第21話
決闘場へ入ると、すぐ脇にある武器籠に向かう。そこで武器を取るのだ。
だが、木で作られたその籠の中には様々な大きさがあるが木剣しか入っていなかった。
「先生、木剣しかないんですけど……」
「武器といったら剣以外俺は認めてないからな。 さぁ選べ」
お前の仕業かよ!?しかも完全に個人の価値観で決めつけてるし!ま、まぁいい。どうせ木剣を取るつもりだったし、選ぶとしますか。
「えーと、どれが良いかなぁ……」
もっともあるのは木剣だけなので、質を見ることになるが、そんなの分かる筈もなく……。
迷っても時間の無駄なので適当に一本抜き取った。……ちょっと大きい気がするが問題ないだろう。
続いてレグルスが適当に木剣を一本抜く。
……やっぱ木剣の質なんて分からないんだな。少し安堵した。
「よぉし、お前ら! 全員に武器が行き渡ったようだな。 ではリーシャ、ヴィリック、フィールドへ出ろ! 模擬決闘を開始する!」
「はい!」
「えぇ……いきなり?」
やる気満々のヴィリックとは違いリーシャがめんどくさそうに聞き返した。
「なんだリーシャ。 やる気ないのか?」
「魔法が使えない決闘なんてやる価値がないわよ……それに筋肉バカに勝てるわけないじゃない……」
まぁ、リーシャは剣とか振り回す姿など想像できないほどバリバリ魔法特化って感じだからな。対してヴィリックは近接型みたいだし。
魔法使用禁止の今の状況だと相性は最悪なのだろう。
しかし愚痴ったものの、リュークの指示に逆らうことはなく二人はフィールドに出た。
そして初定位置につくと、木剣を構える。
「では始め!…………止めッ!」
勝負は……一瞬だった。
うん……ホントに比喩ではなく一瞬だった。
始まってすぐにヴィリックの姿が見えなくなったかと思うと、次の瞬間にはリーシャの喉元に木刀を突き付けていたのである。
確かにヴィリックは剣を使えるって言っていたが、まさかこれ程とはね。
「だから筋肉バカとはやりたくないって言ったのよ!!!」
「筋肉バカ言うな!」
「ホントのことじゃない!」
「ねぇ、ヴィル」
フィールドに出てから一分もしないうちに戻ってきたヴィリックに声を掛ける。
「ん? なんだシルア?」
「……剣は嗜み程度しか使えないのじゃなかったっけ?」
「うん、そうだけど?」
ヴィリックは大きく頷く。俺は、ことさら疑問を深めて言った。
「でも、詰め合いとか凄かったよ? これが嗜み程度なの?」
「ああ。 今のは単純な振込みで速く詰めたように見せただけだから、剣の腕は関係ないよ。 現にさっきも喉元に当てただけだしな」
「……」
『単純な振込みで速く詰めたように見せた?』。え、ゴメン、何言ってるかさっぱり……意味わかんないよ……。
「……シルア、真剣に考えちゃダメよ。 ヴィルなんだから」
「……そうだねヴィルだもんね!」
良いこと言うじゃないかリーシャ!おかげでキャパオーバーしなくて済んだよ。
「うぉい!? どういうことだよ! それ!?」
「そこ、うるせぇ! 静かにしてろ!」
何かデジャヴ!
「「「ごめんなさい」」」
「分かったならいい! じゃっ、次! ソフィヤ、アリス準備しろ……」
と、こんな感じに模擬決闘は進んでいき、遂に決勝戦。
「---泣いても笑ってもこれが決勝戦だ。 準備はいいか、二人とも! さぁ、フィールドに出ろ!」
その言葉にコクりと頷いた二人はフィールドへ向かう。
やがて初定位置に移動すると、互いに木剣の先を向けあい構えた。
「始め!」
そして戦いは開始され---。
「---優勝はエティカ!!!」
「……わーい?」
「くっ、俺としたことが……」
数十分の激闘の末、勝負を制したのはエティカだった。負けたレグルスは頭を押さえて悔しそうにしている。
だが、レグルスはよくやった方だ。今までの試合、エティカと当たった者は、あのヴィリックでさえ数秒で倒されていたのだから、それを大幅に更新しただけでも称賛に価する。
「くそー! 俺も決勝戦行きたかったぁ!!」
「二回戦負けのヴィルじゃ無理な話だよ」
「シルア、貴女も人のこと言ってられないわよ?」
「そうだぜ!? シルアートは一回戦負けなんだからな! まさか武器がすっぽ抜けるなんてな。 腹を抱えて笑っちゃったぜ!」
「う、うるさいなぁ……そういうレンだって一回戦敗北じゃない」
「……それ言うとわたくしも一回戦敗退なんですが」
「私も、私もよ!」
「リリーは仕方ないんじゃないかな。 一回戦がエティカだし」
「じゃあ私もしょうがないね。 二回戦の相手がエティカちゃんだったし」
「……確かにそうなんだが……自分で言うのはどうかと思うぞアリス」
「ま、簡単にまとめると君達は所詮三回戦まで進んだ僕以下ってことだね」
「今日の第一声がそれでいいのかユリウスよ……」
「はいはい! お前ら、静まれ静まれ! じゃっ、約束通り優勝したエティカには素敵なご褒美をやろう!」
「……やった」
リュークが手を叩き、ポケットからごそごそと何かを取り出し、それをエティカに渡した。
「はい!」
「……何これ?」
渡されたものを見て固まるエティカ。
「「「!?………………」」」
その反応に、何だ何だと皆が駆け寄り、一斉に顔を反らした。
エティカの手にある紙には手書きで『実技の先生は君だ』と書かれていたのだ。
誰もが思った。優勝しなくて良かったと。
そして全員は奇しくも優勝してしまったエティカに同情の目を向けた。
「……解せない」
視線から逃れるように俯いたエティカの声が静かな決闘場に響いた。
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