第3話
カシャンカシャンと、歩くたびに右腕全体を覆う鋼の装備が音を出す。肩から指先まで覆うそれは、竜から身を守るためだろうか?いや、それにしては右腕だけというのはおかしいのではないだろうか。
ドラゴンテイマーなのに、背中には大きな剣を背負っており、それを振るえるたくましい筋肉が付いた左腕がマントの隙間から見え、ついつい感嘆の声が出る。
「おい。ここが出口だ。今すぐ帰れ」
振り返ったドラゴンテイマーは不機嫌だと顔に書いてある。ハンターだと思ってきてみれば、幼い子供が1人でいたものだから、出口まで案内してくれたらしい。
「ドラゴンテイマーさんは、こちらに住んでいるんですか?」
「俺はドラゴンテイマーじゃない」
「でも、ドラゴンを従えていましたよね?」
帰れと頑丈な右手が森の入り口を差しているが、一向に従わないリイナ。それに加えて飽くなき探求心なのか、好奇心なのか、目を輝かせたまま質問をしてくる。
「…ジードだ」
先に折れたのは、ドラゴンテイマー、もといジードだった。深くため息をこぼして左手で額を抑える。
人食い飛竜にも怯まなかった肝の据わったやつだと思っていたが、これほどだったとは…。
ジードは身をひるがえすと、新たな場所へ歩き始めた。その背は拒むものではないとなんとなく感じ取り、リイナは急いで後追う。
先ほど飛竜が現れた開けたところを更に奥に進むと、きれいな小川が流れていた。その水を飲んでいる鳥たちは、ジードが通っても気にしないが、リイナが続いてくると飛び去ってしまった。気づけば他の動物たちも同じように、ジードには懐いているようだ。
「ジードさんは、いつからここに…」
無言で歩き続けるなか、リイナは質問しようと口を開いたが、目の前の光景に言葉が続かなかった。
この森で一番大きいだろう大木が開けた空間の中心にあり、その周りを見たこともない綺麗な花が咲いている。風に乗って花のいい香りが飛んできて、心が温かくなる。
「こっちだ」
呼ばれた方を見ると、大木の脇にある小屋の前でジードが待っていた。今度は足元にちゃんと気を付けながら進み、リイナはジードの小屋にお邪魔する。
「ここって、ジードさんが建てたんですか…?」
「まぁ、そうだな」
4畳ほどありそうな小屋の中の壁には木の板を打ち付けて棚にしており、色々な植物や瓶に詰められた何かがあった。真ん中に備え付けられたテーブルに案内され、素直に腰を下ろす。ジードは棚から赤い実が入っている瓶を持ってくると、コップにとりわけてリイナの前に置いた。
「これは…?」
「この森に咲くゼシカの実で作った甘いジュースみたいなもんだ」
十センチほどのコップに入っているのはたった一センチほどの液体だった。横から見たり上から見たり、コップを持ってからも下から眺めたりとよく観察してからリイナは少量口に含んだ。
「甘い!」
飴を液体にしたような味の濃さなのにのどごしはさらさらとしており後まで残るくどさがまったくない。初めて口にするその美味しさに、コップとジードを交互に何度も見てしまう。
そんな素直な反応を見せるリイナに、ジードはふっと一瞬笑みをこぼした。
笑った瞬間を見てしまったリイナは、ジードをまっすぐ見つめる。
「ジードさんは、テイマーではないのですか?」
彼はドラゴンテイマーではないと言っていた。しかし、人食いと恐れられる飛竜は、ジードに従っていたのだ。それに動物たちも彼には心を許していた。
はぐらかされてしまうかもしれないと思ったが、ジードは口を開いてくれた。
「あいつは俺に懐いているが、いつも言うことを聞くわけじゃない。テイマーの定義をどこに設けるかによるのかもしれないが、俺はきっとそんな大層なもんじゃねぇよ」
自嘲気味に笑うジードは、ぽつりぽつりと話してくれた。
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