第14話

そして時は進み、入学式。


 新入生となる三人は学園の職員に案内され、式場内へと足を進めていた。


「……にしても合格発表からの展開が早すぎるな」

「そう? 早くて疲れないから私は良いと思うんだけど」

「俺もリーシャに賛同だな。 ……だが何故二人とも俺に教科書を持たせるのかは理解出来ない」

「「つべこべ言うな」」


 まったくもう、この男はレディーファーストってものを知らんのかね。重いものは男が持って当然でしょう。


「……シルアも段々リーシャに毒され……似てきたな。 それも嫌~な方向に……」

「……ヴィル。 それ悪口だからね」

「ちょっとシルア、それどういうことよッ!?」

「三人とも、式が始まるから私語を慎みなさい」

「「「すみません」」」


 先生に怒られてしまった。


 確かに新入生の行動としては少々無遠慮だったな。これじゃあ怒られても仕方がない。


 素直に謝ると、先生はハンと鼻を鳴らして言った。


「まったく。 お前達はSクラスなんだ。 皆の手本となる佇まいをしなきゃ駄目だろう。 まぁ、いい。 ほら、あそこがSクラスの席だ。 順番は決まってないから好きに座るといい」


 職員の指の先に視線を向けると、二列横隊の椅子が五脚ずつ置いてあった。

 しかも、式場内には続々と新入生が入ってきてるのにSクラスはまだ一人もいないようで席は全部空いていた。

 

「ヤッホーい、じゃあ俺は一番前の左端を貰うよ!」

「じゃあシルア、私たちは右端にしましょう」

「ええ!? シルアは左に来るよな!? なっ?」


 左右から声を掛けられ、俺は大袈裟に顎に手を当て考え始める。


 ふむ。これがモテ期と言うものか。うーん迷うなぁ。どっちに行ってあげようかなぁ。やっぱここは定石通りリーシャか?それとも裏をかいてヴィルか?……ッ!?……リ、リーシャ様の言うとおりにしなくちゃ!!!


 悪戯っぽい笑みを浮かべチラチラと二人を見た直後、リーシャに睨まれていることに気付き即座に右端に寄っていき隣の椅子にちょこんと座った。


 …気持ちが良いほどの従順っぷりである。


 チラッ。うん、リーシャ様はご満悦だ。ニコニコしてる。良かった。本当に……良かった……。

 

「おい、ちょっとまてよ!? 脅して手に入れるなんて卑怯だぞ!」

「ふふふ、これが策略よ!」


 脅すのが策略だったら近所のガキ大将は全員策士じゃねぇか。……とてもじゃないが土管の空き地にいつもいるガキ大将が策士とは思えないんだが。


 冷ややかな目を高笑うリーシャに向けたが、ヴィリックの反応は違った。


「くっ……これが策略なのか。 なんて酷い策略なんだ」


 真剣な眼差しでリーシャを一瞥すると、高らかに宣った。


「だが、攻略法はある!!!」

「攻略法?」

「ああ……簡単だったぜ。 俺もそっちに行けばいいんだよ!」


 何言ってんだコイツ。俺とリーシャの心が一つになる。


「「……」」


「な、なんだその目は……。 さ、寂しいからってわけじゃないぞ!? あれだよ、あれ。 やっぱ知らない人に囲まれるより知ってる人間が近くにいた方が落ち着くっていうかなんというか……」


 それを人は寂しいと言う。


「「……」」

「……」

「「……」」


 沈黙は続き、そして遂に沈黙に堪えかねたヴィリックは咆哮した。


「……くっ、もう! ああ! 認めてやるよ! 寂しいんだよ!!! そして俺は寂しいと死んじゃうんだよッ!!!!」

「「お前(アンタ)はウサギかっ!?」」

「おい! お前らいい加減にしろ!」

「「「はい、すみません!」」」


 それから入学式は特に取り立てて言うこともなく普通に終わった。

 新入生は皆平等に地位を捨ててるためか入学式に新入生の家族が見に来るということもなかったので、式が終わるとすぐ教師に引率されてそれぞれの教室へと移動した。


 色々あったが、これにてようやく学園生活の始まりだ。

 これで完全に俺は自由なんだ!

 柄にもなく俺の胸は期待に満ちていた。


「あー。 とりあえず教室に来たから自己紹介でもするか。 俺はリュークだ。 このSクラスの担任でお前らを卒業まで面倒を見ることになるな。 嫌いなことはめんどくさいこと……だからくれぐれも面倒事を起こさないように」


 そう言ってリュークと名乗った男は、ふあぁと大きく伸びをした。


(((この人大丈夫か?)))


 早くもクラスメイトの心が団結する中、一人だけ違うことを考えてる者がいた。


 コイツ……包帯はしてないがあの時の試験官じゃねぇか。コイツが担任なのかよ!


 他ならない、俺です。


「あー。 ま、お前らの気持ちも分からんでもない。 正直俺も俺みたいな男が担任って言われたら正気かって思うからな」


 はっはっは、ボサボサの黒髪を掻きながら笑い飛ばすどこか情けない感じの男に、クラスメイトは一斉に落胆のため息を吐いた。

 が、リュークは気にせず続けた。


「じゃあ、まずはお前達にも自己紹介をしてもらおうか。 そうだな、入試の成績順で……まずはシルアートからいくか」


 うげっ。めんどくさいのキター。めんどくさいの嫌いとか言っといて人にめんどくさいこと押し付けるのかよ。


 そんな思いを圧し殺しながら、俺は作り笑顔を振り撒く。


「はい。 皆さん初めまして、私はシルアートです。 魔法は個人魔法で氷魔法を得意としています。 よろしくお願いします」


 頭を下げると同時に拍手が繰り出される。


「シ、シルアがまともに自己紹介をしてる……」

「天変地異でも起きるんだわ……」


 し、失礼な!


「次は次席。 レグルス」


「はい、初めまして。 俺はレグルスだ。 この学校には地位を捨てる為だけに入学した。 魔法は首席と同じ個人魔法使いで雷を使う。 よろしく」


 レグルスは金髪青眼の長身の男で、悔しいことに美形だった。

 うん。こいつは敵だ。誰がなんと言おうとこいつは俺の敵だ!


「では次は三席。 リーシャ」


「はい。 初めましてリーシャよ。 魔法は個人魔法使い……って続きたいところだけど残念ながら汎用魔法使いね。 得意魔法は火よ。 よろしくね」


 リーシャは……特に感想はないな。ま、前に一度ならぬ二度聞いたし当然か。


「次、四席。 ヴィリック」


「はい! 初めましてヴィリックです。 魔法は汎用魔法使いで地を好んで使います。 一応嗜み程度ですが剣も使えます。 よろしくお願いします」


 ……次ッ!


「次、五席。 ユリウス」


「畏まりました。 初めまして。 僕はユリウスです。 好きなものは女の子で嫌いなものは男。 魔法は個人魔法使いですが特に好き嫌いはなく全て同じくらいに使えます。 女子の皆さん、今後よろしくお願いします。 あっ、男子はよろしくしなくて結構です」


 ユリウス。こいつは紫色の髪を肩まで下げた細身のイケメンだった。うん、こいつは敵というよりはもっとおぞましいなにかを感じる。距離を常に置いておくよう心がけなければ。


「次、六席。 レンフォールド 」


「おうよ! 初めまして! 初めましたぁ!!! オレはレンフォールド! 気軽にレンって呼んでくれ! 魔法は汎用魔法で風が得意だ。 よろしくな」


 華奢な黒髪の少年で……イケメンではなかった。どちらかというと男の娘って感じだ。制服を着ていなかったら多分性別分からなかっただろう。そんな容姿だった。

 ……うん!どうやらレンフォールドとは友達になれそうだ。外見と内面の性別が違う同士だからね。


「次、七席。 リリー」


「はいはい! 皆様皆様初めまして!初めまして! あたしはリリー!リリーよ! 魔法は汎用魔法ね!汎用魔法使いなの! 得意魔法は水で弓を多少使えるわ!使えるの! よろしくお願いね!お願いする!」


 空色の髪を背中まで伸ばしたちっちゃな女の子で、珍しく年齢に合った言動をしていた。

 ……よかった。大人びてる人ばかりじゃないんだな。安心した。


「次、八席。 ソフィヤ」


「はい。 皆はじめまして。 わたくしはソフィヤです。 魔法は個人魔法使いで音を使いますわ。 よろしくお願いいたします」


 淡いピンクの髪をセミロングにしたやけに発育が良い少女だった。ほんと十歳とは思えないほど発育がいい。どこがとは言わないが。……それにしても音の魔法って何なのだろうか。想像がつかないが。


「次、九席。 エティカ」


「……はい。 ……初めましてエティカです。 ……魔法は汎用魔法使いで風と火を使える。……だけど私は剣以外使うつもりはない。……よろしく」


 エティカは紫銀色の髪をショートカットにしてる少女で俺にとって因縁深い無口キャラだった。


「最後、十席。 アリス」


「はーい。 最後に成りましたが、ご紹介あたりました。 アリスです。 魔法は個人魔法使いで創造です。 あんまり強くない魔法なんですが、足を引っ張らないよう頑張るのでよろしくお願いします」

「え……」


 艶がある金髪を束ねポニーテールにしてニコッとはにかむ少女―――アリスは最後の最後で爆弾を発射した。


「そ、創造の魔法!?」

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