第58話俺がサキュバスを討伐するならばっ!

 チュンチュンと鳥が鳴く声がする。

 俺は朝になったのを確認して布団から体を起こして背伸びする。


「ふぅ、朝か。」


 違和感を感じて布団をめくると、二人の幼女がうずくまるように眠っている。


「ティア、メア。なんで俺の布団に入ってる…」

「ん…おはよう?」

「眠いのだ…あともう五分…」


 こらこら、朝が忙しい高校生の言いそうな言葉を言うな。


「二人とも自分の布団があるだろ」

「ん…気が付いたらこの布団の中にいた」

「んぅ…眠い……眠いぞぉっ!」

「急に叫ぶな…ほら、起きるぞ。」


 二人を揺すって起こす。まったく、お前らそんなに朝に弱かったか?

 と、思っているとドアがノックされてニーアが入ってくる。


「三人とも、もう起きたかナ?……てええぇぇぇっっ!?」

「おはよう、ニーア。」

「ん…おはよう」

「むにゃむにゃ……」

「い、一緒の布団で寝た…のカ?…ええぇぇぇっ!?」


 ニーアが入ってくると目を見開いて驚きの声をあげる。おぉ、ニーアってそんな大きい声出すんだな。


「待ってくれ、すぐ起きる」

「わ、わかっタ、待ってるヨ」


 ニーアがドアを閉めるとドタドタとあわただしく廊下を走っていった。何かあったのか?



「今日はサキュバス倒しにいくぞ」

「なんだ、結局仲間にはしないのか?」

「どっちでも…ついていく」


 ニーアに食事を作ってもらい、みんなで食べ終わったあとに二人に告げる。


「なんダ、もう出ていくのカ?」

「あぁ、ニーア。サキュバス倒して魔道具ゲットするんだ」

「そうカ、しかしサキュバス…スルガは男の子だが大丈夫なのカ?」


 心配そうな目をしてこちらを見る


「まあ、なにかあってもこいつらが何とかしてくれるさ。」


 俺はティアとメアに視線を向ける。


「ん…?あるじは…ティアが守る」

「まあ、助けてやらんこともないかな!!」

「メアもいつの間にか俺に懐いたよな」

「…………うるさい変態!」


 ははは、照れ隠しか。バレバレだぞ。


「仲が良いんだな。」

「ああ、大切な仲間さ。」

「これで変態じゃなかったら我もよかったんだがな。」

「変態じゃないあるじは…あるじじゃない」

「なにその謎の信頼」


 変態じゃない俺は俺じゃないって、つまり俺が変態なのは絶対ってことか?いくらティアでもその発言は許せんな?


「ティア、俺は変態じゃないぞ!あ、ニーア、距離取らないで。」

「あ、すまなイ。つい…」


 つい、なんだろうか。

 俺はその言葉の続きは気になったが、それ以上ニーアが口を開くことはなかった。



「よし、行ってくるよ。」

「またなー!」

「ん…また料理教えて」

「分かっタ分かっタ。無事に戻ってきてくレ。」


 俺たちはニーアの工房を出て、トバリのダンジョンへ向かった。




 昨日と同じように道を辿っていき、トバリのダンジョンの下層へ着く。うっすらとしか目の前が見えない


「そろそろだな、相変わらず暗い。」

「ん…ヒカリゴケがいない……光よ、ライト」


 ふわりとティアの手から明るい光が浮かぶ。


「ここまでの下層には人間が来ないからだろうな、養分が足りないからうっすらとしか育たないんだろう。」

「モンスターは養分にならないのか?」

「なるけど、人間ほどじゃない。ほら、あそこでモンスターが戦いあってるだろ?」


 メアが指を指すと、その先でオークみたいなモンスター同士が戦っていた。


「ウグゴッ!?」


 片方のこん棒がオークのこめかみを捉えた。そのままオークは地面に倒れ込む。

 勝ったほうは勝利の余韻からか雄叫びをあげている。


「ふむ、で、どうなるんだ?」

「まあ見ておけ。」

「ん…始まる」


 何が?と言う前にオークに動きがありそっちに注意を向ける。


「ガブッ!ガブ…ガシュッギュイッガリィ!」


 オークは死んだ仲間を食い貪っている。


「まじかよ…仲間だろ…」

「モンスターってのはあんまり人間を食べない。もちろん食べるところは食べるが、モンスターとちがって人間は味が濃すぎるからな」

「どういうことだ?」


 メアに聞き返すと、すこし嬉しそうにして話し出す。


「人間は料理するだろ?塩をかけたりソースをかけたり。それは微量ではあるが、肉体に残るもんなんだ」

「なるほどな、それが濃すぎるわけか」

「そうだ、モンスターってのは大概そのまま食べる。料理をするなんて人間か上級魔族みたいなものだけだ。そう!我みたいにな!」


 メアが胸を張って大きい声を出す。


 要は、モンスターは大概全身食べられるから養分として吸いとれる部分が少ないが、人間は大体からだが残るから養分として蓄えられやすいわけだ。


「ん…それに、人間はモンスターと違って皆魔力を持ってる……特に冒険者は…魔力がなければやっていけない」

「そういう部分も相まって人間のやってこない下層はヒカリゴケが少なくなるわけだ」

「ん…それは下層へ行けば行くほど顕著にいなくなっていく」


 納得だ。だからヒカリゴケは少ないのか。今も辛うじて数メートル先が見えるぐらいだ。最初の方はほぼすべて見ることが出来たのだが。


「あ、階段だぞ」

「やっとか。」

「ん…気をつけて」


 ティアが先行して進み、下層へと潜っていく。正直俺も探知出来るけど、そうすればティアの出番が無くなるので先行させる。



「あらぁ、いらっしゃい。」

「久しぶりだな。一ヶ月は会わなかった気がする。」

「おい人間、昨日の出来事だぞ。」

「え?なんだって?」


 あ、そうか。昨日の出来事だったよな。なんでか一月も経った気がしてしまったんだよな、なんでかな?


「ん…一ヶ月以上待たせて…ごめんなさい…」

「なにかいったかティア?」

「なんでもない…」


 俺たちは最下層のボス、サキュバスの部屋まで来た。そしてこれからサキュバス討伐が始まる。


「昨日は悪かったな、途中で帰ってしまって。」

「別にいいわよ?どうせ来ると思ってたし」

「今日は帰らないからよ。帰るのは、お前だ。」


 俺は部屋の中心で椅子に座っているサキュバスに向かって走り出す。


「土にな!!」

「あらこわい」


 サキュバスはひょいっと避ける。もちろん本気でやっているわけではない。


「昨日はあんなに弱腰で攻撃する気なんかないとか言ってたじゃない。どうしたの?」

「何を言ってるか分からんなぁ!」


 俺は追撃しようと拳に力を入れる


「頑張れよー人間ー。」

「ん……頑張れ、頑張れ」


 ちなみにティアとメアには俺がサキュバスを倒すのを待ってもらってる。だって二人がいたら魔法打ってナイフで切って終わりじゃん?俺も強いやつと戦いたいのよ。


「うふふ、そんなんじゃ当たらないわよ。じゃあ私もいくわ」


 サキュバスが俺の追撃をひょいひょい避けながら魔法を放ってくる。


「ふん!邪魔だ!」


 俺は飛んでくる火球を籠手を着けた拳で。すこし熱いが、問題なく弾くことができる。


「なにそれ!面白いわね!魔法を弾くなんて普通出来ないわよ!」

「喋ってる余裕あるのか?」


 俺は火球を弾きながらゆっくりと近付く。


「『身体強化(フィジカルバースト)』」


 俺の体から淡い光が輝き出す。


「あら、身体強化の魔法ね。これは私も本気でいかないとダメかしら。「『魔力強化(マナバースト)』」


 サキュバスの体からも淡い光が溢れ出す。それと同時に火球の大きさと勢いが増す。


「おぉ、凄いな。」


 素直に感想を声に出す。だけど、俺にそんなのは意味がない。


「悪いけど、そろそろ終わらせるよ」

「はい?それは私のセリフよ!あとでゆっくり栄養にしてあげる!」


 サキュバスがもっと大きい火球を飛ばしてくる。更に周りから火柱が立つ。

 俺はそれぞれを避けながら、また避けれないものは弾きながらどんどんサキュバスに近付く。


「なに!?効かないの!?」

「悪いな、俺は弱くないんだ。ただ女の子には優しいから、軽くしてやるよ」


 俺は全力で床を踏み抜き反動で一瞬にしてサキュバスの目の前までいき…


「ぐがぁっ!?」


 腹を殴る。意識が飛ぶくらいの強さで。


「はい、終わり。」


 サキュバスは腕の中でぐったりとして俺にもたれ掛かってくる。


「あ、終わったのかー!?」

「ん…お疲れ様」


 メアとティアが手を振ってくる。俺も手を振り返す。


「これでお宝は俺のもん…」

「だめよぉ、油断したら」


 不意に腕の中のサキュバスが動き、抱きついてくる。


「ッ!?」


 距離を取ろうとするがサキュバスはキツく体に絡み付き離れない。


「これでおしまい。『魅了音声(チャームボイス)』」


 サキュバスが耳元で呟く。


「ふふ、これで堕ちたわ。この男は。」

「…………」

「『魅了音声(チャームボイス)』を聞いちゃうと、男は全て下僕になっちゃうの、ごめんなさいねぇ」


うふふ、と上品に笑ってサキュバスは俯いているスルガの頬に触れる


「……」

「それにしてもびっくりね、この男。強すぎよ。まあでも、女に弱いっていうのはバカね。最後に油断さえしなかったらあなたの勝ちだったのに…ほら、下僕、あの銀髪の女の子たちを倒してきなさい。」


 サキュバスはスルガに向かって命令を下す。


「…………」


 しかしスルガが動くことはない


「……?ほら、下僕よ、あそこの奴隷二人を倒してきなさい。命令よ。」


 サキュバスは首を傾げてもう一度声をかける。

しかし依然としてスルガに反応はない。


「ちょっと!聞いてるの!?早く動きなさいよ!このポンコツ!」


 サキュバスがはやし立てる。


「ん…お茶美味しい…ね」

「そうかぁ?我はジュースの方が…あ、そこのサキュバスとやら。そんなことしても意味ないぞ。その人間には『魅了音声(チャームボイス)』の効果はないからな」

「は?何を言って…」


「作戦通り、だな」

「え?」

「捕まえたッ!」


 俺はサキュバスを腕で拘束した。もちろん抜けられないようにがっしりとな。


「な、なんでっ!?私の『魅了音声(チャームボイス)』が効いてないの!?」

「あ、悪いな、何言ってるか分からないんだ。」


 俺は自分の耳に指を突っ込んでを取り外す。


「あー、無音の世界ってのも味気ないもんだな。」

「なっ!?耳栓!?」


 そう、俺は耳栓をしていたのだ。

 時はすこし遡る。



「サキュバスに男が勝つことって難しいのか?」


 俺は階段を降りながらメアに尋ねる。


「そうだな、不利というのは確かだな。」

「ん…なんで?」

「ティアも知らないのか。サキュバスには『魅了音声(チャームボイス)』というスキルがあるのだ。」

「『魅了音声(チャームボイス)』?」


 俺は首を傾げておうむ返しで聞き返す。


「そうだ。簡単に言えば男限定でに服従させるスキルだな。耳元で囁かれると男は操られるようになるのだ。」

「だから不利なのか?」

「それもあるし、女性のからだで真っ裸で、ついでに色気もある。男としては戦いにくいことこの上ないらしいぞ。」

「ん…不安…」


 それは何にたいしての不安なのかなティアさん?


「『魅了音声(チャームボイス)』に関しては耳栓すればいいんじゃないか?」

「そうだな、その通りだ。」

「あとは女を攻撃できるかどうかってことか…」


 俺は自慢じゃないが、生まれてこのかた女を殴ったことはない。いや、当たり前ではあるのだが。親から女は殴るなと言われていたからな。


「んー…なあ人間。」

「なんだよ?」

「サキュバスって、普通に男のを持ってるぞ。」

「あれってなんだ?」

「おちんちん」

「ブッ!?」


 突然のカミングアウトに吹き出してしまう。え?あるの!?マジで!?


「ていうかそんなことば使っちゃいけません!」

「えぇ…そこ?サキュバスは性の魔族だからな、両方の特徴を持ってるんだぞ。」

「でも前に見たときはそんなモノは無かったぞ!?」

「着脱式だ」

「着けたりはずしたり出来るの!?」

「まぁ、要はアレが着いてるということは」

「…つまり?」


 俺は生唾を飲み込み、次の言葉を待つ。







「オカマだ」


 俺はサキュバスの討伐に一切の迷いがなくなった。



「『魅了音声(チャームボイス)』は耳元で呟かなければ効果は発動しない、そうだろ?」

「ぐぬ…」


 俺の腕の中のサキュバスは悔しそうな声を出す。身長差があってさらに拘束されている状態なので、サキュバスが耳元にまで来ることは出来ない。


「…なんで知ってるのよ?」

「ほら、あそこでお茶している俺の奴隷がいるだろ?紫の髪の女の子の方、あれサキュバスの血を継いでるんだよ。」


 俺がメアを指差すとメアはどうだといった顔でこちらを見つめ返す。


「あれが?」

「あれがとはどういう意味なのだッ!?」

「残念ながらあれがだ…」

「おい!?人間!フォローしろよ!!」


 だってなぁ、そんなフラットな胸していて、更に幼女体型。どこがサキュバスなんだよ?


「で、私をどうするの?」

「…………考えてなかったわ」

「なによそれ」


 呆れたようにサキュバスが呟く。


「もういいわ、好きにしてちょうだい。煮るなり焼くなり、お好きにどうぞ。」

「え!?好きにして良いのか!?」

「人間、動くなよ?殺すぞ?」

「あるじ…それはダメ」


 俺の背後にティアがナイフを構え、目の前でメアが俺に指を向けて魔法の準備をしている。


「お、俺の童貞卒業チャンスが……」

「なんかムカつくからダメなのだ」

「あるじが心配しなくても…ティアが…」



「プッ……フフフ……アハハハハハ」



 腕の中のサキュバスが急に笑い出す。


「ど、どうした?」

「あはは……もう涙出てきちゃうわ……あぁもうダメ。おかしい……ふふ」

「壊れたのか?サキュバス?」

「ん…壊れた?」


 壊れたとか物騒なこと言うのやめなさい。


「ふぅ、あなたたちほんと何者よ。そこの奴隷ちゃん二人も強そうだし…」

「ただの旅人だよ」

「おい人間、かっこつけるな」

「ん…ティア、強そう?」


 いつの間にかサキュバスからの敵意が無くなり、俺は拘束を解いて、しばらく話をするのだった。








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