第30話
―――ゴオオオォン。
「ヴィル!近いわ」
「分かってる!」
リーシャの言葉に俺は頷く。冷気が更に冷たくなっている。リーシャの魔法で包んでいる筈なのにそれでも寒いということは、シルアまで後少しということなのだろう。
先頭を走るリーシャが曲がり角を曲がろうとして足を止めた。
「くっ、なにこれ!?」
見れば風が壁を作っていた。
まるでなにかを捕らえるようにドーム状に。
「結界か。こんな規模のデカイ結界を出来るのは……リューク先生だな」
とてもじゃないが俺にはまだ到底無理だ。それは魔力量もだが、なにより技術が足りない。一見大雑把に見えるこの結界。実は風の強さが全て均等になっていた。無論、強さを均等にするのは並大抵な技術ではない。力というのは、ほんの些細なことでも大きくなったり小さくなったりと変わるものなのだから。この規模の結界ならその幅は更に大きくなるだろう。なのにも関わらず均等。
とんでもない制御技術だった。こんなのは学生には出来ない。将来間違いなく英雄と呼ばれる人材であるシルアやレグルスでも今は不可能だと言い切れる。だとしたら出来るのは、リューク先生しかいない。
「そんなことは分かってるわよ!問題はこれどうやって突破するか、よ」
……いや、マジか。わかってたのか。ふぅ……恥ずかしすぎる!!!思わずドヤ顔で言っちゃったぜ……。
くそ……これだから天才って奴は嫌なんだ。どういう頭の構造してるんだ全く。本人は自分は天才じゃない。シルアこそ真の天才よって言うけど平凡な俺からしてみたらどっちも雲の上の人物だよ。
なんて愚痴を漏らしつつ、案を考える。
流石はリューク先生の結界。よく見ると魔耐性が最大まであげられている。これではリーシャの最大火力を持ってしても穴を開けるのは難しいだろう。
「まぁ……魔法だったらの話だけどな!」
「なにか良い案を思い付いたの!?」
「あぁ!」
俺はニヤリと笑うと、土魔法を行使した。
戦いの影響かひび割れている地面から砂が巻き上げられていく。
丁度俺の全身を囲うように。
砂と俺との距離はおおよそ2ミリ。それを永続的に保つように制御した俺は、集結させ肥大した砂手を振りかざす。
そこでリーシャも何をしようとしているか気づいたようだ。
「あんたまさか!その策って!?」
「強行突破だぜ!」
唖然として、なにか言いたそうにだが言葉にすることができずパクパクと口を開いてるリーシャを横目に俺は砂拳をぶつけた。
結界は重く、硬い。まるで鉄筋コンクリートを素手で殴っているような感覚だ。ぶつけているのは砂の拳なのに皮膚が破けたのか痛みが走る。おそらく
―――だが諦めるわけにはいかないんだよ!!
2方向からの大きな力の加わりで、制御が出来なくなってきたのかサラサラと崩壊し始める砂の鎧。
しかし、腕の、拳の制御だけは絶対に狂わせない。狂ったら最後、俺の体は弾け飛ぶだろう。他ならぬ
また、弾け飛ばなかったとしてもここで退いてしまえばおそらく結界を壊すことはもう出来ない。既に力の大半を使い果たしているからだ。
俺に退くという選択肢はなかった。
「うおおおおおおお!!!」
咆哮と共にありったけの力をぶつけるとミシリと空間が軋む音がした。
ギシギシと空間が歪む。……いや歪んでいるのは結界か。この際どっちでもいいか。
ここまでこればあと一踏ん張りだ。ぐっと、腰を入れて、加える力を更に強くした。
バリン。
そんな呆気ない音を最後に結界が破れた。実際にはおおよそ一人分が出入りできる穴が出来ただけだが。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
やはり流石だ。全力を持ってしても一部しか破壊することができなかった。
しかも、破損箇所は早くも修復しようとしている。多分この結界はあと一分もたたずして完璧に元通りになるだろう。俺の全力が一分しか
「……やっぱ世界は広いな」
「何か言ったヴィル?」
「いや、なんでもないさ。早く行こう!」
リューク先生は英雄クラスではなかったと聞く。なのにこの技量。……ならばそのリューク先生に英雄クラスと診断された俺はどこまで技量を伸ばせるのだろうか。
残りの学園生活が楽しみになってきた。
だが、やはり楽しく過ごすためにはシルアは必要不可欠だ。
「絶対に助けてやらないとな」
「当たり前よ」
いつの間にか口に出てしまったようで、俺の言葉にリーシャは即答して笑う。
「さっさと救出していつもみたいに馬鹿騒ぎしましょ!」
「そうだな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます