第64話ユノが魔法を使えるならばっ!

「召喚魔法の基礎から言うとですね、召喚の仕方は大きく分けて二つ方法があるのです」

「二つ?」

「はいです」


 ユノがどこからか取り出したメモ帳に鉛筆でメモを取り、リーフィは魔法で黒板と机椅子を出した。ほんと、魔法は万能だな。


「まず一つはですね、『契約型召喚魔法』なのです」

「契約型?」

「契約型というのはですね、リーフィのように、魔法等で呼び出されて、その後の交渉によって契約することです。契約型は、呼び出す度に供物などを捧げる必要があったりするものも居ますが、気に入られた場合は例外として、ノーリスクで召喚できたりもするですね」

「な、なるほど…」


 へぇ…そうだったのか。なにも考えることなくサツキを召喚してたけど、俺供物はなにも出さなかったよな?

 んー、気に入られているからなのか、もしくはサツキが単純に外の世界を見たいと言っていたからそれ自体が供物みたいなものだったのかな?

 ま、前者なら嬉しいけどな。


「利点と言えば、契約内容によっては強大な魔族や妖精族を仲間に出来るかもしれないってところですね。あとは、まあ使う魔力の消費が抑えられるところですかね。難点は完全に制御はできないところです」

「強大な…魔族と……」

「ま、それも才能によるですけどね」


 ふーん、あ、じゃあリーフィって俺と契約結んでくれるのかな?あとで聞いてみるか。


「次に『使役型召喚魔法』です。これは、ユノさんが使えるですね?」

「あぁ、『死霊召喚ネクロマンス』のことか」

「そうですそうです。その使役型というのはですね、自分の魔力を用いて下級の魔物を支配し、召喚から使役までをする魔法です。こちらは比較的に量産しやすく、自分の魔力を使うので制御も簡単といったところですね」

「ふむふむ」

「ただ、こちらの難点は消費する魔力が契約と比べてかなり大きいです。それに完全に支配するので、規格外な魔力を持たないと魔族とは契約出来ないです。今までに例は見たことないですね」

「スルガ?サキュバスは、魔族だよな?」

「ん?なんのことかな?」


 ちぃっ!リーフィめ、余計なことを教えやがって…きっとあれだって、サツキが実はとんでもなく弱かったっていうことだって。


「スルガさんはサキュバスと契約してるですか?」

「ん?んー……まあそんな感じ…かな?」


やめろっ!ユノ!そんな目で俺を見るな!


「確かに、スルガさんの魔力…人間とは違いますね。量もそうですが、根本的な質が違います…ね?本当に人間族ですか?」

「ちょ!待て!バカ!バカリーフィ!」

「バカリーフィとはなんですか!?リーフィはバカでもアホでもないですよ!」


プンプンとその場で地団駄を踏むリーフィ。

いや、頼むからユノの前でそんな不安にさせるようなことを言うなよ…人間だから!普通の人間!……異世界の。


「あ、リーフィは俺と契約してくれるのか?」

「契約ですか?そうですねー」


 むむむ、とこめかみを押さえて考え込むリーフィ。


「契約したいですか?もしスルガさんがどうしてもしたいと言うならば、してあげても…」

「あ、いや別に嫌ならいいんだけど」

「軽いですっ!?ダメですよっ!レディーがこうやって言ってるときには大概契約したいということですから!」

「ん?リーフィは契約したいのか?」

「…………そこまでは」

「じゃ、契約は破棄だな」

「したいです!したいですからっ!」


 リーフィは高飛車な態度を改めて少し涙目で訴えてくる。

 うん、なんだろうな。もちろんリーフィとは最初から契約するつもりだったんだけど、リーフィはなんだか虐めたくなるんだよな。あ、これ危ない思考かな?


「じょ、上級妖精相手にこんなに強気に出れるなんて…スルガは凄いんだな…」

「そうでもないさ。それにしてもなんでリーフィはそんなに契約したがってくれるんだ?正直そんなに俺に魅力があるとは思えないが…」

「んーとですね…スルガさんはなんだか暖かい雰囲気があるのです!強いて例えるなら創造神様のような雰囲気です!……あれ?なんでスルガさんは創造神様のオーラをまとってるです?」


 なるほど、これは多分クロエの加護のお陰だな。クロエの加護がリーフィにとって良い影響を与えるものになってるんだろう。


「あ、あの、私の召喚魔法はどうなったんだろうか…?」

「あ、忘れてたです。といっても、もう教えることはほとんど教えたですよ。ただ、短時間なら片方しか教えられないですよ。使役型か契約型、どっちがいいです?」

「う、うーん…」


 ユノが腕を組んで悩ましそうな声を出す。

 というか、リーフィはリーフィですごいな。この短時間で教えられるというのが。俺も見本を見せることは出来るかもしれないが、教えるとなれば話は別だ。


「やはり、グーちゃんたちには思い入れがあるからな…使役型がいい」

「じゃあ、『死霊召喚ネクロマンス』以外の召喚魔法を教えるってことでいいです?」

「あぁ、それで頼む」

「俺は見学でいいから、二人で頑張ってくれ」

「そうか、悪いな」

「まあ、スルガさんは召喚魔法使えるですからね。私を召喚出来たということは魔力が飛び抜けているということです」

「はいはい、そのとおりだな」


 こいつ、俺を褒めるようで誰よりも自分を上げてやがる。その証拠に分かってないですねコイツみたいな笑顔を浮かべている。


「い、いひゃいです!いひゃいです!ごめんなひゃい!」

「どうした?ん?」

「お、おい。スルガ。流石にムカついたからと言ってもそんなに頬を引っ張らなくても…」

「これは俺の愛情表現だ。気にするな」

「愛が痛いですぅ…」


 真っ赤になった頬を手でむにむにしながらリーフィが呟く。

 ははは、愛ってのは痛いくらいが丁度良いんだよ。それも愛の形だ。


 それから暫くはリーフィによる召喚魔法特訓が始まり、俺はまたいつの間にか召喚されていたグーちゃんと一緒にその様子を眺めていた。


「違うです!ここはこうやるです!」

「はい!リーフィさん!」

「リーフィ先生と呼びなさい!です!」

「はい!リーフィ先生!」


 楽しそうだなー。


「グーちゃん。俺たち暇だな」

「ヴァ(そっすね)」

「グーちゃんって彼女いるっけ?」

「ヴァッ!?ヴァヴァ…ヴァア(え!?なんすか急に!?…まあ、好きな人はいるっすけど……)」

「マジで!?誰々!?」

「ヴァ…(それは……)」


 いいもんいいもん、こっちはこっちでボーイズトークを楽しむぜ。


「もしかしてアイツか!?あの右肩の骨が露出しているやつ!垂れたまぶたがキュートだよな!」

「ヴァ!ヴァア!(あ!分かるっすそれ!でもその子じゃないんすよね)」

「えぇ、じゃああのおっぱいの形がしっかりと残ってるやつか?」

「ヴァ!?ヴァヴァ……(お、おっぱ!?そ、そんなの関係ないっすよ…それにその子でもないっすから……)」


 ふむ、あの二人じゃない…ということは、他によさげな子っていたか?


「まさか、ユノじゃないだろうしなー」

「…………ヴァッ!?(なぜ分かったんすか!?)」

「マジかぁ……」


 人間と屍鬼グールかぁ。中々ハードルが高そうだな。一つ物語が書けそうなものだ。


「リーフィ先生!こうですか!?」

「その調子です!その調子で反復横飛びを繰り返すのです!そこです!」

「はい!先生!ふっ!ふっ!ふっ!!」


「あれがいいのか?」

「ヴァ(うっす)」


 あいつらなんの練習してんの?反復横飛びなんて召喚魔法に関係あるか?いや、ないだろう。(反語)




『スルガちゃん、聞こえてる?』

『ん、サツキか。聞こえてるぞ』


 不意にサツキからの連絡が来る。

 この前の契約によって心の声が聞こえるようになったが、オンオフが可能なのを知り、普段はオフにしているのだが、今回は連絡がとれるようにしていたのだ。


『良かったわ。距離があっても聞こえるのね』

『らしいな、どうした?』

『どうしたって、スルガちゃんが私に様子を見に行けって言ったんじゃない』

『あぁ、そうだったな』

『もう、スルガちゃんはS気質があってこうふ…困るわ』

『今、興奮するって…言おうとしたか?』


 ったく、性の獣め。そういえば邪教が来るフラグを確認させに行かせたんだった。さっきのグーちゃんの暴露に驚きすぎて忘れてた。


『性の獣じゃなくて性の魔族よぉ、そんなに節操なしじゃないわぁ』

『嘘つけ、ユノに飛び掛かってただろうが。それよりも、どうだったんだ?』

『うふふ、ティアちゃんって良いからだしてるわよね。スベスベの肌をしてるわぁ』

『はっ!?お前もしかしてティアに手を出したのかっ!?』

『冗談よ、ティアちゃんもメアちゃんも、今はお休みしてるわ』


 なんだ、寝てるのか…はぁー心臓に悪いわ…ほんとコイツあとでもう一回チョップ食らわせてやる。


『いつもの、普段通りの町みたいよ。ま、私は、普通の町なんて知らないけどね』

『そうか、ありがとう』

『うふふ、スルガちゃんの為なら何でもするわよ』

『女の子がそんなことを軽はずみで言うな。仕舞いには襲うぞ』

『そんな勇気あるの?』

『…………ねえよ』


 チェリーなボーイの俺にそんな勇気があるか。それでも本当に、誘われちゃったら襲っちゃうかもしれないから軽はずみで変なことを言うのはやめてくれ。


『そっちはどうするの?もうすぐ帰ってくるの?』

『あー、もう少ししたら帰る。それまでティアたちを見守ってくれ』

『分かったわ。うふふ、可愛いわね。私、魔族なのに母性があるみたいだわ』

『ん、いいんじゃないか?そこに魔族だからなんていう垣根はないだろ。それに、ティアもメアもサツキだから信頼してんだ。気にするなよ』

『…スルガちゃんって、ズルいわぁ』


 サツキが一言、そう喋り連絡が途切れる。

 どうやら町のほうは気にしなくて良いみたいだ。俺の考えすぎだったらしい。


「出来たっ!私の召喚魔法!」

「完成です!よくやりましたユノさん!」


 お、丁度ユノたちも出来たみたいだ。さてさて、反復横飛びが一体どんな成果を生んだのか、見せてもらいますか。


「行きます!『召喚サモン!フェアリー!』」


 ユノの足元に魔法陣が出来て光が集まっていく。


「お、ユノも妖精を出すのか」

「ヴァ…」

「グーちゃん?」

「ヴァヴァ…ヴァ?(ユノ様が新しい仲間を得たら、自分はもう…用済みっすかね?)」


 グーちゃんは垂れた肌をさらに垂らして落ち込む。あぁ!皮下脂肪が床にっ!


「だ、大丈夫だって。仮にもグーちゃんなんて名前をつけてもらってるだろう?」

「ヴァ(たまに間違えられるっすけどね)」

「そ、それは…」


 くそう、慰めの言葉が見つからねぇ。ユノもユノで名前つけたんなら覚えておいてやれよ!


「……?」

「あ!妖精さんが出てきたぞ!」

「やりましたねユノさん!下級妖精ですよ!私よりも弱い下級妖精です!……いひゃいでひゅひゅるがひゃん痛いですスルガさん

「余計なことを言うなリーフィ」

「……!」

「な、なにを言っているのだ?」

「あぁ、下級妖精は喋れないんですよ。言葉を扱えるのは妖精の中でも一部のものだけですから」

「……!」

「久しぶりですね、貴方は確か火妖精ですね」

「……!」

「はい?いえ、リーフィはユノさんとは契約してないですよ。こっちの男の人です」

「……!」

「だ、ダメですよ!この方は私と契約するんです!貴方はこっちのユノさんにしなさい!」

「……?」


 う、うーん。分からん。なんでリーフィは会話できるんだ…ていうか、この下級妖精はリーフィみたいな人型ではないんだな。上級妖精だからリーフィは体があるんだろう。下級妖精は羽が生えた光見たいな感じだ。


「私と、契約してくれるのか?」

「……!」

「契約は出来ないそうですね、あくまで召喚されただけだそうです。使役するのなら魔力で頼めばいいそうですよ」

「……!」

「そ、そうか。ぐぬぬ、契約してくれたらもっと嬉しいのだが…」


 そう簡単には行かないものらしい。なんだかこういうのを見るとやっぱり俺がズルをしてるような感覚になるな…


「まぁ、使役しているうちにユノさんのことを覚えて、すぐに契約してくれるようになりますよ」

「そんなものなのか?」

「……!」

「友達になってくれるなら使役してもいいって言ってるです」

「そうか、じゃあ…なんだか恥ずかしいな。えっと、友達になってくれるか?」

「……?」

「名前をつけてほしいそうですよ」

「そうなのか?確か火妖精といってたな。じゃあ、フレアちゃんでいいか?」

「……!!」

「気に入ったみたいですよ」


 よかった。なんとか召喚魔法は成功したみたいだ。これで俺の役目は終わりかな。


「じゃ、俺はそろそろ帰るわ」

「な!もう帰ってしまうのか…?」

「当たり前だろう、ずっとこの洞窟にいるわけにはいかないからな。召喚魔法、大事にしろよ」

「こ、こんなところでスルガとは会えなくなってしまうのか!?」


 ユノがこっちへ近付いてきて迫ってくる。近い近い…


「別に、まだしばらくはシュロンにいるから会えるさ」

「つ、ついていったらダメか?」

「んー…ちょっと困るかな、あはは」

「そう…か」


 ユノが信頼出来ないとかではないが、ティアやメアと仲良く出来るかどうかは分からない。それに、俺としてはあまり大人数でいるのは嬉しくない。


「すまないな、でもまた会えたときは話そうぜ」

「分かった。次会ったときには酒でも奢らせてくれ!」

「え、俺未成年だよ?」

「そうなのか!?もう15を越えてるんじゃないのか!?」

「あ、こっちは15歳以上で飲めるんだっけ?」


 15歳酒は飲めるのか。いやぁでも昔、親戚の集まりで叔父さんに飲まされた酒は苦くて嫌いだったなぁ。


「ま!会ったら会ったでその時はよろしく頼むわ!じゃあな!」

「あ、待ってです!私もついていくですぅ!」

「ま、また会おうな!スルガ!」

「おーう!」


 俺は振り返りユノに手を振って洞窟から抜け出す。




「行ってしまったな…また、会えるだろうか……」

「ヴァ(きっと会えますよ)」

「グーちゃん…」


 静かになった洞窟で、人と屍鬼がそう呟いたのだった。







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