第7話

「この森か」

 体格のいい男が1人、兵たちの先頭に立ってふんぞり返り森の入り口を睨んでいた。

「あの、なにとぞ、リイナを…」

「見つけたら、保護しますよ。まぁ、こんな森で生きているとは思えませんが」

 不安そうな初老の男に鼻で笑い返し、右手を掲げる。それを合図に背後にいた兵たちがドラゴンにまたがって綱を握った。


「目標は“人喰い飛竜”の討伐!見つけ出して八つ裂きにしろ!」

『おおー!!』

 男たちの腹の底から出す大声が、森の木々を揺らす。その声に動物たちは一斉に森の奥へと逃げていき、鳥たちは飛び立っていった。

 次々とドラゴンたちは地を離れてゆく。大柄な男も、自慢のワインレッドのドラゴンにまたがり、森の上へと移動する。


「―何度来ても同じ事だ。帰れ―」

 男のドラゴンの前に、夕日を背に受けて現れたドラゴンの影が落ちる。声の主もドラゴンの上にいるようで、情報は本当に正しかったらしい。男は口角を上げて笑う。

「出たな、ドラゴンテイマー。貴様がドラゴンに人間を喰わせていたんだろう」

「こいつはそんなまずいもんは喰わない。それとも、お前は美味いのか?」

「なっ!」


 クスクスと笑うジードの言葉にカーっと顔を赤らめ、手綱を握る手に力がこもる。

「調子づいていられるのも今のうちだ。全員、攻撃を開始せよ!」

『うおー!!』

 兵たちが一斉にレアードめがけて飛んでくる。大きさはレアードの半分くらいでスピードは結構速い。あっという間にとりかこみ、後ろで見ていた男は得意げにふんぞり返っていた。

 自分は何もしていないのに、あんな態度を取れるとは、ある意味すごい。絶対に自分の上司にはなってほしくないものだと、ジードは心の中でため息をこぼした。

 なら、さっさとその鼻っ柱を折ってやらなくては。


「レアード、お前の声を聞かせてやりな」

「ギャァァァ!!」

 キーンと耳を貫くレアードの鳴き声。森がうるさいと言わんばかりに木を揺らし、数匹のドラゴンが地面に向かって落ちていった。

「何!?」

 男が驚くのも当然だ。人間には少しうるさい程度の違和感しかないのに、ドラゴンは目を回しているのだから。答えはいたって簡単で、ドラゴンの聴力は人間の数倍よく、動物の中で頂点に立っているほどなのだ。長所は短所にもなるということである。

 なんとか空にとどまっているドラゴンたちも、動ける状態ではなく、乗っている兵たちが必死にドラゴンを操ろうと試行錯誤している。まともに動けるのは、離れた場所にいた男のドラゴンのみ。


「さぁ、あとはお前だけだ」 

 男の顔に先ほどまでの余裕はなく、悔し気な表情を浮かべてこちらを睨んでいる。

「馬鹿にするなよ…。ベアトリス!ファイアーブレス!」

「!!」

 ドラゴンが火の球を吐き出し襲い来る。レアードはかろうじて避けたが、そこで大きなミスに気が付く。

「やはり己が大切か!森が燃えているぞ!!」

  燃えている、森が。たくさんの動物たちが住む森が。あの子と師匠がいる森が。

  呆然と足元を見つめることしかできないジード。男の高笑いも、その耳には届かなかった。 

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