閑話 今日がバレンタインデーならばっ!②

「はい、じゃあまずは手を洗うわよん。念入りに、菌が入らないようにするのよ?」


「「「はーい。」」」


 準備に取り掛かったフリコたちを俺はどこからともかく現れた椅子に座り込み、眺めている。


「あらぁ、ティアちゃんもメアちゃんも、みんな綺麗な手をしてるわねぇ。羨ましいわん。」


「ん…あるじがお風呂に…入れてくれるから。」


「気持ちいいよなー!」


 ふふ、自慢の二人だからな。毎日毎日、俺がお風呂で洗ってやっているだけある!隅々までな!!


「この変態がっ!!」


「ありがとうシエル、最高の褒め言葉だよ。」


 ナチュラルに心を読むシエルさん。うん、まあこの別次元だけだからね。


「じゃあ次にこのチョコレートを細かく刻んで溶かしていくわよん。」


「ん…わかった。」


 もちろん、チョコレートも突然空間に現れます。ついでに言えばボウルとかもいつの間にかあります。あ、突っ込みは禁止ですよ?


「お湯と刻んだチョコレートをボウルに入れて混ぜていくわん、どろどろとした感触になってきたら、型にはめるわん。ハートマークでいいかしら?」


「なんでハートマークなんすか?」


「我は一杯食べたいからもっとでかい型がいいのだ!」


「あら、駿河ちゃんに愛情を伝えたいならハートマークが一番よ?」


「伝えたい殺意ならありますっすけどね。」


「ん…ティアは…ハートマーク。」


「おい、あそこの座ってる人間がニヤニヤしだしたぞ。どうしてくれる。」


 おっと失礼。俺の表情筋はロリっ子に弱いんだよなぁあはは。


「まあ、適当に型にはめたらこの冷凍庫に入れて固めるだけよ!簡単ね!」


「ん…わかった。」


「固めるなら氷魔法でいいんじゃないのか?ほら。」


 あ、バカメア!こいつ、やりやがった!チョコレートが固まったけどどっから見ても食べられるほどの固さではない。やりすぎだって…


「仕方ないわね…また作り直しよ……」


「うぅ…悪かったのだ……で、でも炎魔法で溶かせばいいんじゃないのか!?」


 メアが火炎魔法を発動し、燃え盛る炎がチョコごと氷を溶かす。


「あらあら…まあ時間はあるからいいわん。次はもうしないでねん?」


「あの、自分はまずメアさんの使った魔法についてツッコミたいんすけど…なんで氷魔法やら炎魔法やらをあんな簡単に……」


「ごめんなさいなのだぁ!!ふぇーん!」


 あぁ、泣いちゃったよメア。ううむ、仕方のないメアちゃんだな。


「メア、こっちにおいで。」


「うん…」


「よしよし、メアは手伝いたかったんだよな?皆のためを思っての行動だったんだろ?ならもう謝ったんだから気にする必要はないぞ。そんなことで怒るようなやつばっかりじゃない。なぁティア。」


「ん…メア、よしよし。」


「んぅ……ごめんなさい…ごめんなさいなのだぁ。」


 ははは、そんなに泣いたら可愛い顔が台無しだろう?ほら、いつもの愉快に笑っているメアになれって。


「よし!フリコ!シエル!ティア!チョコをもう一回作らせてくれ!」


「うふふ、分かったわん。」


「仕方ないっすね…速く作り直すっすよ!」


「ん…頑張る……えいえいおー。」


 なにそれ可愛いティアさん。ていうか、シエルとメアって面識あったっけ?シエルは一応メアのことを見てはいたけど、それも気絶していたときだけだし、メアも寝ていたからシエルを知らないはず……まあいっか!別次元だしな!!






「そろそろ固まったわねん。」


 フリコが冷凍庫からチョコを取り出す。いくつかのチョコが可愛く飾られている。


「じゃあみんな、駿河ちゃんに渡しにいくわよ?」


「おぉ!待ってました!ほら!速く!」


「こんなやつにチョコをあげないとならないのか…」


「自分はなんだか情けなく思えてきたっす。」


 そんなこと言わずに、ほら。俺は待ちわびてるんだからさ!


「ん…あるじ。これ…ちょこ。」


「ティア!ありがとうっっ!俺はこのために異世界に来たといっても過言ではないっ!!」


「えへへ…本命ちょこ……だよ?」


「本命!!なんという甘美な響き!まるで彼のゆうめいなガブリエルとやらが鳴らすというラッパの音のよう!!」


 あ、でもあれって鳴らしたら世界の人間の大多数が死ぬんだっけ?


「上手いぃぃぃ!この深い甘味の中に絶妙な塩加減!」


「駿河さん…涙出てるっすよ……」


 おいじい!!感想なんて言おうとも思えないほどに!!


「我の分は、ほれ。これをくれてやるのだ。」


「これ…一口サイズというにもおこがましいレベルの大きさなんですけど……」


 多分1センチくらいの大きさしかねぇ!でも美味しいから食べちゃう!!


「シエルはくれないのか?」


「うぅ…自分、料理は料理でもスイーツ系は作ったことないんすよね……」


 シエルは少し崩れた形のチョコを恥ずかしそうに渡してくれる。


「何言ってるんだよ、こういうのはどれだけ愛情が籠っているかが大事なのさ。」


 俺はパクリとシエルのチョコを口に入れる。おぉ、なんという味だ。この苦いような酸っぱいような下味にこれでもかと言うほどの甘さ…そしてたまにやってくるわさびのような辛味……うん、これはなんというか……


「壊滅的なほどの不味さっ!!」


「愛情が籠ってないっすからね。」


 そういえばそうだった!でもこれもまたそういう味のチョコだと思えばなんとか…行けそうにねぇな、トイレに行かせてくれ。


「最後にあたしよぉん!駿河ちゃん!はい、あ~ん。」


「やめろぉっっ!!」


 俺はフリコのチョコを叩き落として叫ぶ。勿体無いことをしてしまった。つい手が滑ったのだ。


「まあ、いくらでも用意してるから構わないわん。」


「えぇ!?」


「ほら、みんなも食べて。美味しいわよ?」


「わほほーい!やったのだぁ!」


「ん、これ美味しいっすね!」


「ん…美味しい。」


 その後はみんなでフリコのチョコを食べた。なんだろう、凄い悔しいけど、一番美味しいのはフリコのチョコだった。なんだこいつ、女子力の塊かよ。見た目は岩石を人の皮で包んだような体をしているくせに。





 その後、みんなが食べ終わったあと、すぐに睡魔が襲ってきて全員が眠りに入ってしまった。


「起きて、お兄ちゃん。」


「ん……まだ起きてたのか?ティア?」


「違うよ、僕だよ。クロエだよ。」


 体を揺さぶられて目が覚める。そこには久し振りに見たクロエの姿があった。


「クロエじゃないか!!久し振りだなぁ!」


「うん、僕も会いたかったんだけど、下界に降りるのは中々難しくてさ。」


「じゃあなんで今俺の前にいるんだ?」


「それは作者さんに頼み込んだからね。僕の分身が。」


 どういう意味だ?分身?なんだ、クロエは木葉の里の出身だったのか?


「それより、さ。ほら、僕のチョコ…食べてくれない?」


「お、おぉ、いいのか。ありがとな!」


「うん、ごめんね、遅くなって。」


「いいんだよ、それにしてもチョコは本命だったりするのか?」


 パクっと一口でチョコを食べる。あ、すごい。これフリコのチョコよりも美味しい。さすが神様。色々なスペックが限界突破グレ○ラガ○じゃないか。


「ほ、本命…て言ったらどうする?」


「そりゃあ嬉しいに決まってるよ!こんなに可愛い幼女から貰えるチョコなんてどんなものよりも尊いさ!!」


「あれ?お兄ちゃんってこんなキャラだったっけ?」


 幼い女の子ってどれほど素晴らしいものなんだろうか、あぁ、このチョコがあれば世界中の戦争はきっと収まるのだろう。いや、奪い合いになってさらに増えるか?


「ふぁあ…」


「ふふ、お兄ちゃんも眠くなってきた?」


「ああ、悪い。満腹になったらつい、な。」


「じゃあ、膝枕してあげよっか?」


「是非お願いします!!」


 そんな誘惑に勝てるはずがないだろう!もし俺が世界の半分か幼女の膝枕かどっちが良いと聞かれたら世界の半分を選ぶくらいに膝枕が大好きだ!!


「あーあ、また暫く会えなくなっちゃうなぁ。」


 俺を膝枕してくれているクロエがポツリと呟く。


「そんなことないさ、俺とクロエは見えない糸で繋がってるよ。そう、運命の赤い糸でね!」


「や、やめてよ…びっくりしちゃうじゃん……」


 クロエは真っ赤になった顔を腕で隠す。おいその動作可愛すぎるだろ……


「ん、眠くなってきた。すまん…」


「よしよし、たまには撫でられる側もいいよね?」


 クロエに頭を撫でられながら、意識を手放す。あー……母さんに会いたくなっちゃうなぁ。父さんも、元気にしてるんだろうか……







「ん…あるじ……目が覚めた?」


 窓から差し込む光に照らされながら、目を開ける。横にはティアが添い寝をしていた。


「おぉ、ティア、ついでにメア、おはよう。」


「ついでとはなんだ人間。失礼だぞ。」


 ティアとは反対側で添い寝をしているメアが怒る。


 そうか、結局夢落ちか…幸せな夢だったなぁ。クロエとも久し振りに会えたしな。


「そういえば…面白い夢を…見た。」


「あ!我もだ!なんだったか忘れたがチョークレートとやらを作った気がするぞ!」


「うん、チョコレートな。もしかしてみんな同じ夢をみたのか?」


 それじゃああながち夢でも無かったのかな?クロエの粋な計らいかも知れない。


 俺は陽の光を浴びながら、目覚めた体を起こして、二人の可愛い奴隷撫でるのだった。








 ちなみにシエルはというと、


「変な夢を見たっすね……………お菓子を作る練習をしとこうかな…」


 人知れずとある宿で、そう呟いたのだった。

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