メアが奴隷になったならばっ!
「あ!駿河さんじゃないですか!」
「おぉ!ノノさん、こんばんは。」
言われたように食堂で座っているとノノさんが夕飯を運んできてくれた。持っている皿の上を見てみると今日の夕飯と思われるグラタンが乗っていた。美味しそうだ。
「なんだこれ?人間はこんなものを食べるのか?」
「こんなものって…あれ?ティアさんじゃないですよね、新しい奴隷さんですか?」
「あぁ、まあそんなところだ。メアっていう。」
「そうだぞ!奴隷と認めるのは癪だが我はあの誇り高きカストール家の」
「はいストーップ!ほら美味しそうだなメア?早く食べよう。な?」
こいつ自分から魔族ということをばらそうとしたぞ。危ない危ない。あとで注意しとかないとな。こんな公の場で魔族なんてバレたらどうなるか。
「こんなの食べたことないぞ?」
「まあまあ、いーからいーから。」
ノノさんが見つめてきていたが、メアは頭が弱い子だからとなんとか説明して仕事に戻ってもらった。これで大丈夫だろう。犠牲は少ない。
「ん……いただきます。」
「いただきます。」
「いただきます?なんだそれ?儀式か?」
「そうか、メアも知らないよな。これは食材に感謝してるんだ。生きるために命を貰うから、ありがとうってな。」
「ふぅん。人間はそんなことを考えながら飯を食べるのか。やっぱり不思議だ。」
まあいただきますはこの世界の習慣にはないけどね。いんだよ、俺の日本にいた記憶だ。
「す、スプーンとはこうやって持つのか?」
「ん…そう。こうやって手ですくうようにして食べる。」
「こうか?こうだな?」
「仲良いな、二人とも。俺も混ぜてくれ。」
「うるさい!ティアと我が話してるのだ!お前は入ってくるな!」
わお、すごい嫌われちゃってるや。いやそりゃそうか。無理やり奴隷にされたんだもんな、こんなもんで済んでるのがいい方なのかもしれない。
「メア……怒っちゃ……だめ。」
「うぐ…だって……」
「いいよ、ティア。仕方ない。」
「ん…そう?」
無理やりしつけたところで仲良くなれる訳じゃない。俺はそんな関係は嫌だ。奴隷と主でも信頼関係はあってしかるべしだ。
メアにスプーンやら箸やらフォークの使い方を教えながら夕飯を食べ、少しでも仲良くなるためにいろんな話をしていると、時間はすぐに過ぎていった。
●
「食べ終わったな?じゃあごちそうさまだ。」
「ん……ごちそうさま。」
「ごちそうさま……?それもまた食材への感謝か?」
「あぁ、グラタン美味しかったろ?だからまあ美味しかったよありがとうって感じだ。」
まあ意味合いは違うかも知れないがスマホも辞書もない今、それを調べる術はないのだ。便利なもんだよスマホやパソコンとかは。
「うん、人間が作ったものとは思えないくらい美味しかった。ごちそうさまだ。」
「魔族……いやメアはどんなものを食べて暮らしてたんだ?」
「我か?我は…人肉を◯◯◯したものだったり◯◯を引きちぎって中の◯◯を砕いたやつとか、◯◯」
「悪かった!聞いた俺が悪かった!」
「ん?そうか?まあこのグラタンの方が美味しいから、これからはグラタンを食べるのだ。」
グラタン以外にも美味しいものはいっぱいあるからな?今度は二人をつれて町中を食べ歩きでもしてみるかな。
●
さて、部屋に戻ってきたわけですが。今思えばメアもティアも、まだ風呂には入ったことがなかったんだったかな?ティアに関しては風呂に入る前に寝ちゃったんだよな。
「よし、二人とも。風呂入るか。」
「ん……入る。」
「風呂?なんだそれは?」
「厳密に言えば違うが、水浴びみたいなものだ。メアは知らないことばっかりだなぁ全く。」
「し、仕方ないだろ!人間界で留まることなんて生まれてはじめてなのだ!」
「そうか、生まれて何年くらいだ?」
「我か?我はまだ12年くらいだ。」
「ティアは?」
「…13」
ふむふむ、なるほどな。じゃあまあギリギリ…おっけーかな!!なにがって?まあ見とけって。
「二人ともついておいで、風呂にいくよ。」
「ん。」
「わかったのだ、風呂というやつを見てみたいのだ。」
好奇心旺盛なのはいいことだ。風呂はいいものだぞ?からだの疲れを癒してくれる優れものだ。いつか日本にいた頃には30分以上入っていたこともあったな。
そういえば日本に帰ることって出来るんだろうか?未練がないわけでもない。往復できたら面白いのにな。
「あ、タンタさん。お風呂借りてもいいですか?タオルも一緒に。」
廊下を歩いていると都合よくタンタさんがいたので、風呂に入る許可を貰う。せっせと働いて、忙しそうだ。休まなくても平気なんだろうか?
「あいよー、三人分だね?後で受け付けに来てくれたら料金貰うから先入っといで。」
「わかりました。ちなみにこの子たちと入ってもいいですか?」
「……ん!?」
「に、人間!?」
「え?あぁ構わないよ。まあお嬢ちゃんたちがどういうかは知らないけどね。あっはっは。」
珍しく驚いた顔をしたティアといつも驚いているメアが声を上げた。
「だって幼女を二人だけで風呂にいかせるなんてなにかあったら心配だろ?ほら、変態だっているかもしれないしな。」
「ん…そう…なの?」
「変態なら前にいるんだけど…」
「メア?なにを言っているんだ?」
「奴隷と主の会話じゃないねぇ!」
タンタさんは腹を抱えて笑っている。こういう関係もいいだろう?主従関係を押し付けるなんて俺のセンスに反するね。
「幼女を守るためなら変態と言われても構わない!」
「全然かっこよくねぇ!」
「変態の汚名を受ける勇気っ!!」
「か、かっこいい!我の裸なんていくらでも見せてあげようと思えるくらいに……ってならねぇよッッ!!?」
メア。ボケツッコミを覚えるなんて…お父さん嬉しいぞ…
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