第9話
試験会場に着いてすぐ筆記試験を受けた。一緒に向かったヴィリックとリーシャとは不正防止のためか別々の教室にされたが、何の問題もないほど試験は簡単だった。予想外の出来事と言えば満点合格を無くしたいのか知らないが最後の方に引き算が出てきたことだろう。ヴィリックが持ってきた過去何年の過去問には引き算なんて一切無かったので大抵の受験者は大打撃だったのかもしれないな。
実際試験中に動揺の声が聞こえたし。まぁ、俺の勉強会を受けたヴィリックとリーシャは引き算はもちろん、掛け算の九九までは軽く出来るようになってるから何の心配もないか。
ん?俺の点数?あんな簡単な問題に間違えるわけねぇだろ。満点だ満点。
そして、実技試験が始まった。試験の内容は予め聞いてた通り決闘実演だ。
正直、ヴィリックやリーシャが相手だったらと昨日遅くまで考えていたのだが、その心配は無用なようだった。
決闘実演は筆記を受けた教室毎のグループ内で行うらしい。
筆記試験会場から試験官に連れられ、着いた先は屋外決闘場 ψ と呼ばれる場所。決闘場はここで決闘するだけあってテニスコートより少し広いぐらい面積があるのだが、アルファ文字的に ψ より後の ω があるか分からないが最低でも23箇所は存在することが分かった。まぁ ψ がアルファ文字の意味で付けられてない可能性があるから実際には確証出来ないのだが。
なんて考えてると、試験官が決闘実演のルールを話始めた。
ふむふむ。簡単に説明すると筆記受験の際に席が前後だった者同士でペアを組み、互いに心臓部に装着する
また反則行為は使用が許可されている弓と木剣以外の道具使用だけで、魔法の使用は制限されていない。
あくまで単純な戦闘力を測るため、なのだからだろう。もしくはどうせ学生だから人を害するような魔法が放てないと舐めているからなのだろうか。
まぁ結局実演終了時には『水』の応用魔法……『治癒』をかけてもらえるらしいから何とも言えないけど。
ま、どちらにしろ俺には都合が良い。この世界に来てから全力を出したこともないし、威力制限が掛かってなくて逆にラッキーだと思う。思ったより威力あって人を害して反則とか笑えねぇからな。いやマジで。
最初のペアである白髪の少年と青髪の少年が決闘場に入っていった。
ちなみに俺は窓側の端っこだったので順番的には最後だ。トリと言われると緊張するが他の人の実演を見れるだけ最初のペアに比べたら幾分かマシなのだろう。最初と最後って緊張度数もあまり変わらないからな。
「それでは、決闘を始めたいと思う。 お互い全力を尽くして戦え」
「「はい!」」
黒いローブに目以外を覆い隠す包帯と日本なら通報されてもおかしくない試験官の男が透明な結界を張る。時折風切り音を奏でてるので恐らく『風』の応用なのだろう。
「では始め!」
何気に初めて実戦を見るので、どんな魔法の使い方をするのか気になる。
だから身を乗り出して観戦した。
「うぉおおおお!!!!! 食らえぇえええ!!!」
「くっ、火の魔法か! なら水魔法で!!」
「ならこっちは風魔法だぁあ!!!」
「あまい!!!」
突然現れた火が水流に飲み込まれ、水流が風で切り裂かれていき、その風が地面から出てきた壁に防がれる。そんな非科学的な光景に俺は…。
すげぇ、完全に無詠唱だ!魔法に詠唱って必要なかったのか!? って、そういえば俺も詠唱なんてしなくても魔法使えたな。ていうかそもそも魔法に詠唱がいるって誰が考えたのだろうか。そいつ絶対中二病だろ。
……なんて考えていた。
両者互角で永遠に続くかのように見えた試合にも、やがて終わりが訪れる。
「
「よっしゃあああ!!!」
「嘘だぁああああ!!!!」
結局、先に相手の的を破壊し勝ったのは初めに水魔法を使ったサーフルと呼ばれた青髪の少年で、彼は勝鬨を上げると敗者である白髪の少年に目もくれず颯爽と決闘場から出ていった。
「おお、やったね!」
「流石だな、あっちの雑魚とは大違いだ」
「俺は人目見たときからお前が勝つと思ってたぜ」
出てきたサーフルを皆が笑顔で迎い入れる。白髪の少年もすぐに出てきたのだがそっちにはほぼ無反応だ。たまに反応する生徒もいるが、決まって口にするのは侮言。白髪の少年は下唇を強く噛みそれに堪えていた。
敗者である弱者は切り捨て勝者である強者に媚を売る。それがこの世界の理なのだろう。……だが、俺はそれに納得出来なかった。
なんかデジャヴだ。
………こういう雰囲気ムカつくな。
「なぁ、そこのお前」
「……えっ、俺のことか? ……いやそんなはずがないな。 俺は敗者なんだから……」
「馬鹿か。 お前以外に誰がいるんだよ」
素を全く隠そうとせず、淡々と告げると茶髪の少年は驚いた表情を見せる。が、それを気にせず続ける。
「惜しかったな」
「……ッ!」
「なぁ、試験官」
何か言いたげに、だけど涙を堪えて話すことが出来ない白髪の少年から視線を離し試験官に向き合う。
「なにかね?」
「少し提案があるんだが……いいかな?」
「提案によるが……なんだ?」
「あー、ちょっとムカついたんでストレス解消にアイツら全員と戦わせてもらって良いですか?」
「「「なっ!?」」」
周りが愕然とする。それは白髪の少年も同じで開いた口が塞がらないと言った感じだった。しかし、俺の口は止まらない。円滑に言葉を紡いでいく。
「あっ、もちろん試験方式で構いませんよ。 当然こんな無茶な要求してるんだから私が負けたら筆記試験関係なく落としてくれて構いません」
「お前が言ってることがさっぱり理解できんのだが。 そんな要求が通るはずないだろうが。 それに何が不満なんだ?」
本気で言ってんのか。コイツ?
呆れながらも口を開いた。
「全部」
「は?」
「全部ですよ。 聞こえなかったのかこの変態包帯仮面。 正直こいつらと同じ学舎で六年とか寒気がして嫌なんですよ」
「だったら受けなければいいだろうが」
ま、そうなるよな。まさしくその通りだ。けれど、正論が必ず詭弁に勝てると思うなよ。場合によってはその場逃れの詭弁が正論に打ち勝つことだってあるんだよ。ソースは前世の俺。何度イジメられてるって訴えても詭弁に負けるって言うね。
「いやいやおかしいですって。 ここは人が平等に扱われるはずの場所でしょ? なのに何で敗者が不平等に扱われてるんですかね? まさか敗者は人間じゃないとでも言うつもりなんですか? 万民平等を掲げといて、差別する。 最低だなこりゃ……」
「い、いやそれは……違う!」
「いーや、違わないね」
「違うと言っている!」
激高し、試験官は真っ向から否定してくる。周囲の受験者たちも声を上げ、「死ね!」だの「可愛いからって調子乗ってんじゃないわよ」だの「ブス」だのと罵詈雑言が響いてきた。
だが、悪口は、自分の一番気にしているところを相手に言う、という習性を知っていた俺は気にするどころか、ハッ、と鼻で笑い飛ばし、試験官の耳元で囁いた。
「そこまで違うというなら、証拠見せろよ」
「証拠だと?」
「何聞き返してるんだよ。 分かるだろ? 罰さ。国命に背いたソイツらに罰を与えるんだよ。 落選という罰を」
「ぐっ……」
「ははは。 だよなぁ、出来ないよな。 あの決まりがあるからな」
「……なぜそれを」
かかった!
ハッキリ言ってカマかけただけだったのだが、成功したみたいだ。心眼を使えば簡単だったかも知れないが、
だが……貰った。動揺を露にした試験官を見てニヤリと笑みを溢す。
「だっけど、そんな君に大チャーンス! 全員と戦わせてくれるなら私は口を閉ざすことを約束しましょう! そうすればこの由々しき事態が広まることはありません!」
「……だが他の試験官がなんと言うか」
当然ながら、最難問校の試験に付き添う試験官が一人のわけがない。姿は見せてないが、どこかで見ているのだろう。そして姿を見せていないということはそれを受験者に悟られてはいけない、なのにも関わらず試験官はそんなことを口にした。
試験官は俺が他の試験官がいることを分かっている。分かっていたから耳打ちをしてるのだ、と判断したのだ。
「あー、それならこう言えばいいんですよ。 調子に乗ってた受験生がいたから己の無力さを理解させるため全員と勝負させたってね」
「……なるほど。 それなら……分かった。 その提案を飲もう。 ……お前名前は?」
「シルアート。 ただのシルアートだ」
試験官はその言葉に覚えておくと頷くと、皆に向かって振り向き宣言した。
「これより、シルアートVS三十七名の決闘を始める」
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