第56話俺がティアに嫌われたならばっ!

「まだなのかー…我は腹が減って仕方がないぞ。」


「そうだな。ちょっと見てくるか。」


 10回クイズを出してもまともな答えは返ってこないのでもうやめた。暇すぎるのでティアの様子でも見に行く。


「よっこらせっ…と。」


「じじくさいのだ。」


 座っていた体を持ち上げると、メアがいう。うるさいな、癖なんだよ。いいだろ別に。

 ティアが出ていった扉を開けて道なりに進む。すると明かりが漏れている部屋がすぐに見つかった、多分ここだろう。


「ティアー、夕食はまだかなー?」


 ドアをノックして声を掛ける。ふふ、俺は紳士だからな、急にドアを開けるなんてことはしないのさ。


「……!…入ってきたら…だめ…!」


「ぐはっ!!?」


 拒否された!?ティアにこっちにくるな変態って言われた!?……ダメだ…死のう。ティアに嫌われたら俺は死ぬしかない。


「そ、そうか…じゃああっちでままままま待ってるるるよ…」


「ん……」


 フラフラとおぼつかない足取りで部屋に戻る。あれ?おかしいな…目から汗が…

 震える手でドアを開けて部屋に入ると、さっきと変わらない姿勢のままメアが寝転がっていた。


「ん…人間、飯はまだ…人間!?」


「ああ、もう少し掛かるみたいだ…」


「いやいや!泣いてるじゃん!?だ、大丈夫なのか!?どこか痛いのか!?」


 メアは目を見開いてサッと立ち上がる。

 メアが優しい…ああ、汗が止まらないよぉ。


「大丈夫…ちょっとティアに嫌われたかもしれないだけだから…」


「そんな馬鹿なっ!?」


 昭和風に体を後ろに引いて驚く。


「一体なにをしたんだ…?」


「分からん…ただとびらをノックしたつもりだったんだが…これが思春期か。」


「いやそれは違うと思う。」


 でも一体なぜあんな急に嫌われてしまったんだ…なにかしたっけ…


「はっ!まさかあのときの覗きが……」


「覗き?」


「嘘だ。そんな覗きなんてハハハ紳士の僕がするわけ…」


「どうだった?」


「神々しかった………………謀ったなッ!?」


「やっぱり変態じゃないか!嫌われて当然だぞ!!」


 ぐぐぐ……なにをしたかは分からないけど…ここは謝っといたほうがいいな……はぁ。


「まぁ…人間、そんなときもあるさ。気にしても仕方が…」


「飯が出来たゾ。」


「待ってましたぁッッ!!」


「変わり身の速さっ!?」


 俺の肩に手を置こうとしてくれたメアの気遣いは空の彼方ッ!!タイミング悪すぎぃッ!


「ん…あるじ?泣いてる?」


 ニーアの後ろからひょこっとティアが出てきて、俺の前までくる。やめてくれ…こんな女々しい俺を見ないでちょうだい…


「ん…えとね…そのね…あるじ……これ。」


「え?…チョコ?」


 ティアがもじもじとして、取り出したのは一口サイズの美味しそうなチョコレートだった。


「フフ、ティアちゃんが君のために作りたいっていうからサ。時間が余計に掛かっちゃったんダ。」


「…………」


「ん……あるじ…?」


 俺は何を悩んでいたんだろうか…そうだよ、ティアが俺のことを嫌いになるなんてあり得ないじゃないかッ!!誰だよ!ティアが俺のことを嫌いになる何て言ってたやつはっ!!


「うぉぉーーっ!!愛してるぞティアー!!」


「んむ…………あるじ…苦しい…えへへ。」


 抱き締めてもいいよな!?いいだろ!?てゆうかもう抱き締めてるし!!こんなんどうすりゃあええねん!!


「ほラ、ティアちゃんが作ったチョコ、溶けちゃうゾ?」


「家宝にしますっ!!」


「溶けると言っているんだガ…」


「なぁ…青年が幼女を抱き締めている姿って、アウトか?セーフか?」


「ん……セーフ…?」


 セーフに決まっているだろう!大好きだよティアちゃん!!よしよしよし。


「なぁ…青年が幼女の頭にスーハースーハーと変質者の如く息を荒くしているのは…アウトか?セーフか?」


「ん……セーフ…?」


「アウトだよぉッッ!!?」


 メアが声を大きくして叫ぶ。さっきからこいつは一体なにと戦っているんだ。


「世の中の最悪の災厄となのだ…」


「フフ、騒がしいのもいいガ、そろそろご飯を食べないカ?」


 ニーアが軽く笑って食事を進める。そうだ、お腹が空いてるんだった。

 少し小さい食卓に、ハンバーグのようなものと白飯が置かれる。いやごめん、小さいとか言ったら悪いけど。


「すまないナ。父と二人で食べていたから狭いんダ。」


「ああいや、そんなことはないぞ。これぐらいが丁度いい。ほら、ティアを膝にのせたら良いぐらいだろ?」


「ん……いい高さ……」


「そう言ってくれたらありがたいヨ。」


「膝の上にのせるのはセーフだよな…?」


 敏感になりすぎだぞメア。

 ちなみに、ティアに貰ったチョコは全力で惜しみながらも食べた。その味はとても甘かったけれど、その中にしょっぱさが混じっていたことは言うまでもない。


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