第62話俺が少女を思うならばっ!

 言い争いがヒートアップしていったが、最後は屍鬼(グール)のグーちゃんによってなんとか幕が降りた。


「というか私たちは、まだ名前も知らなかったな」

「まだグーちゃんしか知らないな」

「ヴァ?」


 なんかグーちゃんの見た目に慣れてきたわ。どことなく目が垂れてるのも可愛く……やっぱ見えねえ。


「私はユノ。見たらわかると思うが、普通の『死霊使いネクロマンサー』だ」

「普通の死霊使いって意味がわからないが…俺はスルガ。今さらだけどユノはここで何してたんだ?」

「私は魔法の練習をしていた。一月前からこの洞窟に隠れて練習していたんだ」


 一月前…洞窟のダンジョン化の時期と重なる。


「なぁ、悪いけどこの洞窟で練習するのはやめてくれないか?」

「な、何故だ!?」

「さっきも言ったけど冒険者達に被害が出ている。そうなれば、その内屍鬼でも敵わない奴が来るだろう。そうしたら大切なグーちゃんだって殺されてしまうぞ」

「ぐ…それは困る…」


 ユノは歯ぎしりをして俯く。

 今更だが、ユノは身長150くらいの少女。艶やかな黒色の髪を伸ばし、結構可愛い容姿をしている。赤い目がくりくりとしていて、顔が小さく守りたくなるような感じだ。


 ……うん、手を出したら余裕で犯罪だわ。いや別に手を出そうとか思ってないよ?あわよくば、なんて考えてないですよ?確認ですよ確認、ええ。


「あの、ところでユノちゃんは何歳かな~?」

「なんだ急に。私は14歳だ。」

「はいアウトーッ!!」

「ヴァッ!?」

「あ、ごめんグーちゃん。驚かせた?」

「ヴァァア、ヴァ」

「そうか、なら良かった」

「なにげにスルガもグーちゃんと話せてるじゃないか」


 いや憶測でこんな感じかなとか思っただけで分からないけどね。


「14歳ってことは…まだまだ子どもだな」

「なんだとっ、15歳になれば成人だぞ!もうすぐ大人になってやるからな!」

「え、15歳から成人なの?20歳じゃなくて?」

「当たり前だろう、もしかしてスルガは知らなかったのか?」

「あ、うん。俺の故郷では20歳からが成人なんだよ」

「ふぅん。過保護な所だな」


 過保護…ね。俺としたら15歳、つまり中学校を卒業して社会に投げ出されるとか考えられないけど。


「と、いうか。どうなんだ?この洞窟から出ていってくれるのか?」

「それは…」


ユノは返事が出来ずなにかを考え込んでいるようだった。


「もしかして此処から出られない理由でもあるのか?」

「そうだ。私には魔法がこれしか使えないから、これを練習するしかないんだ」


そういうとユノはグーちゃんに近付く。

つまり、先程の『死霊召喚(ネクロマンス)』しか使えないのか。


「普通に町や郊外で使えばいいじゃないか、こんな遠くまで来なくても」


 ここはシュロンの町からまあまあの距離がある。それに道端とかではなく、場所を知らなければ見つけることは困難だろう。


「町や郊外で屍鬼を召喚したらどうなるか、考えればすぐわかるだろう。そして、召喚した私はどうなる」


 俺を責めるようにして詰め寄る。

 確かにそうだ。屍鬼は正直良い見た目はしていない。アンデッドというだけあって、色々と露出しちゃってる。骨とか、臓器とか。

 そんなのが町中や町の近くで現れたら、すぐに討伐され、『原因(ユノ)』を探しだすだろう。急にアンデッドが現れるなんてことはないんだから。


 そうすれば、ユノが捕まるのは時間の問題だろう。屍鬼を完全にコントロール出来なければ、屍鬼が人を襲うのは目に見えているからな。

 仮に完全にコントロール出来たとしても、それを周りに信じさせることは不可能に近いはずだ。アンデッドは魔物。そういうイメージがあるからな。これはなにも考えず言った俺が悪い。


「すまない、軽率な発言をした」

「いや、気にしていない。私がこんな魔法しか使えないからいけないんだ…」

「それ以外の魔法はダメなのか?」

「…そうだ。今までいろんな魔法を練習した。しかしどうやっても魔法を使うことが出来なかった。火魔法も、水魔法も、風魔法も、光魔法も…考えられる魔法は全て試した。」


 ユノが急に早口になり、感情が籠った言葉を紡いでいく。


「でも駄目だったんだ!周りのみんなは色んな魔法が使えるのにっ!私だけが使えなかったんだ!!」


 ユノの瞳が潤み、表情が陰る。周りのみんな、というのは多分、ユノの友達とかのことを言ってるんだろう。

 周りは魔法の才能を開花させていくのに、一人だけ使えないという孤独感、それは焦燥感に変わり、ユノを蝕んでいったんだろう。


「必死に使える魔法を探したっ!そしてある日見つけたんだ!シュロンにある図書館で『死霊召喚(ネクロマンス)』の魔法を見つけた!出来るわけがないと思いながらも、やってみたら召喚出来たんだ!私にも魔法が使えたんだ!!私みたいな奴にだって使える魔法があるんだ!そう思ったっ!……けど、結局こうして人に迷惑をかけてしまうのだな」


 ……魔法。考えもしなかった。今まで会ってきたやつはそれぞれ何かに特出していたし、魔法は誰にでも使えると思っていた。

けどそれは勘違いだった。魔法だって才能なんだ。得手不得手があるように、ユノには魔法の才能がないのかも知れない。


 俺は『ズル』をしている。この世界に来るときにクロエに魔法の才を貰った。

 その効果は凄い。何をするにしても、やりたいと思ったらイメージをするだけでなんとかなる。

 目の前の少女がこんなにも悩んでいることを軽々と、息をするように使えるようになったのだ。

 そう思うと、罪悪感が胸を突く。俺が悪であるように思えてくる。急にユノに対して謝りたくなってしまう。



 けれど、多分それは違う。それは俺がやるべきことじゃない。目の前の少女が泣いている時に、何も出来ることがないならば、いくらでも同情してやる。


 でも俺には『ズル』がある。魔法の才という『ズル』がな。


「やはり…私は魔法を使うべきではないのかもしれないな…だからどんな魔法も使えないように神様がしたのかな」




ね。あんなお人好しの神様が頑張ってきた奴に魔法を使うななんて言うわけがない。」


「スルガ?」

「俺が、お前を変えてやる。ユノ、魔法を使っちゃいけない奴なんていない。もしいるならそれは犯罪に使うようなやつだ。お前は誰か一人でも殺したか?傷付けようとして人を襲ったことがあるか?」

「そ、そんなことやるわけがない!暴力は最低の行為だ!」

「なら自分で魔法を使うべきじゃないなんて言うなよ!確かに今まで辛かったかもしれないけれど!たくさんの涙を流してきたかもしれないけど!!それでもユノは使える魔法を必死に探してきたんじゃないのか!?努力してきたんじゃないのかよっ!!?」


 俺は何故か体に熱が入り、ユノの肩を掴んで必死に叫ぶ。


「そうしてやっとの思いで見つけた自分の魔法を諦めるのか!?諦めきれるのかよっ!?」

「諦められるわけがないだろうっ!!でもどうすればいいのさ!?なんの魔法の取り柄もない私が!!何年間も頑張ってきたのに!やっとの思いで出来た魔法も人に嫌われるんじゃ意味がない!!こんな私をっ……こんな出来損ないを誰が助けてくれるんだっっっ!?」





「俺が、助けてやる」


 顔を真っ赤にして泣き叫ぶユノを俺はゆっくりと抱き締める。荒い呼吸を整えさせるように、少女が安心できるように、力を込めて抱き締める。


「ひっ…私を…うぅ…助け…ひっ…んっ……くれるのか…?」

「当たり前だ。俺はそのために授かったもんがあるんだよ。お人好しの、それも幼女な神様に貰った『ズル』がな」

「な…なんだ…それ…ふふっ…」


 ユノが笑う。

 やっぱり女の子には、笑顔が似合うんだよ。


 さて、じゃあ一人の少女のために、頑張りますか。



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