俺がシュロンまで走っていくならばっ!

「なぁ…まだ着かないのか?そろそろ本格的に疲れてきたのだ…」


「もう少しだって。多分。きっと。そのはず。なんとなく。……やっぱまだ掛かるわ。」


「諦めるな!最後まで信じさせろ!!」


 シュロンを目指して俺たちは今日も走っていた。この前は本当にびっくりしたもんだ。料理魔法があるのもそうだがメアが使えるって言うのもビックリしたよ。


「料理魔法ってどうやって使うんだ?」


「なんで走りながら…そんな喋れるんだ…人間は…」


「ん…メアも…喋れてる…」


 ちなみに四六時中走り続けている。メアとティアには疲れたら休むから言えよと伝えてあるのだがプライドが邪魔して言えないらしい。ここらで休むか。もう昼時だ。


「ふぅ、流石の俺も疲れてきたよ。休ませてくれないか?」


 その辺の木の下に座り込んで荷物を下ろす。旅に出る前に用意した水筒などを出して昼飯の準備に取りかかる。


「なに?…わはは!仕方ないな!…はぁ…人間は体力が少ないのだな!!…ぜぇぜぇ…」


 全然言えてないよー?

 しかし意外なのがティアが全く疲れた様子を見せないことだ。もちろん体力が無いようには思ってないけどメアよりも大分体力があるみたいだ。


「ティアはなんでそんな疲れてないんだ?メアは息切れ激しいけど。」


「はぁ…はぁ…なに!?我は…息が切れてなんかないぞ!…それは人間の…はぁ…方だろ!」


 息絶え絶えじゃねえか。


「ん…10日間くらい…走り続けたことがあるから…効率的な走り方…してる。」


「アクティブ過ぎるだろその10日間!?」


「なぁ!なぁってば!…我を無視するな!」


「何があったんだその10日は?」


「ん……………秘密…にしたい…」


「そうか、言いたくなったら話してくれよ。」


 ティアが俺に秘密にしたいことがあるなんて珍しい。ここで追求するほど俺は野暮な男じゃない。話したくなったら話してくれたら嬉しいな。


「うぅ…我を無視するなぁ…」


「涙目じゃん!ごめんごめんごめん!」


 放置し過ぎたらメアが泣いてしまった…遊びすぎた。これはやってしまったかもしれない。


「ほんとごめんって!あぁそうだ!今日もメアの料理魔法見てみたいなー!俺使えないから憧れるなぁ!な?ティア?なぁ!?」


 頼む!合わせてくれティア!通じるだろ?俺たちの仲だ!俺の欲してることに気付いてくれ!


「ん…?…は…!…分かった…!」


 よっし!気付いてくれた!これでメアの機嫌も……


「メア…あるじが…裸見たいって…」


「……え?はだか……?」


「ティアさん!?おかしいよね!?」


 お約束!?ここでお約束ですか!?ネタはいらないから!頼むからフォローに回ってくれよ!


「ん…違う?」


「ちがう!それだけじゃないんだ!」


「それだけってそれもあるのか…」


「ん…!ティアも…脱ぐ…!?」


「ボケはもういらないよ!?」


 おかしい、ティアの俺への認識が空の彼方にフライアウェイしている。そんな高度な変態じゃないよ俺は?


「なんか泣いてるのもバカらしくなってきたのだ…料理魔法掛けてやったぞ…食べろよ、我はいらないから。」


「食いしん坊キャラが崩れてらっしゃる!?」


「ん…いただきます。」


 マイペースだよティアさん!!俺もそんな風になりたいなぁ!!


 そんなこんなで賑やかに、緩やかに、俺たちは昼食を取ってまたシュロンを目指して走っていった。





 平原を走り抜けていると壁に囲まれた町が見えた。ギルド証から出る光はその方向を示している。立ち止まって二人に話しかける。


「お、見えたぞ。あれがシュロンか。」


「やっと着いたのか…?もう平原は見たくないのだ…」


「ん…ダンジョンは…平原の形状をしているのも…ある…」


「絶対我はそこには行かんからな!!二人で行けよ!!」


 平原のダンジョンとかもあるのか。洞窟のイメージがあったが…ダンジョンってのは不思議だな。まあ異世界だから何があっても驚かんよ。


「ちなみに…サキュバスとかも…いる…」


「マジかよ驚いた!!」


「二秒前を思い出せ人間…」


 そんな異世界で会いたいモンスター男性ver堂々第一位の存在を知れば誰でも驚く。


「それに我もサキュバスの血は継いでるぞ。」


「は?」


「我のカストール家は色んな魔族の血を継いで最強の子孫を残すことで繁栄してきたからな!我にも最強のでぃーえぬえーが継がれてるのだ!」


「ん…すごい…」


「慣れない言葉使うから小学生が覚えたての英語を喋ってるみたいになってるぞ。」


「うるさいな!」


「ていうかサキュバス?その体で?」


「なんだよ!文句あるのか!?我だってこのまま育ったらボンキュッボンのナイスバデーになってやるんだからな!」


「おうおう見せてみろよそのキュッキュッキュを体現したような体つきでな。」


「ムキーッ!見てろよ人間!すぐ成長してから人間をメロメロにしてやるんだ!」


「ははは、良いジョークだ。かなり大爆笑。」


「バカにするなよ!今日から牛乳もっと飲んでやるからな!」


 そういう発想がもうアホの子なんだって。というか牛乳飲んだら大きくなるって情報を知ってるのか、流石メアちゃんだな!よしよし!え?馬鹿になんかしてないよ?


「ん…ぼんきゅっぼん…」


「ティアはそのままでいいからな?」


 ティアが自分の胸を見下ろしている。無表情のはずが何故か哀愁が漂っていてこっちが悲しくなる。

 ティアが大人になったりしたらその色香に寄ってくるハエどもの駆除にどれだけ手間が掛かるか…ティアの大人の姿か。楽しみだなぁ…うへへ。


「おいここにハエが一匹いるぞ。」


「ん…かわいいハエ…」


「可愛くないだろこんな人間…表情から考えてること丸分かりだぞ…」


「そんなバカな!」


「お前が一番バカだぞ!」


「ん…早くシュロンに…行こう?」


 メアと少しだけ仲良くなりながら、俺たちはダンジョンに潜るべくシュロンに向かっていった。






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