第18話
日が傾き始めてきた夕刻。
寮の一階にある食堂で夕飯を食べた俺は一人隣室である204号に向かっていた。
コンコン。
「どうぞ~?」
扉の前に立ちノックするとすぐに返事が返ってきた。
二階は女子の部屋しかない。男子は全員三階の部屋を使ってるからだ。
だから必然的に女子の部屋に入ることになるのだが、もう慣れた、と言わんばかりに堂々とした佇まいで俺は部屋に入る。
「わっ! シルアートちゃん!? どうしたの?」
「こんばんわ、アリス。 今時間あるかな? 話したいことがあるんだけど――」
アリスは驚きを見せたが……。
「うん! いいよ! 今は何もすることないしね。 で、話したいことって何かな?」
断ることをせず無邪気に微笑む。
話を早く終わらせたいからかどうかは知らないが面倒な無駄話をせずに本題に入れそうだ。
「じゃあ早速本題なんだけど……アリスって創造魔法使いなんだよね?」
「うん、そうだよ。 それがどうしたの、シルアートちゃん?」
「その……創造って具体的にどういう魔法なの? なにか出せるの?」
「うーん。 生物以外の実体を持つ物なら構造を知ってれば出せると思うけど……」
ふむ……創造では実体の持たない火や水は出せないのか。まぁ、火や水を出されたら汎用魔法使いの立場は無くなるからな。やっぱ、その辺は世界の構成として考えられてるのか。……ってあれ?ということは実体を持つ氷は出せるのか?……嘘だろ。俺の立場が無くなっちゃう!!
「そ、それって、こ、氷もだ、出せるの?」
「うん。 出せるよ」
「…………」
溜息しか出ない。
マジでさ……ただでさえ氷しか出せなくてちょっと使いづらいなって、でも俺にしか使えない魔法だからって、何とか精神を支えてると言うのに、アリスは氷まで使ってしまうのかよ。しかもその上実体を持つものなら何でも出せるっていうね……。
完全に俺の上位互換じゃねぇか!
「あはは。 めちゃくちゃ動揺してるね」
「し、してしてななないよよ」
「でも安心して。 私は確かに氷を出せるけど、シルアートちゃんみたいな高火力は絶対無理だから」
「え?」
「創造には重量制限と大きさ制限があるんだよ。 今の私じゃ……一日30㎏、数メートルが限界かなぁ。 だからシルアートちゃんみたいに数十メートル級の氷柱を何本も立たせるなんて逆立ちしても出来ないの」
なるほど、確かにそんな制限があるなら真似は出来ないだろう。
ホッと息を吐く。
べ、別に自分の立場をとられなくて良かったとか思っている訳じゃないんだからねッ!
「ま、だから氷柱も一日一本しか立てられないなら戦力として使えないし、武器を作るにしても剣と弓ぐらいしか構造知らないから私の魔法は弱いんだけどね……」
アリスは、口をとがらせ、なんとも言えない
表情になった。ボソッと呟く。
「…………私もシルアートちゃんみたいな強い魔法がよかったな」
「……なら、私がその魔法を強くしてあげようか?」
「え………」
「あれ? シルア、そこはアリスの部屋よね。 なにか用事でもあったの?」
「うん。 ちょっと勉強を……」
「シルアが勉強!? やだ、槍でも降るんじゃない!?」
「それは言いすぎ!」
リーシャの中の俺はどんな扱いなんだよ。
くわっと目を剥いたリーシャに、ムッとして言い返す。
「……私も新入生だから勉強するのは当たり前でしょ?」
「ううん、変」
「………………」
こうもはっきり言われると流石に傷つくな。
「……ま、いいわ。 で、何の勉強をしたのよ?」
「あっ、うん。 銃についてだよ」
「じゅう? え、なんなのそれ?」
「そのうち分かるよ」
「あ、そう。 なら良いわ」
やけに簡単に退くな。どうしたんだ?
「って、なんでリーシャは廊下に……」
「うん。 これからSクラス女子の親交会をやるらしいからシルアも誘おうと思って……来るでしょ?」
えええ。女子だけの親交会か……。ま、まぁ仕方ない。親交の為だもんな……行ってやるか。
「……分かった行くよ」
「その言葉に二言はないわね!」
「えっ……」
嫌な予感がして聞き返すと、リーシャは俺の腕を強く掴んでそのまま寮一階へ向かう。
「ちょ、まって! 親交会でしょ? 誰かの部屋に行くんじゃないの!?」
堪らず問い掛ける。
「ううん。誰の部屋にも行かないわ………今日は裸の付き合いだもの」
「ふぁっ!?」
「さぁ行くわよ!大浴場に!」
「い、いやぁぁぁぁあ!!!」
寮の地下一階にある大浴場に連れてかれた俺は、しばらく抵抗していたがやがてリーシャに服を全て脱がされ尚且つ「入らないと返さないわよ。貴女は真っ裸で男子がいるかもしれない外に出られるかしら?」という悪魔のような一言で、大人しく浴室へ入っていた。
もちろんポジションは隅っこだ。堂々としてられるだけメンタルは強くない。誰も近寄らないでくれ。それだけを思っていた。
だが、
「やっほー! シルアートちゃん! さっきぶりだね」
「あ、アリス!? って前隠して!!!」
「ほえ? あ!! ふーん!! シルアートちゃんは恥ずかしがりやなんだね~」
そのニヤニヤ笑いやめろ!そして早く隠せ!!!
しかし思いは届くことなく
「大丈夫! 恥ずかしいなら慣れれば良いんだよ! これからはあたしが毎日一階に……」
「ストップ~! わ、私がシルアと入るわ!」
「リーシャさん!?」
「……私も入る」
「あらあら、ならわたくしも立候補させていただきますわ」
「皆が入るなら私も! 私も!」
「……いっそ毎日大浴場使えばよくない?」
「「「それだ!」」」
「や、やめろー!?」
騒ぎを聞き付けたのかいつの間にか周囲を囲うように集まった女子達に俺は、これからの日常を思って、涙を流した。
◇
翌朝、俺は自室で人生最大の決断を強いられていた。
今、目の前にあるのは二着の服。
片方は昨日着ていた白のドレス。片方は昨日渡された胸元が大きく開いた純白ドレスの制服。
正直どちらも着たくないが、白のドレスを新調した際にリーシャに没収されたため替えの服が無いこの状況。まさか今着ている寝間着で登校するわけにも行くまいし……。
どうしてもこの二着のうちどちらかを選択しなければならないのだ。
普通に考えて、どうせドレスを着用するなら胸元が開けた制服よりも変にアレンジを加えてない白のドレスの方がマシだろう。
だが、この場合は違った。
制服があるのに、それを着用せず他の服を着るということは余程その服に愛着があるのではと勘違いされる恐れがあるのだ。
いや勘違いされるくらいならまだいい。問題はシルアート=白のドレスと認識されてしまうかも知れないと言うことだ。
そうなったら最後、俺は卒業まで白のドレスの呪縛から抜け出せなくなってしまうだろう……考えただけで恐ろしい。
逆に、制服はSクラス以外は着用が義務付けられているだけあって変な認識を持たれることはないだろう。その点で言うと優れている。
だが、デザインがアウトだ。
生粋の女子であるリーシャでも呻き声を上げる逸品なのだ。
そんな逸品を俺が着用なんて……絶対に嫌だ。例え認識されなかろうがそんなのを着ていたという事実で俺は生涯、地獄を見ることになるだろう。
「やっぱ……これだな」
双方ほとんど利点がなく、悪点ばかり。
だから利点ではなく悪点を考慮して悩んだ結果……。
小さく息を吐くと、白のドレスに手をかけた。
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