる。
「えっ?」
「チェックメイトよ」
突如現れたリーシャにシルアが驚愕。
その隙を付いて、リーシャが首筋に手刀を食らわせた。
ただの手刀ではない。魔力の込められた手刀だ。
それは一瞬でシルアの意識をもぎ取り、戦いは決着した。
シルアが意識を失ったと同時に吹き荒れてた氷嵐は止み、リーシャの炎によって気温が上昇し始める。
ポタポタと解凍した氷が水となり床を濡らす中、リーシャとヴィリックはすぐにリューク先生の元へと向かった。
とてもじゃないが生きてるとは思えない。だが、それでもとリーシャが言い出したのだ。
飛んできた氷塊。やはり、それはリューク先生だった。
「リューク先生!」
「起きて!起きてください!!!リューク先生!」
反応はない。リーシャは涙目になって俯いた。
「私が……シルアを。シルアを見ていてって頼んだから…………。それ以前に、私がシルアに親と会ってみたらなんて迂闊なことを言ったから…………」
華奢な体を震えさせ両手で顔を覆い隠す、らしくない姿を見せるリーシャにヴィリックは告げる。
「お前のせいじゃねぇよ。あそこで先生に頼まなかったら俺たちはこの事態に気づくこともなかったかもしれないし、何より親に会うことはウォンバスターの性格からして避けられないことだったろ」
「そ、れでも!私は!!!」
両目に涙を今にも溢れ落ちそうなほど溜めつつ叫ぼうとするリーシャに思わぬところからの横やりが入った。
「…ば、か……やろう……お、俺を勝……手に殺すんじゃ……ねぇ……」
ヴィリックとリーシャは一瞬顔を見合わせてから、同時に声がした方を振り向く。
そこには「さ、寒い。痛てぇ……最悪だ」と血塗れで呟く教師の姿があった。
◇
ここはどこだ。
目を覚ました俺は辺りを見渡した。
真っ白の空間だ。
見覚えはな―――いやある。
俺がシルアートに転生する前に、神を名乗るジジイと会った場所だ。
……ってことは俺はまた死んだのか……。
徐々に記憶が戻ってくる。ここに来た直前の記憶も。きっと俺はあのままウォンバスターの謎の攻撃によって死んだのだろう。そう予測していると、カツーンカツーンと足音が響いた。
顔を見上げてみれば、あのときと同じようにジジイが俺を見下すように立っていた。
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