第25話
「おう、リーシャ。 お前面談は終わったのか? あれ、ならシルアは? ん、どうした? 何かあったのか?」
「……ど、うして?」
開口一番に声をかけてきたのはヴィルだ。
涙は拭いたはずなのに何でなにかあったと分かるんだろう。不思議に思っていると、ヴィルは私の頭をクシャクシャと撫でてぶっきらぼうに。
「今どうしてって思っただろ。 はぁ、お前はいつまでもおっちょこちょいだな。 俺はずっとお前と共にいたんだぜ? そんな俺が気づかないとでも思ったのか?」
「え……」
い、今の何?
ドクン、心臓が高鳴る。顔がカァーット熱くなっていく。
「なんてな。 目が充血してるんだよお前。 大方涙拭いたからバレてないと思ってたんだろ? ホントいつまで経っても抜けてんな」
「馬鹿ッ!」
「痛ってぇ!? ま、まぁ、落ち着いただろ? で、何があったんだ?」
言われてみればさっきまで今にも張り裂けそうだった心は落ち着きを取り戻していた。
……ホントこういうところは敵わないな。
「……ありがと」
私は小声で礼を言うと教卓の前に立ち、周りを見渡した。
良かった。皆いる。
そして全員がこちらに注目してることを確認すると、スゥッと息を吐き。
「皆……助けて!」
その言葉を初めに、私は詳細を説明した。
◇
「そんな……シルアートちゃんが……」
「酷い! 酷すぎるよ」
「くぅう……なんて奴だウォンバスター! オレがぶっ潰す!」
「……非道。……許せない」
説明を終えると個々が口々に喋り始めた。
言葉は違えどもその全ては『シルアートの心配』と『ウォンバスターへの非難』だったことに一先ず私は安堵する。
「……にしても記憶を失う魔法ですか。わたくしはそのような魔法を初めて聞いたのですが、レグルス様はどうですか?」
「心当たりは……ないことはない」
その台詞に私を含め全員の視線がレグルスに移る。
視線に気づいたのかレグルスは慌てて弁明をした。
「いや、そんなに期待されても困る。 あくまでも可能性の話だ」
「可能性でもいいわ! 今はただ情報がほしいの。 教えてレグルス!」
「……分かった」
レグルスは小さく頷くと、全員を見て問いかけた。
「初めに聞くが、お前ら『
独裁者?
初めて聞く言葉に私は首を横に振る。
声があがらないところを見ると、私以外も誰も知らないようで暫し沈黙が佇む。
その沈黙を破ったのはヴィルだった。
「『
「ああ、その認識で合ってる」
「それが今回の話とどう繋がるっていうんだ?」
「そうだな。 まずは『
そうして。レグルスは、『独裁者』について語り出した。
◇
「『
「あの、話に横やりを刺すようで悪いのですが、『命令』魔法とはどのような魔法なのですか?」
「その名の通りあらゆる『命令』を強行させる魔法だ。 例えば魔法を掛けた相手に「パンを買ってこい」と命じれば「パンを買ってくる」みたいなものだ」
「随分と可愛い魔法なんだな」
「それは誤解だレン。 そうだな、「跡形もなく爆発しろ」と命じれば「跡形もなく爆発」するし「死ね」と命じれば「死ぬ」と言えば分かるか?」
「「「……ッ!?」」」
「しかし、どんな魔物でも魔法をかければ一撃で傀儡に出来る……そんな強力な魔法使いなら名前はもっと広まっていると思うんだがそこら辺はどうなんだレグルス?」
「簡単な話だ。 国が隠蔽した、それだけだ」
「い、隠蔽?」
「あぁ。 確かに『
「やってはいけないこと?」
「『
「人に!?」
「話を聞くところによると初めはある貴族の依頼だったらしい。「自分の息子が反抗期で困ってる。だから『命令』をかけてくれないか?」ってな」
「……『命令』を掛けた所で、その『
「これもまた簡単な話だ。 『その人の命令を聞きなさい』って『命令』したんだ」
「……なるほど。……やっぱり非道」
「まぁ、何がどうあれそれがきっかけになったのは間違いない。 それに続くように『
「王族の支配……」
「そうだ。 幸いにもそれは貴族の側近だった男からの情報の流失によって未然に防がれた。 それから一連の事件で『命令』魔法に怯えを抱いた王……つまり俺の父上は『
「……なぁ、ヴィリック、リーシャ。 お前達に聞くがシルアートは貴族だな?」
「……ええ。シルアはレシアンテ家の長女よ」
「おいリーシャ!? 勝手に話したらシルアに怒られるぞ!?」
「それで記憶が戻るなら喜んで怒られるわ!」
「そうか……よりによってレシアンテ伯爵家か。 それなら納得がいく。 十中八九シルアートは『命令』で縛られている」
「……どういうことだ?」
「さっき王族の支配を目論んだ貴族がいたと言ったよな」
「まさか……」
「あぁ。 目撃証言ばかりで直接的な証拠は出ていないが……ウォンバスター=フォン=レシアンテ。 彼が犯人だと言われている」
「なっ!?」
「元々ウォンバスターは他の貴族よりも『
「じ、じゃあ私が魔力を感知できなかったのも……」
「あくまで『命令』を掛けてるのは『
「……なら魔法を解く方法は?」
「残念ながら『
「そんな……じゃあどうすればいいのよ!? シルアは一生このまんまなの!? そんなの……そんなのってないよ……」
「リーシャちゃん……」
「う……うう……」
「……なぁ、レグルス。 本当にもう方法はないのか?」
「ない。……『命令』を解除する方法はな。 だがシルアを戻す方法はある」
「! それって……」
「ウォンバスターはシルアートを政略結婚に使おうと目論んでるだよな、リーシャ」
「……え、ええ。帰ったら見合いさせるって言ってたわ」
「なら簡単だ。 その見合い相手より良い家柄の相手を出せばいい」
「簡単に言うけどね……、そんな相手が一体どこに―――ってまさか……」
「この国において最上位の家柄。 それは王家……つまり俺が婚約者になればいい話だろう? さて話は終わりだ。 まだウォンバスターは帰っていないかもしれん。 さっさと俺を応接室へ案内しろ……反撃開始だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます