第16話
「僕、ユリウスは……シルアート、君に決闘を申し込む!」
「えっ、嫌ですけど」
「ふふふ、でしょうね! 挑まれた勝負は受ける。 それが上に立つもの謂わば首席の器というもの---え………………」
一瞬、何を言われたのか理解できずポカンと口を開けたユリウスは、すぐに顔を赤くして怒鳴りつけた。
「な、何故ですか!? 貴女には上に立つ者の誇りというものが無いのですか! それでも貴方は首席……」
「知るか馬鹿!」
いや何故って……誰がそんなめんどくさいことを好んでやるんだよ。やるわけねぇだろ。逆に何で俺が承諾すると思ったのかが意味不明だわ。
シユリウスの言葉を遮って続けた。
「大体、決闘したとして私の利がありますか? 勝っても負けても利がないですよね」
「い、いやそれは……あるさ!」
「……なに?」
「僕に勝ったっていう名声さ!」
一瞬、静けさが駆け抜けた。あっ、みてみて鳥肌立ってる。コイツがキショイこと言うから……。
「どうだ? 名声、欲しいだろ?」
「論外です。 要りませんそんなもの。 冗談はほどほどにしてください」
「「「ブフッ!」」」
そしてクラスメイト達が噴き出した。
その事により重い雰囲気が一転、和やかな雰囲気に変わる。
しかし、自分に勝ったという名声が“そんなもの”扱いされたことに怒りを覚えたユリウスは、その雰囲気に溶け込むことが出来ず、真っ赤な顔でぶるぶると身体を震わせ――美形を歪ませて叫んだ。
「ふざけるな!」
「ふざけてませんが……」
「そう言うのがふざけてるんだよ!」
思ったことをそのまま言っただけなのにキレだすユリウスに、まさか……さっきのは冗談じゃなかったのか、内心呆れる。
「……いいだろう。 僕の力を存分に見せつけてやるよ。 さぁ、決闘だ!」
「いやだからやらないって」
……駄目だ。コイツ話が通じない。
本末転倒なことを言い出すユリウスに流石に俺も怒りを覚えた時---。
「シルアート、これは担任である俺からの命令だ。 決闘してこい」
リュークからの助け船が入った。……ユリウスに。
「は?」
てっきり、めんどくさいのが嫌いと言った怠け者のリュークなら反対するかと思っていたのに、と硬直する俺にリュークは耳元でぼそりと呟く。
「いや、だって……アイツこのままにしておくとめんどくさいじゃねぇか」
「あーね」
確かに決闘するよりもこのまま放っておいた方がめんどくさそうだ。それならリュークの行動に納得できる。担任の取る行動としては納得できないが。
ジーと半眼を向けると、すかさずリュークは視線を外し、全体へと向けて通告する。
「時間はこれより一時間後、場所は屋外決闘場……だと壊れそうだから闘技場Б、試合は公開制とする」
……“壊れそうだから”の部分でチラッとこっちを向いたのは悪意あるよな。壊したことないのに……うん。壊してはないよな、ちょっと凍らせちゃっただけで……。
「……僕の力を評価してくれたのは良いけど、何故一時間後なんですか?」
余程自信があるのか、ユリウスは自分の事だと思い込んでるようだったが。
「いや、お前のことじゃないんだけどな……」
「え?」
「まぁいい。 で、質問の答えなんだが、場所の使用許可とか取るのに時間がかかるし、それに――」
そう言うとリュークはユリウスの机の上に積まれた教科書類を指差して苦笑した。
「まずそれらを寮部屋に置いてくることが先決だろ」
◇
やっぱこの学校凄いな。
目の前に立つ三階建ての建物、“第一学年Sクラス用”の寮棟を見て小さく感嘆する。
まさか一学年に一つ寮棟があるなんて……。
もっともそれはSクラスだけであったが、そんなことは今はどうでもいいと、俺は自室である203号室を見るやすぐに飛び込んだ。
「おお!」
部屋の広さは、ルーベの宿屋と同じくらいなのだが質が違う。家具も揃えられており、どれも見れば一級品だと分かる代物だった。
「!? このベッド……ッ!!」
まず第一にとベッドにジャンピングした俺は言葉を失った。
そう、それは伯爵家にいた頃使っていた自室のベッドと同じ……またはそれ以上の肌触りのよさとフカフカ度を誇っていたのだ。
「まさか……ここで再会するとはね。 またよろしく頼むよ相棒!」
テンションが上がり、俺はらしくないことを言ってのける。そして、やがて嬉しさを抑えられなくなりピョンピョンと跳ねた。ベッドの上で跳ねる跳ねる。そして――
「シルア、入るわよ……って何やってるの!?」
「ベッドが……壊れちゃった…………」
――ペタんと床に座り込む俺の横には真ん中からバキリと折れたベッドがあり……。
再会と同時に逝ってしまった相棒に涙ぐむ俺に……。
リーシャは呆れて頭を押さえた。
ちなみに後日ベッドは戻ってきたが性能は著しく低下していたことは言うまでもない。
◇
あらゆる面で優れた人物を育成する以上、当然それ相応の施設が求められる。
それも、賢者や剣聖といった英雄クラスを育成することが出来る程の規模の。
故に、レアクトル学園の敷地には一般生徒用の決闘場と英雄クラス用の闘技場がいくつも点在しており、英雄クラス用なだけあって闘技場には内部直径百メートルほどの戦闘フィールドと、それを囲む観戦席が設けられていた。
しかし、英雄クラスがそうそう現れるわけではない。そのため普段は校内戦などイベント等でしか使われていない闘技場だったが、そのうちの一つ、闘技場Аの中心にシルアートとユリウスの姿があった。
そして、そんな二人に向けられるいくつもの視線。それはSクラスだけのものではない。
普段は解放されない闘技場が解放されたことに興味を持ち駆けつけてきた上級生や、同じ世代のトップ同時の戦いを参考にと見学しにきた同学年の視線もある。観戦者数は約数百人と新入生同士の決闘にしては異常な数字だった。
「おいおい、少し人多すぎじゃね?」
「まぁ、闘技場で決闘出来るのは英雄クラスだけだからな。 大方、英雄クラスの実力ってやつを見に来たんだろう」
ヴィリックの呟きにリュークが応じる。
―――ちなみに何故リュークが観客席にいるかというと、審判はリュークではなく三年のSクラス教師、レストアがやることになっていたから。レストアの心底嫌そうな顔を見るにリュークが審判を押し付けたことは従順理解できた―――
「ええ!ええ? じゃあシルアートちゃんは英雄クラスなの!英雄クラスなの?」
「ああ。 ユリウスはよく分からんがシルアートは俺が試験官をしてたからな。 アイツは英雄クラスだと判断した」
「……へぇ」
その言葉にトーンを低くしてリーシャが返すと、ヴィリックがニヤニヤと笑いだした。
「リーシャなに拗ねてんだ? 置いてかれたのが寂しいのか?」
「……別に拗ねてないし」
いや明らかに拗ねてるじゃないか。ヴィリックはらしくない態度を取るリーシャに、はぁ、とため息を吐くとリュークを見た。
何とかしてくれ、と。
「……ちなみに、入試で200点以上のレグルス、リーシャ、ヴィリックも英雄クラスに分類されるぞ。 まぁ、まだまだ英雄クラスの最底辺ってとこだがな」
流石に空気を読んだのかリュークがそう言うと、リーシャはパアッと顔を輝かせた。
やっぱり拗ねてたじゃないか。
その言葉を呑み込み、ヴィリックはポンとリーシャの肩を叩く。
「……だってさ。 良かったじゃん」
「……アンタもね。 気づいてないと思うけど頬が緩んでるわよ」
と、和やかに話をしてるとクラスメイト達に声をかけられた。
「スゴいなッ! リーシャもヴィリックもおめでとう!!」
「……おめでとう」
「そーいえば、リーシャちゃんとヴィリック君って筆記満点だったよね! どーやったの!?」
「あら、わたくしもそれを聞きたいと思ってました。 引き算ありましたよね。 あれ、どうやって解いたのですか?」
「それよりオレは実技について聞きたいんだけど」
「……私も実技について興味ある」
怒濤の言葉攻めラッシュに二人がワタワタしていると、ずっと沈黙を貫いていたレグルスが口を開いた。
「始まるぞ」
◇
「ではこれから決闘の事前連絡をさせてもらいます。 ルールは入試の決闘実演とほぼ変わらず武器は木刀か弓、魔法は自由です。 勝敗は一方が敗けを認めるか、私が続行不可能と判断した場合決します。 双方開始線まで下がり、合図があるまで武器や魔法を使わないこと。 ルール違反は即敗北と見なします。 以上」
シルアートとユリウス、双方が頷き、中心から20メートル離れた開始線で向かい合う。
―――何で俺がこんなことを……。あー、視線が痛い!!見られてるよぉ。……くそ!だからジャージが欲しいって言ったのに。リーシャのバカヤロー!
―――シルアートは個人魔法使い。自分より格上かもしれない相手だ……だがシルアートの魔法が本当に『氷』なら勝率はある。氷は火に弱い。なら『火』だけを使えば勝てるはずだ。
双方考えることは違うが、共に引き締まった表情をしていた。
いつの間にか、観客席からのざわめきは消え、場は静まり返っていた。
静寂が支配権を確立する中、レストアが声を上げる。
「……では、試合開始!」
「悪いがこの勝負勝たせて貰うよ」
「……まぁ、せいぜいがんばれ」
「その強気の態度も今のうちさ。 じゃあ、行かせてもらおうか!」
こうして、
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